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ソフィアズカーニバル  作者: 栗木下
第4章:蛇の蜷局囲う蛇
241/322

第241話「準備-3」

「ここは……」

「ああ、起きたみたいね」

 彼女……ペリドットが目を覚ましたのは、おおよそ半日後の事だった。

 炉の中では未だにドロドロに溶けた金属が混ぜ合わされているが、見た感じからしてそろそろ武器を打つのに使い始めてもいいかもしれない。

 ただ、その前にだ。


「っつ!?ソフィール・グロディウス!?」

 ペリドットを落ち着かせる必要が有るだろう。


「くっ!?この……なんだこの縄は!?離せ!私は何も喋らないぞ!辱められようが、殺されようがだ」

「辱められようが、殺されようが……ねぇ」

 どうにもある事ない事色々と吹き込まれているようだしね。


「ペリドット。女の子があんまりそんな言葉を口にしない方がいいわよ。特に私みたいなのを相手にしている時は」

「っつ!?」

「自分の子供よりも年下だって男には関係ないし、それこそ死なせてくれと貴方が心の底から懇願させてくるような責め苦を与えることだって出来るのだしね」

 私はペリドットの顔を優しく掴み、彼女の耳たぶに触れそうなほどに近い距離で囁きかける。

 ペリドットは……既に顔面蒼白の状態になっている。

 それが初対面の筈である相手が自分の名前を知っていた事に対する恐怖によるものか、これから自分に対して行われる事柄に対する恐怖に由来するものなのかまでは分からなかったが。


「ま、安心しなさい。私は貴女の父、オリビンと約束しているの。『家族をよろしく頼む』と。だから貴女を殺したり、傷つけたりするつもりはないわ」

「その……そのオリビンを殺したのがお前だろうが!」

 ペリドットが憤怒の炎を目の奥に灯しながら叫び声を上げる。

 実際、彼女が私に対してこのような反応を抱くのは当然の事であるし、正当な権利だろう。

 私がオリビンさんを殺したというのは違えようのない事実であるのだから。

 ただ一つ言うべき事が有る。


「ええそうね。けれどそのオリビンが死んだトリクト橋の一件。あれは今の貴女が所属する組織……いえ、その組織を含む巨大な諜報組織を統べる男……リッシブルーとその主であるノムンの手によって起こされたものよ」

「っつ!?」

 それは、そもそもオリビンさんが死んだあの件はリッシブルーたち南部同盟が起こしたものである事だ。

 なお、あの件の黒幕がリッシブルーである事は各種方面の調査から。

 ペリドットが現在南部同盟の暗殺組織に所属している事は、ペリドットが気絶している間に小屋がある森ごと焼き払おうとした彼女の仲間たちを生きたまま丸呑みにした結果、得られた記憶からの情報である。

 尤も、こんな後天性の英雄に自殺行為をさせたり、森ごと焼いて殺そうとしたりと言った拙い手段をリッシブルー程の男が考えるとも思えない。

 なので、ペリドットが所属している暗殺組織が南部同盟諜報機関の下部組織である事や、この組織のボスが野心家だった事も併せて考えると、ペリドットの所属する組織が暴走した結果と考えた方が妥当だろう。


「そんな……そんな事が……」

「ま、信じる信じないは勝手だけど、貴女を逃がすつもりだけはないから。後は……気が向いたら話して頂戴、あの戦いの後に貴女がどうなったのかをね」

 まあ、今となっては全て闇の中だ。

 その野心家のボスは暗殺者の記憶から位置を割り出し、私が送り込んだ忠実なる(スネーク)(ゴーレム)が辿り着いた頃には物言わぬ屍になっていたのだから。

 恐らくは暗殺組織より上の組織の人間に切られたのだろう。


「さ、とりあえず適当に布でも羽織って、スープでも飲んでなさい」

「!?」

 私はペリドットが寝ている間に用意しておいた大きめの布を投げ渡し、スープを適当な大きさの器に盛っておくと、今更裸で居る事が恥ずかしくなったペリドットが赤面するのを確認しつつ、炉の前に戻る。

 さて、作業を再開する事にしよう。



-----------------



「ふう、形にはなったわね」

「……」

 数日後。

 私の前には三本の長剣の刃と、一本の短剣の刃が並んでいた。

 後は十分に冷えた後に刃を砥いで切れるようにし、持ち手と鍔を付けるだけである。


「あら、どうしたの?」

「貴方ほどの化け物がこんな物必要とするの?」

 さてペリドットだが、この数日の間に幾らか打ち解ける事が出来た。

 どうにも彼女はトリクト橋の件の後、強盗に浚われ、奴隷商に売られたのだが、運ばれている途中で運よく枷が外れ、それと同時に英雄として覚醒、奴隷商とその護衛たちを私を襲った時にも使った短剣で殺害すると、一緒に運ばれていた奴隷たちと共に逃げ出したらしい。

 そして、逃げ出した先で私を襲った暗殺組織に拾われ、所属、一年近い訓練を経て、初の任務として私を暗殺しようとし……今に至るらしい。

 うん、もしかしなくてもインダークの樹の関与は有っただろう。

 それに後天的英雄に魔力を与えている何者かの関与もだ。

 作為的な何かを感じずにはいられない程の偶然が働いている。

 まあ、そのおかげでペリドットと会えたのだから、インダークの樹と英雄に力を与えている誰かさんを非難することはないが。


「答えなさいよ。土蛇」

 なお、ペリドットの暗殺組織の残党が私に襲い掛かって来た際に、何人かを丸呑みにしたため、ペリドットには既に私の正体はバレている。

 まあ、問題はないだろう。

 それよりも今はペリドットの質問に答えるとしよう。


「私自身はこの内の一本しか必要としないわね」

「一本だけ?」

「ええ、後の二本と短剣を必要とするのは私以外よ。と言うか、こっちの二本のついでに私のは作ったと言ってもいいわね」

「ふーん?」

 私は十分に冷えた刃を砥ぎ始める。

 私が今持っている全てを費やした特別な剣の完成は近い。

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