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ソフィアズカーニバル  作者: 栗木下
第5章:革命の終わり
269/322

第269話「旅立つ蛇-1」

 レーヴォル暦六年。

 ヘニトグロ地方全体を巻き込んだ戦争はセレーネの勝利で終わり、三年経った現在ではその名をレーヴォル王国とし、上は王であるセレーネ・レーヴォルを筆頭に、下も末端の農民に至るまで、新たな国造りの為に奔走している。

 それこそ王も、貴族と呼ばれ出した有力者たちも、兵士も、文官も、農民も、漁師も、狩人も、商人も、鍛冶屋も、公的に認められたあらゆる職種の人々がだ。

 ただし、その方向性は今までのヒト同士の戦いを主軸とするような誤った方向ではなく、対妖魔、それと野盗や国外の勢力など、レーヴォル王国の平穏を乱すものを倒したり、抑えたりする方向である。


「おや、父上。どちらに行かれるおつもりですか?」

 そう、三年だ。

 三年もあれば、私の周囲でも色々と動きが出る。


「ちょっと陛下の元に行ってくるつもりよ」

「陛下の所に?」

「ええ」

 グロディウス家が治めることになったフロウライトも、オリビン砦やマダレム・バヘン、その他周囲の都市と連携して順調に発展していっている。

 ウィズとレイミアの間にも、二年ほど前にクレバーと言う名前の息子が産まれており、今のところは順調に育っている。


「サルブ様の件ですか?」

「まあ、そんなところね」

 セレーネもリベリオと結婚して、つい最近サルブと言う名前が付けられた息子が産まれている。

 聞くところによれば、私の忠実なる(ダーティ)(クロウ)・穢(ゴーレム)の件からリリアが開発した病魔払いの魔法の効果もあって、産後の肥立ちも非常に良いらしい。


 余談だが、サブカがあの時リベリオに『英雄の剣(ヒーロー)』を渡したのは、リベリオとセレーネが障害なく結婚するためだと、二人が婚姻を発表する時になって私も気づいた。

 まあ、武の面では七天将軍三の座マルデヤの首級を上げ、ノムンだった者に大打撃を与えた。

 文の面ではレーヴォル王国全体の共通語を体系的に定め、誰にでも理解できるように教本や辞書の製作、編纂を行った功績がある。

 その上に、セレーネの幼馴染で両想い、かつ御使いサーブにも認められたと来たら……反対できるヒトなど居るはずがない。


「言っておくけど、きちんとグロディウス家からもお祝いの言葉は出すのよ。私は個人的に会いに行くんだから」

「分かっていますからご安心を。父上」

 他にも変化は生じている。


「本当にアンタは嘘吐きね。土蛇」

 馬に乗ってフロウライトにあるグロディウス家の屋敷から、セレーネが居るマダレム・シーヤ改めセントレヴォルに向かおうとする私の前に、出会った時から幾らか背が伸び、それ以上に女性らしくなったペリドットが現れる。


「ふふふ、伊達に五十年以上ヒトの振りはしてないわ」

「褒めてないわよ」

 ペリドットは私の馬の横にまでやってくる。

 その目は色々と言いたい事が有ると、雄弁に語っていた。


「で、貴方はここに居ていいの?セルペティアが寂しがるわよ?」

「乳母が傍に居るから大丈夫よ」

 そう、これも大きな変化の一つだ。

 三年の間にペリドットは私の妻になり、数ヶ月前には私との間に出来た娘……セルペティアを産んでいる。

 ただ、私とペリドットの関係はウィズとレイミア、セレーネとリベリオのような恋愛感情のものでは無く、もっと打算的な物である。


「言っておくけど……」

「言われなくても分かってるわよ。どうせあの子が生きている間には帰ってくる気はないんでしょう。だから約束通り、母親としてあの子の事はきちんと育てるわ」

 私がペリドットとの間に子供を造った理由。

 それは以前ペリドットが仕事の報酬として求めたのが、私との間に子供を造る事だったからだ。

 いずれ来るその時のために。


「うん、忘れていないようで安心したわ」

 ただ、そんな理由で子供を造るのは、私とペリドット自身には良くても、子供にとっては良くないだろう。

 と言うわけで、幾つかの条件を……掻い摘んで話してしまえば、私の正体は隠し、ペリドットは母親としてきちんと愛情を子供に注ぎ、育てる事を条件として子供を造る事にしたのだった。

 その結果生まれたセルペティアには、今の所は私の血の影響と思しき要素は出ていない。

 まあ、シェルナーシュの血を引いているルズナーシュも見た目は完全にただのヒトであるし、もしかしたら表向きにはただのヒトの子になるのかもしれない。

 表向きには、だが。


「じゃっ、さようならね」

「そうね。永遠にさよならだわ」

 私は最後にペリドットと一度口づけを交すと、馬を歩かせ始める。


「……」

『jwygす48』

 インダークの樹の傍を通りかかった時、またあの奇妙な声が聞こえた。

 戦争の最後、ノムンだった者の戦いで、戦いの最中に気絶したペリドットの身体を借りて、インダークの樹が死神としか称しようのない何者かを生み出した事は分かっている。

 だが、アレの正体も、インダークの樹が何を伝えようとしているのかも未だに分からない。

 ただ何となくだが、インダークの樹が発しているこの言葉は、私の力が増せば、マトモな言葉として聞き取れるのではないかと私は感じている。

 聞き取れても、どうするかはまた別の問題だが。


「暫くの間さようなら。フロウライト」

 そうして私は多少後ろ髪を引かれつつも、フロウライトを後にした。

あ、今回のは『待っている』とだけ言っています

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― 新着の感想 ―
くっ…ペリドットとのイチャイチャは…?ど…こ……(崩れ落ちる)
[一言] やっぱりこうなったかー 惚れた女は片っ端から喰っちまう(物理的に)なソフィアに実子が生まれるとしたら恋愛感情皆無な利用し合う関係のペリドットかとかなあとは思っていましたが、予想通りだったよう…
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