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ソフィアズカーニバル  作者: 栗木下
第4章:蛇の蜷局囲う蛇
251/322

第251話「決戦-2」

今回の話には、人によっては不快に思われる描写が存在しますので、拙いと思われた方はブラウザバック推奨です。

「以上が斥候からの報告となります」

 夜、多数の兵を取りまとめる存在である将軍たちが集められた天幕の中には、重苦しい空気が流れていた。


「敵の数は十二万……か」

「ソフィール殿の言うとおり、地面から生えてきたのでもなければ、有り得ん数字だな……」

「しかも武器だけ持たせた半分数合わせのような兵士ではなく、きちんと防具まで装備した兵士とはな……」

「人型に盛った土に武器や防具をつけただけのものではないか?それならば……ああいや、それでも十二万の武器と防具を敵は揃えている事になるのか。すまない、今の発言は忘れてくれ」

 だが彼らの反応も当然のものだろう。

 一万にも満たないと聞いていた敵の数が、突然十倍以上に膨れ上がったのだから。

 恐慌状態に陥って、逃げ出したり、暴走したりしない分だけ彼らはむしろ勇敢さと冷静さを併せ持ったヒトと言えるだろう。


「ソフィール。貴方の持っている情報を出してもらっても良いですか?」

「分かりました」

 そんな彼らの為にも、私から出せる情報は出させてもらおう。

 少々恣意的にだが。


「皆様、私の忠実なる(クロウ)(ゴーレム)の魔法は知っていますね」

 私は烏人形を手元に出し、天幕の中に居る面々に見せる。

 西や南で戦っていた面々は、この烏人形から時折助言を貰っていたので、当然知っている。

 東で戦っていた東部連盟のヒトも私が土で出来た鳥を操り、情報収集を行っていた事ぐらいは知っているはずなので、将軍の地位に就くほどのヒトならば知っていて当然の筈である。

 そして私の考えを裏付けるように、天幕の中に居る面々は揃って頷いてくれる。


「私は皆様が集まるまでの間に、この魔法で南部同盟の兵の様子を窺うと共に、少しちょっかいを仕掛けてみました。その結果から分かった事を報告させていただきます」

 さて、ここからが本題である。


「まず第一として、敵は明確に実態を有しており、子細に様子を確認するべく近づいた私の烏人形に対して手に持った得物で攻撃を試みてきました。つまり、ただの張りぼてではありません」

「むう……」

 私の発した悪い情報に、そこら中から溜め息のようなものが聞こえてくる。


「一方で、矢が外れた後の事を考えずに弓矢を射かける。上の人物に報告したり、手で捕まえようとするといった普通なら取るはずの他の行動をしなかったりと、行動の柔軟性に欠ける様子も見られました」

「ほう……」

 が、その空気は柔軟性に欠ける……つまり目の前の状況に対して決まった対応をすることしか出来ないという報告で若干明るくなる。


「そして……俄かには信じがたいかもしれませんが、彼らの中には同じ顔をしたヒトが何人も……いえ、何十人も居ました。それも一組ではなく、何十組とです」

「「「!?」」」

 そして、私の有り得ないとしか言いようのない報告に、事前に私の報告を聞いていたセレーネとリベリオ、それとこの手の話に慣れているであろうリリア、ウィズ、レイミアと言った一部の面々を除き、ほぼ全員が両目を大きく見開き、この上ない程の驚きを露わにした。


「そんな馬鹿な事があって堪るか!」

「そうだ!二人や三人程度ならば双子や三つ子と言う事で有り得るが、何十人も同じ顔のヒトが居るはずがない!」

「ソフィール殿、敵の数があまりにも多すぎて、目がおかしくなられたのではないですか!?」

 当然のように私に対する批判が噴出する。

 当たり前だ。

 私だって自分の目で見なければ、こんなふざけた話は信じない。


「落ち着きなさい。まだソフィールの話は終わっていません。ソフィール」

「はい」

 だが事実である。

 そして、どのようにすればこんな事が出来るのかの見当も私には付いていた。

 ただその事実をありのままに伝えるのは、主に士気に対するマイナスの影響が大き過ぎた。

 だから少し情報を曲げて伝える。


「これらの情報から考えるに、敵は複製(レプリカ)とでも称すべき魔法を用いたのではないかと思われます」

「複製?」

「そうです。対象を多少……恐らくは思考能力の引き換えと共に、装備含めて複製し、増殖させる魔法。そのような魔法を使ったと考えられます」

 実際には複製(レプリカ)ではなく、(リプロ)分け(ダクション)と言った方が正しいだろう。

 彼らの身体には土と魔法で作られた部分とヒトのままの部分が、熱でも見れる私の目でなければ分からないようにではあるが、確かに存在していたのだから。

 そして、同じ顔の兵士のヒトの部分、これらを組み合わせると元になったであろう兵士の姿が浮かび上がってくるのだ。

 株分けの際に欠損したであろう部分を僅かに存在させる形で。


「だが一体誰がそんな魔法を」

「そうだ。もはや英雄の域すらも超えてしまっている」

「こんな魔法を使えるヒトなど……」

「ノムンしか居ないだろうね」

 天幕の中がざわめき立つ中、小さく、けれどはっきりと聞こえたリリアの言葉に、騒ぎ立っていた将軍たちの動きが止まる。


「ノムンは英雄王シチータの息子。それなら、アタシらに追い詰められたこの状況を打開するべく、後天的な英雄として目覚めても何らおかしくはない。その力が普通の英雄の枠を大きく飛び出ている点もだ」

「「「……」」」

 リリアの視線は目覚めた理由は実際には違うだろうと言っている様に見えた。

 そして事実として、ノムンが目覚めた理由は追い詰められたからではないだろう。

 ノムンが後天的英雄として目覚めたのは……私と言う妖魔によって、リッシブルーが殺害された瞬間を見たからだ。


「そうですね。ノムンがこの魔法の術者であるというのは、私とソフィールでも共通した見解です。そして問題は誰が術者であるかではなく、どうやって複製兵を倒すかです」

 つまり、ノムンが英雄として目覚めてしまったのは、他ならぬ私の失策故のものである。


「さあ、考えましょう。ヒトの域を超えた魔法に手を出してしまった許されざる王をどう討ち滅ぼすかを」

 だから私は考え、提示しなければならない。

 この状況を打開する方法を。

 持てる力のすべてでもって。

10/13誤字訂正

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