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ソフィアズカーニバル  作者: 栗木下
第4章:蛇の蜷局囲う蛇
249/322

第249話「リッシブルー-4」

「お帰りなさい。ペリドット」

 私は火事現場から誰にも見咎められることなく無事に帰ってきたペリドットを出迎える。


「仇を討った気分はどう?って、聞くまでもないか」

「そうね。父親の仇に母親の仇を討った気分はどうかと聞かれても、何の皮肉だとしか思えないわ」

「仰る通りで」

 ペリドットの表情は優れない。

 まあ、どんな理由が有ろうとも、真っ当なヒトが同じヒトを殺したのだ。

 悪い方面の感情を一切感じない方がおかしい。

 特に今回は誰かの命令と言うわけでは無く、殆ど私怨のようなもので、しかもその感想をもう一人の仇である私に聞かれたのだから、ペリドットの表情も妥当な物だろう。


「で、そっちの首尾はどうなのよ。土蛇」

「最低限の目標は達成したわ。と言うより、そうでなければこんな所には居ないわよ」

「ま、そうよね」

 私とペリドットは二人並んで自分の部屋へと戻っていく。

 なお、トーコとシェルナーシュの二人は既に自室に戻っており、ペリドットが火を点けた屋敷もマダレム・シーヤの火消を専門とする面々によって消火されている。

 これ以上騒ぎが広がる事もないだろう。


「……」

「何か聞きたそうね」

 部屋の中に入って椅子に腰かけた所で、私はペリドットが何かを聞きたそうにしているのを見て、質問が無いかと促してみる。


「土蛇。アンタの目的……陛下と協力して国を建てた後の方の目的について、陛下は知っているの?」

「明確に目的を話した事はないわね。けれどヒントを出した事が有るし、察してはいるはずよ。で、それがどうしたの?」

 ペリドットがしてきた質問は何故今と疑問に思うような質問だった。

 が、特に隠す事でもないので、私は素直に話す。


「ふうん、つまり陛下はアンタの目的を理解した上で、アンタを利用しているわけね」

「私もセレーネの事を利用しているんだからおあいこよ」

「そうね。アンタが妖魔の域を越えた化け物なら、陛下はそんな化け物すら利用し尽くそうと考えている狂人。そう言う意味ではお似合いだわ」

「それ、私以外に聞かれたら不敬罪待ったなしよ」

「アンタ以外は聞いていないんだから問題なしよ」

 するとペリドットの口からとんでもない台詞が出てきた。

 幸いと言うか、闇夜に隠れて帰ってくるペリドットの為に事前にそうしていたのだが、私の部屋の周囲のヒトが居なくてよかった。

 今の言葉は流石に言い訳が利かない。


「それにしてもペリドット。私は貴女に私の目的について話した覚えはないのだけれど、一体どこで情報を得たの?」

「アンタの言葉の端々とか、態度とかからよ。後は女の勘ね」

「はぁ?」

 で、話題を変えるべく話を変えてみたのだけれど……女の勘って……勘で相手の考えを察するのはあまり良い傾向とは思えないのだけれど……。

 うーん、英雄の勘だと適当だと茶化したり、的外れだと油断したりはできないしなぁ……。


「疑ってるわね」

「勘だなんて言われたら疑いたくもなるわよ」

 と、どうやら顔に出ていたらしい。

 ペリドットに指摘されてしまう。


「言っておくけど、私の勘は外れていないと思うわよ。だってアンタの目的ってのは……」

「!?」

 私の耳元にペリドットが顔を近づけ、小声で私の目的が何かを囁く。

 そして、ペリドットが囁いた内容は……正に私の目的そのものだった。


「はぁ……。まさか、ペリドットにばれているとはね」

「女の勘を舐めないで頂戴」

 うん、まさかまだ半年ちょっとしか付き合いが無いペリドットに私の目的がここまで正確にばれているとは思わなかった。

 やはり英雄の……ああいや、女の勘は侮れないらしい。


「さて、土蛇。今日私は自分の母の仇を討つ為にあの男を殺した。けれどアンタにとってもあの男は邪魔な存在だったから、私に殺させた。そうよね」

「ええそうよ」

 私は多少気だるげな様子を見せつつ、膝の上に座っているペリドットに受け答えをしていく。


「私は一応は父の仇であるアンタを許す気はない。これは私が英雄であり、アンタが妖魔である限り、絶対に変わらない部分よ。けれど事実として私ではアンタには勝てない」

「そうかしら?」

「そうよ」

 やり方次第ではペリドットでも私に勝てる気もするが……まあ、自分の首を明確に絞めるような真似をする意味はないので、言わないでおこう。


「だから、私はアンタの本当の目的を達する邪魔をする事で、父の仇を討たせてもらう」

「邪魔ねぇ……実際に事を起こすのはだいぶ先の話よ」

 で、ペリドットは邪魔をすると言ってきたが……一体何をするつもりだろうか?

 そもそも少し前の話と話が繋がっていない気もするのだけれど……。

 そう、私が思っていた時だった。


「ソフィア。私は今日の仕事の対価として、アンタの目的を暴いた褒美として、ついでに今日までの各種雑事の報酬として、……を要求するわ」

 ペリドットが私にとって想定外としか言いようのない報酬を要求してきたのは。


「……。本気?」

「勿論本気よ。これがアンタの目的を一番邪魔できる。アンタにしても、都合はいいんじゃない?」

「まあ、確かに私にとっても都合は良いけれど……」

 確かに私にとっても不都合はない。

 不都合はないが……少々考えなければいけない内容ではあった。


「けれどそうね。報酬の支払いはノムンを倒してから。それと細かい条件を色々と付けさせてもらうわよ」

「別にそれで私は構わないわ」

 ペリドットは私の提案を即座に受け入れる。

 そしてその時に浮かべた笑顔は、ペリドットの歳にそぐわない妖艶さを感じさせるものだった。

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