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ソフィアズカーニバル  作者: 栗木下
第5章:革命の終わり
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第271話「旅立つ蛇-3」

「あらあらあら」

 胸に突き刺さった炎の槍を起点として私の全身に炎が回り、瞬く間に私の身体はリベリオの炎に包み込まれる。

 だが、それほどの勢いであるにも関わらず、私の身体を焼くリベリオの炎は私以外のものに一切の影響を与えておらず、私だけを正確に焼いていた。


「随分と手酷い仕打ちだこと。一応、私は建国の協力者よ」

「建国の協力者であっても、国と民に害を為そうと言うのなら私の敵です。敵に容赦をするつもりはありません」

 私は炎が他のものに影響を与えていないのを良い事に、今座っている革張りの椅子に深く腰掛け、まるで部屋の主が私であるかのように両手を大きく広げてセレーネとリベリオ、二人との会話を続ける。


「そうね。私はそう言う風に貴女を教育した。きちんと学んでいてくれて嬉しいわ」

「これは……」

「やはりですか」

 私の全身を焼いている炎?

 そんなもの気にする必要はない。

 何故ならば……


「『蛇は骸より再(カドゥ)び生まれ出る(ケウス)』……ですね」

「正解」

 セントレヴォル城に居る私は限りなく私に酷似しているが、私ではなく『蛇は骸より再び生まれ出る』で造り出した分身なのだから。


「でも、それなら……」

「ああ、心配しなくても本体にも熱さだけは伝わっているわ。でもね」

 勿論セレーネから事前にその可能性を聞いていたのだろう。

 リベリオは事前の設定によって、私の人形を焼けば、遠く離れた場所に居る私にも炎に焼かれる痛みだけは伝えられるようにしていた。

 それこそ、並のヒトが相手ならばこの痛みだけで悶絶して動けなくなり、場合によっては命も落とすだろう。


「私はね、鉄を溶かすぐらいの炎なら前にたっぷりと……それこそ骨の一欠片まで炎の舌でしゃぶられるぐらいに味わった事が有るの。だから、表皮を焼くだけの炎なんて普通に耐えられるのよ」

「くっ……」

「そんな……」

 だが、その程度の痛みと熱さならば『妖魔の剣(ヒンドランス)』『英雄の剣(ヒーロー)』『ヒトの剣(ヒューマン)』『存在しない剣(ヒドゥン)』の四本を造る時に私は散々味わっている。

 なにせあの剣は使役魔法によって金属の粒を操りながら鍛冶作業を行う事によって造り出した剣なのだから。

 そして、この事実を知らなかったのだろう。

 セレーネはとても悔しそうにしているし、リベリオは呆然としている。


「さて、それじゃあ改めて宣言させてもらうわ」

 さて、二人の良い表情も見れた事だし、耐えられると言っても煩わしいのは確かなので、そろそろ用件を伝えきってしまうとしよう。


「さっきも言ったけれど、私は世界中を見てきたら、必ずこの地に戻ってくる」

「「……」」

「陛下!大丈夫ですか!」

「な、何だコイツは!?」

「全身が燃えているのに話している!?」

 部屋の中の異変を察したのか、バトラコイたち親衛隊の面々が部屋の中に踏み込んでくる。

 うん、これは丁度いい。


「私が再びこの地に戻ってきたら、楽しい楽しい祭り(カーニバル)を始めましょう」

「祭り……ですか」

 バトラコイたちが私の人形に剣を突き入れるが、人形なので当然効果はない。

 なお、リベリオは既に炎を維持することを止めているので、今の炎は何かの役に立つかと体内に仕込んでおいた着火(イグニッション)の魔法による自己発火である。


「そう、祭り。私が帰って来るまでにレーヴォル王国が築き上げた全てと、私が世界を回って得た全てを使った楽しい祭り」

「……」

「うわっ!?」

「ぐっ……」

 と言うわけで、革張りの椅子が燃え始めた所で、私は周りからの攻撃の全てを無視して、部屋の中に造られた窓へと移動を始める。

 いつの間にか使役魔法の対象が土から火に移ってしまっている感覚もするが……まあ、問題はないだろう。

 土も火も非生物であることに変わりは無いし、使役魔法で複数契約が禁じられているのは感覚の混線や混同が問題になっているからで、私にとっては今更に近いのだし。


「妖魔は妖魔らしくヒトを喰らい、英雄を殺す。ヒトと英雄はヒトらしく、英雄らしく妖魔を殺す。そう言う祭り」

「……」

 私は窓に腰掛ける。

 確かこの窓は中庭に通じているはずなので、今中庭に居る人々には全身を燃え上がらせている私の姿はとても目立つ事だろう。


「ま、安心しなさいな。祭りの開催はどれほど早く見積もっても百年以上先の話。今この場に居る者は誰一人として生きてはいないわ」

「「「……」」」

 そして、私の思惑通り、中庭では既に騒ぎが始まっており、様々な人々の声が私の耳に届いている。


「精々、一時の平穏を、輝かしき日々を、己の赴くままに謳歌して、次の代へと繋げるべきものを繋げていきなさいな。その全てを私が奪い取ってあげるから」

「「「……」」」

 親衛隊の誰かが生唾を飲むような音を発し、恐怖の表情を浮かべる者も居る。

 だがそんな状況でもセレーネには顔色を変える様子がまるで無い。

 ああ、やはりセレーネを選んで正解だった。

 これならその子孫たちにも期待が持てるという物だ。


「我が名はソフィア。レーヴォル王国よ!セレーネ王よ!私は貴女の偉業を祝福しよう!!」

「「「……!?」」」

 そんな確信を抱けた私は炎の勢いを増した上で大きな声で言葉を発する。


「そして呪おう!私は必ず英雄を殺し、ヒトを思うがままに喰えるようにと!!」

「ソフィア……」

 正に妖魔らしく、ヒトの天敵らしく、全ての人々に恐怖を与えるように。


「それでは諸君、今はこれにて失礼する!くれぐれも子々孫々に私の事を良く伝えておいてくれたまえ!堅き守りを備えた美味なる果実になるようにとな!!」

「ソフィアアアァァァ!!」

 そして私は窓から身を投げ、落下する途中で『蛇は骸より再び生まれ出る』を解除する事で、その場から姿を消したのだった。

しかしこの蛇、ノリノリである

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