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ソフィアズカーニバル  作者: 栗木下
第4章:蛇の蜷局囲う蛇
236/322

第236話「戦いの後-1」

 マダレム・シーヤ攻略戦が終わった翌日から、セレーネたちは早速忙しそうにしていた。

 まあ、それも当然の事だろう。

 軍の仕事だけでも、生存者の確認に始まり、死者の埋葬、負傷者の治療、装備の消費具合の確認と補強、部隊の再編等々の仕事があるし、それ以外にも私たちが壊した北門と東門への応急措置、住民の不安解消と各種保証、南側を中心とした外敵が来た時の備え、西部連合の兵が寝泊まりする場所の都合、食料の配給など、恐ろしい数と種類の仕事が存在しているのだから。


「ふう、何とか再現完了」

 だがしかし、この話はセレーネたちに限った話であり、現時点ではまだレイミアと顔を合わせるわけにはいかない私、トーコ、シェルナーシュの三人と言えば、割り当てられた部屋で思い思いの行動を……トーコは筋トレを、シェルナーシュは魔法の研究を、そして私は各種証言と自分の記憶から、あの時の数分間の状況だけを繰り返す、通常の忠実なる(ガーデン)箱庭ゴーレムの数倍細かい模型を作っていた。


「忠実なる箱庭……ではないか」

「ええ、これは検証用の模型よ」

「検証?」

「あの時にちょっと腑に落ちない事が有ったのよ」

 そうあの時……ウィズが有り得ない距離を移動して、レイミアの救出を間に合わせたあの時だ。

 と言うわけで、私はあの時に起きた出来事についてトーコとシェルナーシュの二人にも模型上の駒の動きと合わせて説明する。

 そうして説明した結果……。


「なるほど……確かにこの距離をこの時間で移動しているのはおかしいな」

「うーん、間に建物が無い前提で、私が全力で走っても厳しいぐらいだね」

 シェルナーシュとトーコの二人もこの時のウィズがおかしい動きをしている事に納得をしてくれた。

 まあ、実際のところ、模型上のウィズの駒の動きを見れば、誰でもおかしいと言うに決まっている程度には有り得ない現象が起きているわけだが。


「それでウィズはこの事について何と言っていた?」

「私が指摘したら、相当吃驚していたわ。どうにもあの時は状況的に相当焦っていて、後どれぐらいで着けるのかもよく分かっていなかったみたい」

「つまり、ウィズ本人もこの現象に気づいていなかったわけか」

 尤も、シェルナーシュの言うとおり、ウィズ自身も自分の身に起きた不可解な現象には気付いていなかった。

 また、この現象が起きた瞬間を目撃した人物は私も含めて誰も居らず、そもそも上から戦場全体を見ていた私以外にはそんな現象が起きた事にすら気づいていなかったようであるし、助かるはずが無かったレイミアが助かるという捨て置けない結果が生じていなければ、私も気にしなかった可能性が高い話であるし、気づく方がおかしいのかもしれないが。


「んー……ソフィアん、その時の陽の射し方って再現できる?」

「ちょっと待って、着火(イグニッション)。えーと、だいたいこの辺りかしらね」

 と、どうやらトーコが何か気付いたようなので、私は複数の蝋燭に火を点け、窓を閉め、当時何処から陽が射していたのかを簡易的にだが再現する。


「どうした?トーコ」

「んー……もしかしたらなんだけど、ウィズんてば、影から影に移動しているんじゃないかな?姿が消えたポイントにも、出てきたポイントにも影があるし」

「あら本当ね」

「ふむ……となるとだ。もしかしたら、この現象は対象を含め、誰もが対象の存在を認識していない時に、同様の条件を満たせる影から影へと移動させる魔法によって引き起こされた。と言う事か?」

「何か随分と複雑と言うか、面倒な条件だね」

「まあ、距離と言う最も確かなものの一つを無かった事にするような魔法だし、それぐらいの条件は仕方がないんじゃない」

 トーコの指摘とシェルナーシュの推論通り、ウィズの駒は誰の目からも……それこそ戦場全体を上から観察していた私の目からも外れたその一瞬に、誰の目も向けられていない影から影へと移動しているようだった。

 しかしこれが魔法だとすれば、何処かに術者が居るはずなのだが……。


「ソフィア、ウィズは英雄として覚醒したのか?」

「いいえ、リベリオに確認してもらったけど、ウィズの魔力量に変化は見られないわ」

「ウィズんには魔法の知識は有っても、魔法を扱う能力は無いはずだしねー」

 術者がウィズの可能性は考えなくていいだろう。

 ウィズは魔法を使えないし、後天的英雄として覚醒した兆候も見られなかったのだから。


「野良の魔法使い……ないわね」

「ないな。もしもヒトの魔法使いが使ったなら、今頃は売り込んできている」

「愉快犯の可能性とかもなくはないけど……それは考えるだけ無駄だよね」

 術者が見ず知らずの魔法使いと言う可能性も考えなくていいだろう。

 ゼロではないが、あそこで空間転移の魔法を使える程の魔法使いが、ピンポイントでウィズを助ける理由があるとは思えない。

 と言うか、空間転移の魔法を使えるヒトが居たら、もっと有名になっていると思う。


「後はアタシの鍋みたいな特別な何かをウィズんが持っていたとか?」

「そんなことあるわけ……あっ」

「馬鹿馬鹿しい。そんな便利な物をウィズが持っている可能性が……有り得るな」

 残された可能性はトーコが言う所の特別な道具に依る力だが……うん、一つだけあり得た。

 可能性だけではあるが、この時のウィズが身に付けていた物で一つ……いや、一種類だけ未知の物が有った。


「インダークの樹の枝から造った指輪……」

「ゼロではない。ゼロではないが、それだと……」

「?」

 それは作戦を開始する直前に私がウィズに渡したインダークの樹の枝から造った指輪。

 アレは魔力を有する指輪であるし、インダークの樹本体も膨大な量の魔力を秘める木である。

 なのでこういう事が出来てもおかしくはないが……。


「とりあえず、同じような事が起きる期待はしないようにウィズに言っておくわ」

「仮に乱用できても控えた方がいいな。何を対価に求められるか分かったものでは無い」

「??」

「そうね。相手は木。交渉が出来る相手と言えど、私たちの常識が通じる相手ではない。それが妥当だと思うわ」

「ある意味では小生以上に不可思議で理不尽な存在だしな。それが良いだろう」

「???」

 トーコは自分の発言に端を発する私たちの会話に困惑をしているが、私とシェルナーシュはそれを無視して話を進める。


「じゃあ、ちょっと言ってくるわ」

「レイミアに見つからないように気を付けろ」

「言われなくても分かってるわ」

「えーと、ソフィアん、シエルん?まるで話が見えないんだけど……」

 そして話がまとまったところで、私はシェルナーシュにトーコを任せ、ウィズの元に赴くのだった。

ある意味戦いが終わってからの方が本番です。

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