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ソフィアズカーニバル  作者: 栗木下
第4章:蛇の蜷局囲う蛇
243/322

第243話「準備-5」

「父上、誘拐は犯罪ですよ」

「女装趣味だけでなく幼女趣味があったとは……救い難いな」

 マダレム・シーヤに戻ってきた私とペリドットの二人に対して、出迎えてくれたウィズとレイミアの二人が言った言葉がこれである。


「ほほほほほ、父親を犯罪者呼ばわりするいけない口はこの口かしらねぇ。後私に幼女趣味はない」

「痛っ!?ちょっ、父上!?」

 とりあえず冗談で済む程度の力で私はウィズの頬をつねる。

 レイミアは……付き合いも浅いし、本気でペリドットを心配しての事だろうから気にしないでおく。

 幼女趣味が無い事ははっきりと言っておくが。


「で、貴様に幼女趣味がないのなら、この少女は何処の誰で、何故連れ帰って来たんだ?」

「そうね。まずは自己紹介といきましょうか」

 私はレイミアの言葉に答えつつ、ペリドットに視線で自己紹介をするように促す。

 そして私の視線に気づいたのか、ペリドットが一歩前に出て口を開く。


「マダレム・バヘン第二中隊の隊長、オリビンの娘。ペリドットです。この男に無理やり連れられて来ました」

「ちょっ」

「やはり誘拐だったか」

「父上、誘拐は犯ざ……あいだぁ!?千切れる!?父上千切れる!?」

 ペリドットの言葉に私は思わずウィズの頬をつねる指の力を強めてしまい、慌てて指を離す。


「ペリドット貴方ねぇ……」

「事実じゃないですか」

「事実でも言葉を選びなさい。言葉を」

「で、実際の所はどうなんだ?」

「そうね。もう面倒だから私から話すわ」

 私はレイミアとウィズの二人にペリドットについて……つまりは彼女が私の命を狙った暗殺者だった事や、その暗殺組織が南部同盟のものである事、どういう経緯で所属することになっていたのか、既に暗殺組織が壊滅している事、後天的英雄である事、既に私の正体について知っている事などを話す。

 そうして話した結果。


「何と言うか……彼女もまた大変な人生を歩んでますね」

「たった一年とは言え、よく生き延びれたものだ」

「まあ、それは私も同意するわ」

「……」

 二人とも自身の今までの人生もあって、色々と感じる点があったのだろう。

 ペリドットに同情すると共に、何とかしてあげたいと思うようになっていた。

 まあ、ペリドット本人はそんな二人の反応に対して少々思う所があるようだが。


「しかし意外だったな。リッシブルーの奴が部下を統制しきれていないとは。てっきり奴は自分の組織を隅から隅まで把握しているものと思っていたが……」

 さて、ペリドットの事を一先ずおいておく形で、レイミアが別の話を振って来たので、そちらについて答えるとしよう。


「それはちょっとリッシブルーの事を過大評価し過ぎね」

「過大評価……ですか?」

「ええ、確かに奴は南部同盟の諜報機関の頂点であり、情報の一切を取り仕切っている。それこそ奴を殺せば、一時的に、あるいは永続的に南部同盟は混乱に陥り、その戦力を大きく削げるほどの人物ではあるわ」

「ふむ……」

「でもね。それだけの能力を持っていてもリッシブルーはただのヒト。後天的英雄ですらない。巧みに人心を操り、部下を動かし、様々な技術によって情報を可能な限り自分の元に早く伝わるようにし、組織を構築する事は出来ても、それはヒトの枠に収まる程度でしかないのよ」

「それでも十分ヤバいと思う」

「ゴホン。とにかくそんなわけだから、末端の末端まではリッシブルーでも常に把握する事は出来ないのよ。まあ、把握できない代わりに、自分の関与が疑われないように動かす事も出来るみたいだけど」

 私は今までにリッシブルーが行ってきた各種工作について思い出しながら、リッシブルーについて語る。

 多少本音を隠しつつ。

 そう、本音を隠しつつだ。


「父上?」

「いえ、何でもないわ」

 リッシブルーは確かにヒトである。

 だがそれ故に私はリッシブルーの事を脅威に感じている。

 ヒトであるという事は、今後後天的英雄として目覚める可能性がゼロではないという事なのだから。

 そして、その可能性を考えるが故に私は未だにリッシブルーを秘密裏に始末すると言う手段を実行していない。

 仮にリッシブルーを始末するならば……それこそ私がシチータに対して仕掛けてきた数々の策のように、一切の反撃と回避の機会を与えないような策を用いるべきだと考えている。

 過大評価かもしれないが……リッシブルーと言う男は下手な英雄よりもよほど危険な敵と言うのが私の中での評価である。


「今はペリドットの話に戻しましょう」

 さて、リッシブルーについてはここまでにしておくとしてだ。

 今は今後ペリドットをどうするのかを二人に言っておくべきだろう。


「どうするつもりだ?監視は入れておくのだろうが」

「そうね。監視は入れておくと言うか……今も入っているわね」

「……」

 私の言葉に合わせてペリドットが右手の手首に付けた忠実なる(スネーク)(ゴーレム)の環を二人に見せる。

 これで普段は監視を行い、万が一破壊された際には特別な状況を除いて有無を言わさずである。


「それで仕事についてはどうなさるおつもりで?」

 で、当然ではあるが、傍に置いておく以上は何かしらの仕事はしてもらう。

 何の仕事もしていない人を傍に置いておくなど、無駄でしかないからだ。


「暫くは文官見習いとして私についてもらうわ」

 と言うわけで、暫くは私付きとして、文官の仕事をしてもらう事になる。

 もらうのだが……私がそう言った途端、ウィズとレイミアの二人が……


「暗殺組織を抜け出した先が父上のお付きとは……頑張れ」

「えっ?」

「無理だと思ったら遠慮なく私たちに泣きつくんだぞ」

「えっ?えっ?」

「……」

 何故か今までよりも格別に優しい目でペリドットの事を憐れんでいた。

 うーん、一体なぜだろうか……。

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