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ソフィアズカーニバル  作者: 栗木下
第4章:蛇の蜷局囲う蛇
258/322

第258話「決戦-9」

「しかし、幾つも想定外と言うか、予想外と言うか、計算外と言うか、とにかく私の考えの外にある事態が立て続けに起きた戦いだったわ……」

 再燃する(リキンドル)意思(ソウル)の魔法によって琥珀蠍の魔石からサブカの意思を持った土人形を作り出す事に成功した時点で、私はヒトの服装に着替えるとペリドットと共に馬に乗り、セレーネの元に向かい始めていた。


「まあ、それは私にも何となく分かったわ」

 で、そうして向かっている間にマダレム・サクミナミの周囲を囲う城壁の外での戦いは決着が着き、今はシェルナーシュが城壁に開けた穴から都市内部に突入するために部隊の再編を、それと姿をまだ消していないサブカ関連の諸々に追われていた。


「でも実際想定外の事態ばかりで、今回の戦いは私にとっても色々と教訓になったわ」

 まあ、それはセレーネたちの話。

 私が振り返るべきは今回の戦いについてだ。

 実際、今回の戦いは想定外の事態が幾つも重なっている。

 ノムンが後天的英雄として目覚め、株分けの魔法なんてとんでもない代物を持ち出すだけでなく、無意識ではあっても地脈の力を利用して見せた点。

 私の求めで御使いトォウコとして参加してくれたトーコの身体能力がいつの間にか全盛期のシチータと同じかそれ以上になっていて、私の想定よりもかなり早く指揮官を倒して撤退してしまった点。

 同じく私の求めで御使いシェーナとして参加してくれたシェルナーシュの魔法の威力と範囲が、私の想像をはるかに超えた規模で、私の想定以上の被害を敵に与えてしまった点。

 御使いサーブとして再生したサブカに持たせた二本の剣……『英雄の剣(ヒーロー)』と『ヒトの剣(ヒューマン)』が誰にも手出しが出来ないようにと地中深くに保存しておいたためなのか、いつの間にか妙な力を得てしまっていた点。

 何と言うか……うん、この分だとマダレム・サクミナミの市街地戦に、ノムンの居城に侵入して首を取る最後の戦い、この二つでもまた想定外の事態が起きる気がしなくともない。


「とりあえず私の掌の上で全ての事が進むだなんて、天地がひっくり返っても考えるべきじゃないわね」

「まあ、想定外が重なったせいで、あんな隙だらけの姿も晒していたものね」

「アレは想定内よ。ペリドットが守ってくれると分かっていたし」

「……」

 私の言葉に何故かペリドットがそっぽを向くが……まあ、それはさておいて、そろそろサブカの方の後始末を付けなければならない。


「サブカは……もう動いてくれているわね」

 戦場に残っていたサブカは、御使いサーブの名に相応しい風体で、誰にも阻まれる事無く真っ直ぐにセレーネの元に歩いていく。

 まあ、今のサブカを阻む存在など居るはずがない。

 誰が何処から見ても御使いサーブにしか見えない……と言うより、そもそもサブカが御使いサーブで、テトラスタ教の教えを信じている者にとって御使いサーブはまさしく天上の存在なのだから、阻まれる訳が無いのだが。


「よし」

「ボソッ……(今のはワザと?それとも無意識?何となくだけど後者な気がするわ)」

 セレーネは既に馬を降り、何処か緊張した面持ちでサブカの事を待っていた。

 そして、そんなセレーネの前にやってきたサブカは、腰に提げていた銀の鍔と柄を持つほうの剣……『ヒトの剣』を手渡し、セレーネは恭しくそれを受け取った。

 これでセレーネは御使いサーブ直々に剣を渡された存在として、正しく無二の存在になる。

 この評価は今後のセレーネの治世に置いて、とても有利に働く事だろう。


「じゃあ、後はもう一本の剣を……」

「ボソッ……(もしかしたらソフィアの奴って女の英雄に弱いのかも。私に好意的な感情なんて持っているはずがないし)」

 後は重量の関係で一度に渡せなかった『英雄の剣』をセレーネに渡せば終わり。

 私はそう思って再燃する意思の魔法を解除する準備に入る。

 だが、ここでまた一つ私にとって想定外の事態が起きる。


「ふぁっ!?」

「っ!?な、何っ!?」

「ちょ、サブカ!?アンタ何やってんの!?」

 サブカは『英雄の剣』をセレーネに授けることなく何処かに歩いていく。

 その先に居たのは、この状況に驚きの色を隠せないでいるリベリオ。

 だがサブカはそんなリベリオの驚きなど知った事か言わんばかりに、リベリオの前に立つと腰に提げていた金の鍔と柄を持つ剣……『英雄の剣』をリベリオに渡し、想定外の事態に困惑するリベリオは何とか外聞が悪くならない程度に体裁を取り繕った上で受け取る。

 そしてリベリオに『英雄の剣』を渡したサブカは、自発的に再燃する意思の魔法を解除。

 琥珀蠍の魔石と身体を稼働させるための魔石を密かに地中に移動させつつ、見た目には満足そうに頷きながら砂塵となって跡形もなく消えると言う、御使いに相応しい消え方をしてしまった。


「あば、あばばばば、ちょっ、セレーネとリベリオの二人に御使いの剣なんて授けたら、今後の内紛が起きかねないわよ!?そうなったら私の諸々の計画とか、努力とかが全部台無しになりかねないんですけどぉ!?」

 で、この事態に私はかつてない程に混乱していた。

 私の計画は御使いに剣を授かったのがセレーネ一人であることを前提としていたし、サブカが私の意に反して動く事が無いという考えの下で構築されていた。

 それがサブカの意思を再現した土人形の謎行動によって突然崩れたのだから……なんかもう訳の分からない状況になってしまってもしょうがないと思う。

 と言うかこんな事態想像できるかああぁぁ!?


「ああもうどうすればいいのよ!?御使いの剣を持つヒトが二人になったら、絶対にどっちかに着いてもう片方を貶めようなんて考えのバカが出るし、今はリベリオも欲のような物を持っていないけど、力を持ったらどうなるかなんてわかったものじゃないし、そうでなくとも……」

 と、私が馬の上で混乱している時だった。


「あいだぁ!?」

「落ち着きなさい。土蛇」

 ペリドットが私の後頭部を手刀で叩き、思考を強制的に中断させてくる。


「心配しなくても収まるところに収まるわよ」

「は?それってどういう……」

「それよりも今はノムンを討ち取る事の方が先決。違うの?」

 私を後頭部をさすりながら、ペリドットにどうしてこんな事をしたのかと言う視線を向けるが……あ、うん、駄目だ。

 これは答えてくれない。

 目がそう言ってる。

 それにだ。


「そうだったわね。そっちの対策はまた後で考えればいい。今はノムンとゲルディアンをどうにかする事を考えないと」

 今はペリドットの言うとおり、もっと優先するべき事が有った。

 私は改めて自分がやるべき事を頭の中で確認すると、セレーネの元へと馬を走らせるのだった。

サブカが渡した理由はまあ、そう言う事です

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