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ソフィアズカーニバル  作者: 栗木下
第4章:蛇の蜷局囲う蛇
257/322

第257話「決戦-8」

 再び時は遡り、ソフィアが『蛇は根を噛(スヴァー)み眠らせる(ヴニル)』を解除する直前。


「では、お願いします」

『分かったわ』

 ソフィアから準備が整ったと言われたセレーネは、予め小さな袋に収めておいた琥珀蠍の魔石を僅かに震えた手で近くの地面に落とす。


「「「!?」」」

『舞台は整えた』

 そして『蛇は根を噛み眠らせる』が解除され、大量の粉塵が舞い上がり、セレーネたちの視界も遮られる中、ソフィアの魔法によってセレーネの近くに落とされた琥珀蠍の魔石は密かに地中に飲み込まれ、前線へと素早く移送される。


『トォウコ、シェーナ……』

 前線に送られた琥珀蠍の魔石はそこで、事前に地中に埋められ、同様の方法でもって前線にまで送られた二本の剣と、大男の拳並の大きさを持つ魔石……シェルナーシュの接着(グルー)によって複数の魔石をくっつけ、ソフィアが加工を施した特製の魔石と合流する。


『そしてサーブ』

 無事に必要な物が一ヶ所に集まった時点で、ソフィアが一つの魔法を発動させる。

 魔法の名は再燃する(リキンドル)意思(ソウル)

 本来は魔石に残された意思に合わせて土で体を造り、その力が尽きるまで暴れさせる魔法である。

 だが、今回発動した再燃する意思は、通常のそれとは少々異なる物だった。


『生死の理乱す許されざる王を討つ助けをするのだ』

 まず、土で造られたその身体は、核となる琥珀蠍の魔石が記憶している蠍の妖魔(ギルタブリル)サブカのものとは少々異なり、腕の数は四本ではなく二本、尾は無く、体を覆うのは甲殻と言うよりは鎧と言うべき物になっていた。

 また、額から魔力の光を放つ事も無く、周囲の空気に漂っていた魔力も吸収したその身は、見た目通りの頑強さと生前のサブカ以上の身体能力を与えられていた。


「……」

 そして、これは核となった魔石の影響もあるが、その土人形……再生されたサブカにはソフィアの知識と記憶が流れ込み、通常の再燃する意思によって再現された妖魔と違って明確に自分の意思という物を有しており、自分がこれから何をするべきなのか、何故この場で生み出されたのか、自分がどういう存在なのかまで正確に理解していた。


「「「!?」」」

「……」

 故に再生されたサブカは一切の躊躇いなく自分の左右に持ち手を出されていた二本の剣……『英雄の剣(ヒーロー)』と『ヒトの剣(ヒューマン)』を持つと、粉塵が晴れ、視界が明瞭になった戦場で複製兵たちにそれを向け、構える。

 自分の背後に居るセレーネたちを味方と認識し、自分の前に居る複製兵たちを敵と認識して。


「……」

「ど、どうした!?」

「お前たち何処に行く!?」

 サブカは微弱な魔力を眼前に居る万を超える数の複製兵たちに放ちながら、切りかかる。

 すると、自分の意思を持たないはずの複製兵たちは、その微弱な魔力に当てられたかのように、指揮をする七天将軍三の座マルデヤたちの言葉も無視して、サブカの周りに居る普通の兵士など知った事かと言わんばかりにサブカに向かって殺到し始める。


「す、すげぇ……」

「何だあの強さ……」

「サーブってまさか……」

 複製兵は核となっている生身の部分を切られなければ死なない。

 その事を知っている者たちはサブカに向かって殺到する複製兵たちの姿を見て、サブカの死を予期した。

 だが、複製兵たちが突き出した槍も、振るった剣も、放たれた矢も、鈍器のように振るわれた斧すらもサブカの鎧に傷一つ付けることが出来ず、それどころか反撃として二本の剣が振るわれる度に、核でない場所を僅かに斬られただけの複製兵どころか、明らかに剣の刃が届いていない場所に居た複製兵すらも動きを止める。


「止めろおおぉぉ!あの男を止めるんだ!今すぐに!!」

 この現象は魔法を維持しているソフィアにとっても想定外の事態ではあった。

 しかし、どうしてこのような現象が起きたのか、サブカが持っている剣の詳細を知っている者は直ぐにその原因を察した。

 原因はサブカが持っていた二本の剣……『英雄の剣』と『ヒトの剣』にあった。

 この二本の剣はソフィアの持つ『妖魔の剣(ヒンドランス)』、ペリドットの持つ『存在しない剣(ヒドゥン)』と一緒に様々な物を練り合わせて造られた魔力を有する剣……所謂、魔剣だった。

 そして、その魔力の作用によって『妖魔の剣』が効率よく地脈にソフィアの魔力を通すように、『英雄の剣』は英雄の魔力を吸い取って剣身の強化を、『ヒトの剣』はヒトが持つあらゆる力を吸い取って剣身の再生を行い、余剰な魔力を刃のように展開することで攻撃範囲を拡大することが出来ると言う能力を製作者のソフィアも知らない間に宿していた。


「駄目です!止まりません!」

「クソッ!?一体どうなって……」

 結果、ノムンと言う英雄が使う株分けの魔法によって、何十にもヒトの力を分割された形で維持されている複製兵にとって、サブカが持つ二本の剣は正しく天敵と言うべき武器となった。

 魔力の刃に触れただけで株分けの魔法を解除されるか、核となっている生身の部分が死に絶え、肉片と土塊に戻されるようになってしまったのである。


「うごっ!?」

「敵将!七天将軍三の座マルデヤ!このリベリオが討ち取ったり!!」

 そうしてサブカに全ての複製兵が殺到する中、シェルナーシュの魔法を生き残った者に対する処置を終えたリベリオが中央の戦場に到達、側面から強襲を仕掛けることによってマルデヤを討ち取る。

 その後、リベリオたちから僅かに遅れて、ウィズたち左翼の軍勢も中央の戦場に到達し、複製兵は一人残らず討ち取られ、南部同盟の兵士たちも無力化。

 こうしてマダレム・サクミナミ外での戦いはセレーネたちの勝利で終わることになったのだった。

御使いサーブでした。

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