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ソフィアズカーニバル  作者: 栗木下
第4章:蛇の蜷局囲う蛇
246/322

第246話「リッシブルー-1」

 レーヴォル暦二年、冬の三の月(十二月)

 どうやって口説いたのかは分からないが、ウィズとレイミアが婚約を結び、レイミア改めレイミア・グロディウスとなる。

 また、それに伴う形で私はグロディウス家の全権をウィズ・グロディウスに渡すと同時に、愛用のハルバード……いつの間にやら『不錆(アンルスト)』と呼ばれるようになったそれをウィズに渡した。

 このハルバードのように変わらず、そして状況に合わせた忠誠をセレーネに誓うようにとの思いを込めてである。

 ウィズに全権を渡すには少々早いと周囲から思われそうな気もしたが……まあ、レイミアが妻として公私に渡って補佐するならば問題はないだろう。


 レーヴォル暦三年、春の一の月(一月)

 ベノマー河以西における南部同盟の殲滅を完了。

 各都市国家を治めていた南部同盟の有力者が、それぞれの都市から撤退する際に街に火を点ける、井戸に毒を流し込むなどの破壊活動をした上で逃走したり、自決したりしてくれた関係で、後処理や復旧の面で中々に手を焼かされた。

 その代わり、生き残った住民を西部連合に取り込むのは容易だったが。


 レーヴォル暦三年、春の二の月(二月)

 マダレム・サクミナミの南にある港付きの都市国家、マダレム・シニドノの占領を完了。

 これで海に逃げると言う手や、船による大量の物資の運搬などは出来なくなった。

 また、この都市は名義上リッシブルーが治めていた都市であり、リッシブルーの造った組織もあったので、そこから過去の工作について諸々の資料も発見された。

 当然偽情報も大いに含まれている筈なので、使えるかと言われれば微妙なのだが。


 また、同じ月に、東部連盟も以前南部同盟に奪われた二つの都市国家を包囲し、マダレム・サクミナミとの繋がりを断った。

 これで南部同盟……ノムンは追い詰められる事となった。



--------------



「さて、それじゃあ、私も仕掛けましょうかね」

「護衛はアタシとシエルんに任せておいて」

「貴様は奴を仕留める事だけに集中するといい」

「ええ、頑張らせてもらうわ」

 そうして西部連合と東部連盟は進軍と戦いの準備を進めるために、南部同盟は残された戦力を掻き集めて使い物になるように調練している最中であるレーヴォル暦三年、夏の二の月(五月)の十五日。

 私はマダレム・シーヤの一角、地肌を露出しているその場所で、周囲をトーコとシェルナーシュの二人に守らせ、『妖魔の剣(ヒンドランス)』を目の前の地面に突き刺した上で、地面に直接座っていた。

 何をするのか?

 勿論敵に被害を与えるのだ。


忠実なる(クロウ)(ゴーレム)

 私は地脈を介してマダレム・サクミナミ周辺の地面に仕込んだ魔石に干渉し、忠実なる烏の魔法を発動。

 普段使っているものとは大きく異なる姿を有する烏人形を複数作り出すと、ゆっくりとマダレム・サクミナミの上に向けて飛ばす。


「……」

 今のマダレム・サクミナミは私の使役魔法対策として、非常に限られた範囲にしか土が存在せず、その範囲外に土が在った場合には即座に警戒態勢が取られるような状態になっている。

 また、空に向けての警戒も厳重で、普通の烏人形で声が聞こえるようにと低空を飛べば、矢や魔法が容赦なく飛んでくるようになっているし、一度だけだが魔力を浴びせられてそのまま使役魔法を解除された事もある。


「見つけた」

 だが穴が無いわけではない。

 そもそも私はノムン、ゲルディアン、リッシブルーの三人をセレーネを王として見定める以前……複数の候補を秘密裏に育てていた頃から、いずれ南部同盟を滅ぼす際にはこの三人が障害になると見定め、調べられるだけ調べていた。

 性格、戦闘能力、身長、体重、趣味に交友関係、食べ物の好き嫌いに至るまでだ。

 だがそれでも監視の漏れや単純な手数の足りなさから、幾つもの策を仕掛けられ、被害を受けた事があるし、まだ見ぬ切り札のようなものを備えている可能性だってあるだろう。

 それでもだ。

 一方的とはいえ、十年以上観察し続けたのだから、リッシブルーが最近になって用意した自身の影武者と本人を見分けることは容易かった。


「一番、降下開始」

 そう、今日の私の目的は単純明快。

 リッシブルーを暗殺する。

 ただそれだけである。


「……」

 特別製の烏人形が内部に仕込まれた魔石によって体内にある液体をとある別の液体に変換しつつ、剣のように鋭い嘴を先端としてまるで落下するように夜の空を勢いよく降下していく。

 狙いはリッシブルーの頭頂部。

 そうしてリッシブルーの直ぐ上にまで烏人形が迫った時だった。


『っつ!?』

「ちいっ!」

 偶然か、それとも超人的な勘によるものか、はたまた未知の魔法によるものか、リッシブルーは烏人形の嘴がその身に触れる直前に、烏人形の存在に気づき、身を僅かに逸らす事によって、私が放った最初の一撃を回避した。


『……』

 そして一瞬の交錯、その際に見えたリッシブルーの目は、驚きはしていても狼狽はしておらず、下手人が何者であるかを正確に理解していた。


「……」

 だが私にとっても、リッシブルーが攻撃を避ける事は想定の範囲内だった。

 これで決まる可能性は高いが、決まらない可能性も十分にあると。


「変形!」

『ちいっ!』

 故に私とリッシブルーは同時に動き出した。

遂にやるよ!

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