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ソフィアズカーニバル  作者: 栗木下
第4章:蛇の蜷局囲う蛇
263/322

第263話「マダレム・サクミナミ-5」

「ま、早々に決着を付ける事は、私にとってもやぶさかではないわ」

 追い詰められていると言ってもいい、この状況でゲルディアンが取ってくる手は?

 逃げると言う手はないだろう。

 この状況でゲルディアンが逃げれば、私はノムンの元に向かい、セレーネたちに助力するだけ。

 それはゲルディアンにとっては絶対にあってはいけない事態だ。

 長期戦と言う手もまず無い。

 戦いの流れだけ見るならば、私の攻撃によって一方的にゲルディアンの体力や魔力、装備品が削られているのだから。

 つまり私を倒す気であるならば短期決戦を、場合によっては相打ち覚悟でゲルディアンは私を殺しに来る事だろう。


「そう言うわけだから……」

「!?」

 それを理解しているからこそ、私は『妖魔の剣(ヒンドランス)』を構える。

 右手で剣を持ち、左手の人差し指と中指を剣身の根元に当て、切っ先をゲルディアンに向けると言う今までに見せて来なかった形で。


「やらせてもらうわよ」

 見慣れぬ構えにゲルディアンが動揺している間に、私は懐にしまってある大きな金色の蛇の環を意識しつつ、左手の指先に魔力を集め、とある念を込めつつ剣先に向けて指をゆっくりと滑らせていく。

 そうして剣先から指が離れた瞬間。


「ゲルディアン!」

「……!?」

 『妖魔の剣』の剣身がまるで燃え上がるように赤く染まり、輝きだす。

 魔法の名は『蛇は八口(ヒノ)にて喰らう(カワ)』。

 私が有する切り札の一つだ。


「ふんっ!」

「ぐっ!?」

 私は使役魔法によって自分の足元の土を使役の対象にすると、その土を自分の脚に絡み付かせた上で、全力で……長距離を高速で移動する時と同じ速さで横にスライドさせる。

 すると当然私の身体も土が移動するのと同じ速さで移動を始め、全身の筋力を以ってしても姿勢を保持するのが限界の速さで私はゲルディアンに接近し、『妖魔の剣』をゲルディアンに向けて振るう。


「ちっ」

「舐め……るな……」

 だが、所詮はロシーマスと同じ程度の速さ、ゲルディアンは多少苦悶の声を上げつつも、盾で私の剣を隙なく防いで見せる。

 しかしその目は語っている。

 私の魔法がただ剣を光らせるだけの筈が無い、何か仕掛けがあるのではないか、と。

 その考えは正しい。

 だが今はまだその時ではない。


「死ねえぇ!」

 ゲルディアンが私に切りかかろうとする。

 私は使役魔法によって足に絡み付かせた土を操作、その場で生身では絶対に出せない速さでの反転を始める。

 と同時に、左手に持っていたただの石を魔力を込めつつゲルディアンの眼前に向けて投げる。


「っつ!?」

 そう、ただの石だ。

 だが見た目では魔石とただの石は見分けがつかない。

 おまけに私の魔力が注ぎ込まれていては、見ただけでは判別は不可能だろう。

 しかし、ただの石の投擲にゲルディアンは驚き、剣を振るのを止めてしまった。

 これで目の前で反転し、隙を晒す私に先んじて攻撃する事は出来ず、ゲルディアンは私の一撃を防いでから攻撃を仕掛けるしかなくなった。


「喰らって……」

 ゲルディアンが剣の腹で『妖魔の剣』の進路を阻み、攻撃を防ごうとする。

 しかし、私にはこの攻撃を防がせる気はなかった。


「すり抜け」

「!?」

 私は『蛇は八口(ヒノ)にて喰らう(カワ)』の効果によって『妖魔の剣』を変形させ、傍目にはゲルディアンの剣をすり抜けたかのように、勢いを一切殺さずにゲルディアンの剣を躱す。


「くっ……!?」

 ゲルディアンは『妖魔の剣』が自分の剣をすり抜け、自分の首に向けて剣が迫ってくるのを見て、首を逸らす事で避けようとする。

 しかし、それではこの剣は避けられない。


「伸長」

「なっ……!?」

 私は『蛇は八口(ヒノ)にて喰らう(カワ)』によって再び『妖魔の剣』を変形させる。

 剣身を細く、そして長くすることによってゲルディアンの首に刃を届かせ、刃を曲げることによって兜の隙間を縫う。


「刈り取れ」

「……!?」

 そして、ゲルディアンの首を切り裂き、落とす。

 これでゲルディアンは死んだ。


「ま……」

 が、まだ戦いは終わっていない。


「そうよね!」

 死の直前、ゲルディアンが準備を整え、私に向けて放った無数の岩の槍が四方八方から迫っていた。

 だがこれは予想の範疇である。

 ゲルディアン程の英雄が素直に、何もせず、ただ死んでくれるなんてそんな甘い幻想を私が抱くはずがない。


撤退(プルアウト)!」

 私は使役魔法による高速移動術によって岩の槍の雨……いや、嵐をかいくぐりながら比較的安全な場所にまで移動すると、即座に撤退の魔法を発動。

 身体の複数個所にかすり傷を造りながらも岩の槍の嵐を潜り抜け、適当な屋根の上に着地する。


忠実なる(クロウ)(ゴーレム)

 安全な場所にまで移動した所で、私は烏人形を倒れているゲルディアンの元に向かわせると、ゲルディアンの首を回収すると共に、胴体に着火(イグニッション)の魔法で火を点けて火葬してしまう。

 本音を言えば頭も燃やしてしまいたいのだが……まあ、こちらには別の使い道があるから仕方がない。

 なお、食べると言う選択肢は論外である。

 ゲルディアンなんて食べたら腹を壊しそうだし。


「ふぅ、少し休憩したらセレーネの援護に向かいましょうかね」

 私はそう呟くと、その場に腰を下ろして体を休め始めた。

別の使い道→戦争終結後の死亡認定 です。

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