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ソフィアズカーニバル  作者: 栗木下
第4章:蛇の蜷局囲う蛇
268/322

第268話「ノムン-5」

 ヘニトグロ統一戦争。


 別名、『英雄戦争』とも呼ばれるこの戦争は、その名の通りヘニトグロ地方全土を巻き込んだ戦いであると同時に、十を超える英雄、百を超える将軍と軍師、万を超える兵が敵味方に分かれて、ヒト同士で戦った戦争でもある。

 当然、それ程までに大規模な戦争であると同時に、少なくない謎を残しているため、現在でもなお演劇や小説などの創作物の題材として根強い人気を誇っているものでもある。


 さて、戦争に参加した英雄や将兵の内、特に人気がある者を挙げるならば、まずは後に王配になるだけでなく、当時地方ごとに少なくない差異が存在していた言語と文章を取りまとめ、現在ではリベリオ語として扱われている共通言語の創出と辞書の編纂を行った『焔文公』リベリオ・レーヴォルを筆頭として。

 他にも『輝炎の右手』の長であるルズナーシュ・メジマティ。

 元南部同盟七天将軍の一人だったが、西部連合に寝返った『蛇眼』のレイミア・グロディウス。

 セレーネ親衛隊の隊長であるバトラコイ・ハイラ。

 『大地の……


(中略)


 と、実に多くの人物の名前が挙げられる。

 さて、そんな多くの人物の中でも、特に多大な活躍を示すと同時に、他の誰よりも多くの謎を残している人物が居る。

 その人物の名前はソフィール・グロディウス。

 グロディウス家初代当主にして、筆者の先祖の一人に当たる人物である。


 ソフィール・グロディウスの詳しい経歴については、それ一つで一冊の本が書けるほどのものであるし、子孫である私が書いても説得力が無いと言う事もあるので、他の書に譲る。

 ただ、一つ言える事としては、彼……ソフィール・グロディウスが西部連合どころかヘニトグロ地方全体……いや、トリスクーミ世界全体で見渡しても類稀だと言い切れるほどの天才であると言う事。

 その天才ぶりは文武両面、あらゆる分野にわたっており、文では政治、経済、建築、運搬、文学、外交に通じていた事は確実であるし、一説には鍛冶、農耕、漁業、林業、畜産その他諸々にも通じていたとされている。

 だが武の方面は更に凄まじい。

 確実だと言える記録に残っているものの内容を見るだけでも、南部同盟の英雄と一騎打ちを行っても余裕で勝てるだけの武勇、戦場全体を己の意のままに操れるとまで称された戦術、戦争全体の流れを変えられると言われたほどの戦略、これらの評価を支えられる程の魔法、剣術、斧槍術、智謀。

 子孫である私が言うのも何だが、複数のヒトが協力して、ソフィール・グロディウスと言う一人の人物を作り上げていたのではないかと言う疑惑が出てくるのも納得してしまう程の天才っぷりである。


 そんな彼の正体だが、前レーヴォル暦12年頃、マダレム・セイメにてグロディウス商会を立ち上げようとしていた事よりも前に経歴を遡れない事から、様々な推測が為されている。

 有名どころでは先述の複数のヒトが協力して、ソフィール・グロディウスと言う一人の人物を造り上げていた説。

 後世の人物が勝手に作り上げた完全な想像上の人物であるという説。

 名前が同じであることから、御使いソフィールがヒトの姿を借りて降臨していたのだという説。

 英雄王シチータと蛇の人妖ソフィアとの間に生まれた子供だという説。

 アムプル山脈の山中に存在するとされる伝説的な村、タケマッソ村で修業をした超人だという説。

 その他、宇宙人、異世界人、未来人、人妖等々、玉石混交、諸説入り乱れている。

 まあ、前二つ以外は明らかに冗談の類なのだが。


 ただ、子孫である私が言うのも何だが、確かに彼の経歴や行動には少々怪しいところがある。

 例を挙げるならばセレーネ・レーヴォルとの出会いである。

 当時の資料を読み解く限り、どうにもソフィール・グロディウスはセレーネの出生の秘密を知っていたらしい。

 だが、何時何処でその秘密を知ったのか、それがまるで分からないのである。


 また、マダレム・サクミナミの城壁外での戦いにおいて、大事な戦いであるにも関わらずソフィール・グロディウスは戦いの最中その姿を眩ませている。

 一般にはノムンの城にあった秘密の脱出路を抑えに行ったとされているが、彼ほどの人物なら部下と魔法を使えば、セレーネの傍……大事な戦いに参加できない程に離れた場所に居る必要は無かったのではないかと筆者は思ってしまう。


 加えて最近明らかになった事実として、ソフィール・グロディウスのものだとされている墓に、そもそも使用された痕跡が無い事も分かっている。

 つまり、ソフィール・グロディウスは37歳と言う若さで死んだことになっているが、墓に入る事も出来ないような死に方をしたか、自らの死を偽装した可能性が存在しているのである。


 ソフィール・グロディウスの真実については、未だに推測の域が出ない事が多い。

 彼が一体何者であったのか、何時か明らかになる事を筆者は願う。



 歴史家 ジニアス・グロディウス




-----------------



(原稿の片隅に書かれている)


 ソフィール・グロディウスの真実。

 本音を言わせてもらうならば、明かされない方が誰にとっても幸せな真実である。

 もしもソフィール・グロディウスの真実が明らかになれば……世界中を巻き込んだ騒ぎになる事は間違いないだろう。

 いや、それで済めばまだマシかもしれない。

 情報源である彼の言葉が真実であるならば……我々の根幹を揺るがすような事態になるのだから。

10/30 文章改稿

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