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ソフィアズカーニバル  作者: 栗木下
第4章:蛇の蜷局囲う蛇
247/322

第247話「リッシブルー-2」

『っつ』

 リッシブルーは私の攻撃を避けた勢いを生かす形でその場から飛び退こうとしていた。


「逃がすか」

 だがそれを読んでいた私は他の烏人形を降下させつつ、最初に降下させた烏人形を蛇の形に変形させ、リッシブルーの周囲を瞬時に取り囲むと、リッシブルーを絞め殺すべく勢いよく輪を縮めていく。


切断(カット)

「やっぱりか」

 しかし、輪が縮まるよりも早くリッシブルーは身体の何処かに隠していた魔石によって何かしらの魔法を発動。

 リッシブルーの全身から勢いよく風のようなものが放たれると同時に、リッシブルーを絞め殺そうとしていた土の蛇が切り裂かれ、内包していた金色の液体を周囲に散らしながら飛び散っていく。


「でもね……」

 恐らくこの魔法の用途は敵に拘束された際に、自身を拘束している敵や縄を切り裂き、排除する事。

 諜報を司るリッシブルーなら持っていて当然とも言える魔法だ。

 そう、持っていて当然の魔法なのだ。


『っつ!?』

「予想済みよ!」

 その場から飛び退こうとしたリッシブルーの動きが鈍り、一瞬だが止まる。

 当然だ。

 土の蛇が切り裂かれることを予期して、私がその体内に仕込んでおいた手招く(アトラクト)絞首台(ガロウズ)によって変異した液体の香りを吸ってしまったのだから。

 リッシブルーの精神力、毒への抵抗性、仕込めた手招く絞首台の魔法の量の関係上、窒息させる効果は望めないが、今の私には一瞬動きが止められればそれで十分。


『ぐっ!?』

 二体目の特別製烏人形がリッシブルーの左肩から左胸に向けて嘴を突き通す。

 そして体内に仕込まれた魔石によって生成した焼き菓子(ブラウニー)の毒(ポイズン)をリッシブルーの体内に流し込む。

 心臓を破壊し、私特製の毒を流し込んだのだから、普通ならばこれで全てが終わるはずである。


「……」

『……』

 だが、ヒトを……それもリッシブルーと言う男を相手にするのであれば、ここで油断してはならない。

 終わったと思ってはならない。


『う……』

「……」

 そして私の懸念は的中した。


『うおおおおぉぉぉぉ!!』

 リッシブルーの全身から大量の魔力が湧き上がり、心の臓を貫かれ、毒を流し込まれて死に向かうだけになったはずの身体を動かし始める。

 そう、リッシブルーは今この時、死の瀬戸際に至って、後天的英雄として目覚めたのだ。

 そしてリッシブルーが後天的英雄として目覚めたが故に……


「ニイッ」

 私は笑った。

 これ以上リッシブルーが急激に成長する可能性が無くなったのだから。


『!?』

 三体目の特別製烏人形がリッシブルーの首に降下の勢いそのままで突き刺さり、刃となっている嘴を開くと同時に回転することによってリッシブルーの首を刎ね飛ばす。

 そして刎ね飛ばされたリッシブルーの首は、四体目の特別製烏人形が空中で捉え、そのまま体内に収納。

 そのまま空中で反転し、マダレム・サクミナミの郊外に向けて一気に離脱を開始する。

 と同時に三体目の烏人形が体内に仕込まれた魔石で着火(イグニッション)の魔法を発動して、リッシブルーの胴体に火を点ける。


「ちっ、ゲルディアンの奴」

 そうしてリッシブルーの身体が勢いよく燃え始めたのを確認し、周囲の人々が一瞬の間に行われた攻防に騒ぎ始めた所で私は二体目、三体目の烏人形も退かせようとする。

 だが飛び立つ前に私の視界に目に見えるほどに動揺したノムンと、こちらに向けて手を伸ばすゲルディアンの姿が見え……大量の魔力を浴びせかけられたことによって二体の烏人形は破壊された。


「まあいいわ。最低限の目的は達成した」

 私は四体目をマダレム・サクミナミの郊外、森の中に降ろすと、そこに予め用意しておいた忠実なる(スネーク)(ゴーレム)の中へとリッシブルーの首を移す。

 当然だが既に呼吸は無いし、瞳孔も開いている。

 夜風で冷やされて体温も外気と変わらないようになっている。

 瞼一つ、舌一つ動かす事もない。

 だが念には念を。


「処置開始」

 私は黒帯(ブラックラップ)の魔法を細く、糸状にした物によってリッシブルーの頭を瞼一つ、舌一つ動かせないように縫い付け、拘束し、土の蛇の中に造った空洞に浮かべると、その周囲を焼き菓子の毒、手招く絞首台を含む十二種類の魔法によって生成した毒と、私の牙から採取した毒を混合した特別性の溶液で満たした上で、地脈に向かって沈降を開始。


「鉄、銅、よく分からない諸々……よし、十分あるわね」

 そうして地脈から魔法の維持に必要な分だけの魔力が流れ込むように調整した上で、土の蛇の周囲に地中に含まれる金属を集めて結合させ、金属球を作り出す。


「よし、処置完了」

 これで万が一の事態……リッシブルーが得た後天的英雄の魔法が強力な再生魔法であっても、復活するような事態は起こりえないだろう。

 私の措置は誰かに知られたら、少々過剰と思われるかもしれないが……どんな力を得たか分からない英雄を相手にするのであれば、これぐらいが妥当な所だろう。


「ソフィアん終ったの?」

「リッシブルー本人はね」

「本人は?」

「あの男が自分の急死に対策を取っていないなんて有り得ないわ。つまりまだ残ってるのよ」

 私は一度意識を自分の身体に戻し、呼吸と集中を改めると、再び地脈を介して遠隔地で忠実なる烏の魔法を発動させる。

 だが今度は一ヶ所ではない。

 ヘニトグロ地方の複数地点で同時にだ。


「さあ、後始末(カーニバル)よ」

 私は目標に向けて烏人形を動かし始める。

ちなみにリッシブルーは右心臓だったりします

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