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ソフィアズカーニバル  作者: 栗木下
第5章:革命の終わり
270/322

第270話「旅立つ蛇-2」

「よう大将。景気はどうだい?」

「ウハウハに決まってる」

「そりゃあそうか」

 レーヴォル王国王都セントレヴォル。

 かつてマダレム・シーヤと呼ばれたこの地は、戦争終結から三年間の間に最も大きな変化を見せた土地と言えるだろう。


「セレーネ王様のおかげで妖魔と獣だけを気にすればいいって言うのは本当に良い事だよなぁ」

「ああ、おかげでヒトの行き来もしやすくなって、何処の都市も大いに賑わってるよ」

「全くもってセレーネ王様万歳だ!」

 まず、かつてマダレム・シーヤとして街が有った丘の上は、その全てをセントレヴォル城と言う王であるセレーネの権威を示すと同時に、レーヴォル王国の中央で取り仕切る諸々のための施設として造り変えることが決定された。

 そして、丘の上に住んでいた住人は丘の下に移動し、それこそ、かつてマダレム・エーネミとマダレム・セントールに狙われる前のマダレム・シーヤのように、戦いの利便性ではなく、生活の利便性を優先した形の都市へと変わりつつある。


「マダレム・イーゲンにも、フロウライトにも行き易くなったから、巡礼が楽になったよ」

「新しい畑の耕し方のおかげで、今年の麦の出来も良かったぜ」

「ふふふ、子供が安心してはしゃぎ回れるって素晴らしいわ」

 なお、各地から流入する住民や、生活の安定化によって増える人口に合わせてであるが、将来的には丘の周りを八つの区画に分け、区画ごとに特色を持たせたるなどして、様々な方面においてレーヴォル王国で一番、そうでなくとも上位に入る様な都市になる予定である。


「おかーさーん!おとーさーん!」

「よーしよーし、大丈夫かい?名前は言えるかい?」

「大丈夫だよ。今お母さんたちを探してあげるからね」

 ちなみに丘の上から丘の下に移動することを反対する住民の数は私の予想に反して非常に少なかった。

 どうやらマダレム・シーヤの長い坂を登らなければ都市の外に出られないという構造は、住民にとっても疎ましいものだったらしい。

 所用でこの三年間、度々坂を上り下りしていた私も疎ましく感じていたので、気持ちはよく分かるが。


「止まれ、ここから先は……と、ソフィール・グロディウス殿でしたか。どうされました?」

「陛下に面会するべく来ましたの」

「面会……ですか」

「ええ、急を要する用件だったから、連絡も約束も無いのだけれど、お願いできるかしら?」

「分かりました。上に確認いたしますので、しばしお待ちを」

 まあ、そんな煩わしい坂の上り下りも今日で一応は終わりである。

 と言うわけで、私は坂を上り、セレーネから渡された私専用の許可証を衛兵に見せる事で、建築途中で最低限の設備しか整っていないセントレヴォル城の中へと入っていく。


「どうぞこちらへ」

「ええ、ありがとう」

 この許可証もセレーネに返さないといけない。

 顔を黒い布で隠している私の為に用意されたものであるが、今後似たような許可証が出るのは色々とよろしくないだろう。


「ソフィール・グロディウス殿をお連れ致しました」

「入りなさい」

 衛兵に連れられた私は、やがて一つの部屋の中に入る。

 部屋の中に待っていたのはセレーネとリベリオの二人だけ。

 まるで何かを察しているかのように、他のヒトは親衛隊長であるバトラコイ含めて誰も居なかった。

 まあ、その方が都合は良い。

 ここから先の話は余人に聞かせられるようなものではないのだから。


「サルブ殿下の無事の御出産おめでとうございます。陛下」

「ありがとうございます。ソフィール・グロディウス。皆の協力のおかげで、何事もなく産めました」

 私を連れてきた兵が部屋の外に出ていくのを確認した所で、私はまず一通りの普通の挨拶をする。

 そしてセレーネとリベリオも、それを素直に受け止める。

 うん、やっぱり二人とも察している。

 急を要する用件だと言って此処までやって来たのに、こんな冗長な挨拶と雑談をしても咎めたり、怪訝な顔をしたりしないのだから。


「それでソフィール。用件と言うのは?」

 さて、本題である。


「まずはこれをお返ししようと思いまして」

「そうですか……」

 私はセレーネに許可証を投げ渡す。

 それは暗に、ソフィール・グロディウスは今日を最後にセレーネの前に姿を現さないと言っているようなものだった。


「トーコさんとシェルナーシュさんは元気ですか?」

「二人とも三年前のあの一件から顔も見ていないわ。予定通りね」

「そうですか。それは残念です」

 だが、この行動が示しているのはそれだけではない。

 もっと重要な事が私とセレーネの間に起きることを示していた。


「ソフィアさんと同じくらい危険な妖魔の行方が分からないだなんて、本当に残念です」

「ふふふふふ、流石にこんな場所に二人を連れてくるわけにはいかないわ」

 私もセレーネもあらゆる感情を消し去って、顔に笑顔の仮面を貼り付ける。

 だが、セレーネが私に抱いている想いは考えなくても分かる。


「そう言うわけだから、セレーネ。一つ宣言させてもらうわ」

「どうぞ」

 それは殺意。

 蛇の妖魔(ラミア)である私を殺そうとする意志。

 だが、セレーネが私に対してそんなものを抱いても仕方がない事だろう。


「世界中を見てきたら、私は必ずこの地に帰ってくる。その時がレーヴォル王国の最後よ」

 なにせ私がレーヴォル王国を……いや、シチータの頼みに応じてセレーネを助けたのは、そうして造り上げた王国を自分自身の手で滅ぼし、妖魔としての本懐であるヒトを喰らうためなのだから。


「そうですか……リベリオ!」

「燃えろ!」

 そして、私が宣戦布告をした直後。

 リベリオの手から炎の槍が飛び出し、私の胸に突き刺さった。

決裂です


11/01誤字訂正

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