第248話「リッシブルー-3」
『ひ、人食い烏だあぁぁ!』
まず初めにリッシブルーと頻繁に連絡を取り合っていた、リッシブルーの腹心とでも呼ぶべきヒトに対して烏人形で直接的に攻撃を仕掛け、心臓と頭を破壊することで確実に始末した。
『火事だぁ!』
『とんでもない勢いで燃えているぞ!』
次に、リッシブルーやその手下たち、組織が利用していた施設や拠点に烏人形を向け、内包していた着火の魔石で火を点け、焼き払う。
『物取りだああぁぁ!』
『『『!?』』』
『物取りだと!?踏み込め!逃がすな!』
『『『!?』』』
そして彼らが利用していた施設が石で出来ているなどして燃やせない場合には、烏人形に現地で騒がせ、善良な兵士や衛視たちを踏み込ませることで処分させる。
『『『ブヒヒヒッ!』』』
『『『ギギャギャギャ!』』』
『『『コキャーケケケッ!』』』
『『『よ、妖魔だああぁぁ!?』』』
彼らの施設が人気のない場所に在るならば、周囲の妖魔を呼び寄せ、一方的な蹂躙劇を繰り広げてもらう。
「うーん、いい感じね」
私の攻撃によって、ヘニトグロ地方中にリッシブルーが仕込んでいた仕掛けが潰され、リッシブルー及び彼の部下や組織が存在している事を前提とした南部同盟の計画には大きな狂いが生じていく。
計画を立て終わり、少しずつ実行に移し始めていたこの時期に。
新たな計画を立てて実行しようにも、中途半端な時間しか残されていないこの時期に。
十年近くかけて調べ上げた私の一撃が最も入って欲しくないタイミングで入ったのだ。
「愉快痛快ね」
勿論、リッシブルーの事だ。
私に把握させなかった組織や計画が存在している可能性もあるだろう。
が、そちらについては先日私がセレーネに渡した防衛方法について記した書類を参考にして、守る事に専念して貰えれば、致命的な被害が出る事は無いだろう。
強力な策で有れば有るほど、露見しやすくなるのだから。
「ソフィアんソフィアん」
「ん?どうしたの?トーコ」
「あそこ、燃えてるけどいいの?」
と、ここで私はトーコが指さした方を見る。
すると、そちらの方角の空が炎によって赤く染まっていた。
ああうん、この方角なら問題はない。
「大丈夫よ。火を点けたのは私の部下で、燃えているのは裏切り者だから」
「部下?ああ、そう言う事か」
「そう言えば泊まってるとか言ってたねー」
そこに居るのはセレーネに害を為そうとする者たちと、私から情報を聞いて、自らの手で彼らに復讐の刃を突き刺すことを決めた少女……ペリドットが居るだけなのだから。
「ペリドット。状況はどう?」
私はペリドットに着けている忠実なる蛇の口でペリドットに話しかけると共に、ペリドット周囲の状況を確認する。
『今最後の一人を片付けるところよ。土蛇』
ペリドットはフードを目深に被って顔を隠し、右手に血で真っ赤に染まった『存在しない剣』を握っていた。
そしてペリドットの周囲では木の柱や天井が炎で赤く染め上げられ、床には碌な抵抗も出来ないまま……いや、自らが殺された事にも気づかないまま死んだであろうマダレム・バヘンの兵士たちの死体が幾つも転がっていた。
「最後の一人……最も愚かなヒトね」
『ええそうよ』
『ヒッ、ヒイッ!?』
そんなペリドットの前で一人の男が腰を抜かし、無様な姿を晒していた。
『た、助けてくれ。か、金なら幾らでもや……ヒギィ!?』
男の手にペリドットの魔力によって強化されたナイフが突き刺さり、男の身体を床に縫いとめる。
『金?あの馬鹿どもに食料を売った金?それとも私の家から奪った金?それともリッシブルーから裏切りの代金として貰った金?いずれにしても目にも入れたくない代物ね』
ペリドットがフードを脱ぎ、その顔を男に見せる。
するとそれだけで男は言葉を失い、目と口を大きく見開くだけになってしまう。
『気付いた?ええそうよ。私はマダレム・バヘン第二中隊中隊長だったオリビンの娘、ペリドット』
ペリドットがゆっくりと一歩ずつ男に近づいていく。
この男は、南部連合に踊らされた東部連盟がフロウライトに攻め込んできた際、攻め込んできた面々に裏で便宜を図ると同時に、フロウライト襲撃の成否を問わず、マダレム・バヘンのその後の為と言ってオリビンさんをフロウライト襲撃に参加させた男である。
ただまあ、此処までならまだマダレム・バヘンの利益の為だと言い訳する事も出来た。
問題はその後だ。
『貴方の発言のせいで死地に赴かざるを得なくなった父と、貴方が手引きした盗賊によって母を殺された娘』
この男はオリビンさんの家を襲撃し、ペリドットの母親を殺した強盗と、ペリドットが売られた奴隷商とも繋がっていたのだ。
それも彼らの活動を見逃すだけでなく、金品と引き換えに襲撃や誘拐の手引きをするほどの深さで。
『そして、マダレム・シーヤにリッシブルーの手先を招き入れようとする裏切り者を殺す英雄よ』
『ま、待て!父親の仇と言うのなら、あの男……ソフィール・グロディウスでは……』
そしてこの男は救い難い事に、マダレム・シーヤでも同じような事を……いや、更に愚かな事をしようとしていた。
金品と引き換えに、リッシブルーの手下を都市内部に引き込もうとしていたのだから。
『口を開くな。汚らわしい』
『!?』
故に今日、ペリドットにより喉を即死しない程度に切り裂かれ、ゆっくり血を失っていくと言う形で処分された。
「ペリドット」
『分かっているから安心して』
ペリドットは再びフードを目深に被ると、燃え上がる屋敷から誰にも気づかれる事無く脱出した。
こうして、リッシブルーの暗殺と、それに伴う周辺の処理と言うヘニトグロ地方中を巻き込んだ一夜の祭りは終わりを告げたのだった。
なお、余談ではあるが、ペリドットが殺した男が引き込もうとしていたリッシブルーの手先。
実はリッシブルーの手先と言っても末端の末端で、多少の人的被害と、西部連合と東部連盟の間に不和をもたらす以上の成果は望めないような人材だった。
どうやら金品で動くこの男の事をリッシブルーは使い捨ての駒とすら思っておらず、信用する価値もないと判じ、殆ど悪戯用のつまらない玩具程度にしか思っていなかったらしい。
まあ、私も妥当な判断だと思う。
それでもペリドットの気を晴らすのに使えたのだから、私にとっては有用な駒だったが。
徹底的にやりました
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