第252話「決戦-3」
「では、今日は解散としましょう」
セレーネの言葉と共に軍議が終わり、将軍たちは一人また一人と自分が率いる軍へと帰っていく。
「さて……」
やがて私、セレーネ、リベリオの三人だけが天幕の中に残ったところで、セレーネが私の方へと向き直る。
今日の軍議で決めたのは、ノムンが株分けの魔法によって生み出した兵士……通称、複製兵にどう対応するか。
まず数においてはこちらが劣勢であるのは明確な事実なので、相手が数の利を生かせないように立ち回る事、つまりは敵を囲み、一度に戦える兵の数を限らせることによって、数の差を埋める方法が取られることになった。
そして、いざ戦闘が始まった際に狙うのは複製兵ではなく、その複製兵に指示を出す普通……と言うよりは生身の将兵であることも決められた。
と言うのも、複製兵は柔軟性に欠け、命令通りにしか動けない。
それこそ目の前の敵を攻撃しろと言われれば、左右の敵を無視して目の前の敵を攻撃することしか出来ない程に。
当然それではどれほど数が多くてもノムンには勝ち目がない。
だから、ノムンは必ず現場で複製兵に指示を出すための将兵を用意している。
それを突かせてもらう。
で、他にも色々と……攻城兵器である投石機や、広範囲に効果を有する魔法を積極的に利用すること、前衛は攻撃よりも守備に重点を置く事なども決められた。
「ノムンとの戦い。勝てると思いますか?ソフィールさん」
ただ、これらの情報は私や斥候たちが集めた僅かな情報を基に構築された策であり、いざ戦場で実際に用いるとなれば、様々な不具合が生じる事は明らかな策でもあった。
それこそ単純な勝率で言えば……
「厳しいわね。数の差がとにかく痛いわ」
「そうですか」
かなり低い。
「ごめんなさいね。セレーネ。今回の件は完全に私の失策だわ」
「いえ、ノムンは御爺様にも戦いと策謀の才だけはあると言わせていたのですし、遅かれ早かれ追い詰めたらその時点で英雄として覚醒していたと思います」
「まあ、俺が英雄として目覚めた状況もある意味似たような状況だったしなぁ……むしろ、トドメを刺す瞬間に目覚められて一発逆転。なんてことにならなかっただけ、今の状況の方がマシかもな」
が、どうやら二人には私の事を責める気はないらしい。
そのせいで余計に申し訳ない気持ちにもなるけど……まあ、こうなったら考えを改めて、状況の打開に邁進するしかないか。
後、凄く久しぶりにリベリオの砕けた口調を聞いた気がする。
まあ、大半の場面で上司と部下、将軍と文官としてしか付き合いが無かったから仕方がないけれど。
ま、それはそれとしてだ。
「それでソフィールさん。以前貴方が小屋で作っていたという物、それはこの状況を打開することに繋がりますか?」
私たちが考えるべきは、どうやってこの兵力差を覆すかであり、その為には表に出せない方法でも用いるべきだろう。
そして、私の手札の中には私がやった事を知られるわけにはいかないが、この状況で用いれる切り札と言うべきものが幾つか存在してはいた。
「陛下のご協力が有れば、大いに兵の士気を上げられると同時に、敵兵の排除を行える方法があります。それと他にもいくつかの策が有ります」
その一つは私が以前小屋で『妖魔の剣』と共に作った二本の剣……『ヒトの剣』と『英雄の剣』と幾つかの魔法と魔石を組み合わせる方法。
本来はセレーネの治世を盤石のものとするために用意したものだが、この場で使えなくもない。
他にも……まあ、切り札は色々と用意してある。
「分かりました。では、貴方が隠し持っている手段の中で、この状況を打開出来そうなものを話してみてください」
「分かりました」
そうして私は色々とセレーネに話した。
その結果……
「……」
「予想はしていましたが……やはり、これだけの切り札を隠し持っていましたか……」
「いやぁ、陛下が何を思われているかは分かりませんが、対軍用の切り札についてはたかが知れていますよ」
「まだあるんだ……」
「個人で軍を相手に出来るだけで十分おかしいですから……」
セレーネとリベリオ、両方に呆れられる事になった。
なお、今回話したのはあくまでも対軍用の切り札なので、対個人や逃走用の切り札はまた別に確保してある。
「まあ、いいでしょう。今はノムン率いる複製兵を打倒する方が先です。ソフィール・グロディウス。今から私が言う策を実行するようにしてください」
「了承いたしました。陛下」
セレーネの口から、これから私が何をするべきかと言う命令が発せられる。
命令を聞いた私は瞬時に頭の中でどの順序で何をすればいいのかを計算した上で了承、首を垂れる。
「それと、これはノムンが率いる複製兵を倒す事が出来た後の話になりますが……」
そして、無事に複製兵が排除出来た後の事についてもセレーネは話す。
「どうでしょうか?」
「そうですね。これ以上余計な真似をされないためにも、その方がいいかと思います」
「では、そちらについてもよろしくお願いします」
「分かりました」
私はもう一度セレーネに向けて首を垂れると、天幕を後にした。
さて、気合を入れなければ……。