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ソフィアズカーニバル  作者: 栗木下
第4章:蛇の蜷局囲う蛇
235/322

第235話「マダレム・シーヤ攻略戦-11」

『「レイミア将軍。貴女の懸念事項の一つであるご両親については、既に安全な場所に確保されています」』

『!?』

 セレーネの言葉にレイミアの動きが止まる。

 レイミアはマダレム・シーヤ中にセレーネの声が響き始めた時点で迷ってはいた。

 その迷いの中には、この戦いをいつ終わらせればいいのか、どうすれば出来る限り自分たちの被害を抑えて終えられるか、戦いが終わった後にノムンの手の者に抗う事が出来るのか、それこそ自分の命を投げ打つ必要が有るかどうかまでも含まれていただろう。

 そこに自分の中の心残りの一つにして、この場においては絶対に解決不可能だったはずの問題が解決されていると言われてしまったのだから、彼女の困惑ぶりは推して知るべきだろう。


『……』

『ーーーーー』

『ーーーーーー』

 そして戸惑うのはレイミアだけでなく、レイミア以外の兵士たちもだ。

 既に戦線は膠着している。

 これ以上こちらから刃を振るう気はないというセレーネの言葉通り、ウィズ以外の西部連合の兵士たちは簡易の砦の中に留まるようにしているからだ。 

 そんな状況で自分たちが戦っている理由の一つが失われたのだから、戸惑うのも当然の事だろう。

 そう、そもそも彼らが戦う理由は南部同盟に所属しているからではない。

 彼らが戦うのは自分たちの身を守るため、自分たちが慕うレイミア将軍の両親を害させないためであり、マダレム・シーヤの住民は状況さえ整えばいつでも西部連合の側になり得る気質だった。


『『『……』』』

 勿論セレーネの言葉が嘘である可能性も考えてはいるだろう。

 だが本当である可能性も拭えなかった。

 だから止まる。

 止まって、自分たちの指揮官であるセレーネの判断を待つことになる。

 では、そんな所にこんな知らせが届いたら?


『火付けをする裏切り者が居るぞ!!』

『『『!?』』』

『ノムンに忠誠を誓う奴らだ!』

『奴らはマダレム・シーヤを焼き払う気だ!』

『今すぐに止めろ!火が大きくなったら手が付けられないぞ!』

 私の操る烏人形が、まだ残っていた路地裏で建物に火を点けようとする男たちの存在をマダレム・シーヤの兵士たちに、そしてレイミアにも伝える。

 私の言葉を聞いたレイミアは迷わなかった。


『全軍に通達!西部連合との戦闘を中断し、マダレム・シーヤに害を為さんとする者どもを捕えろ!』

『『『はっ!』』』

 丁度近くを通りかかった烏人形の耳にもはっきりと聞こえるような良い声でレイミアがマダレム・シーヤの兵に捕縛を命じる。

 この時点で兵同士の戦いは完全に終わった。

 複数の烏人形を同時並行的に別々に動かすという、私でも限界ギリギリな曲芸じみた真似をしつつ、私はこの戦いをそう認識した。

 そして兵同士の戦いが終わったからこそ、あの二人の動きが問題になる。


「はぁはぁはぁ……」

 この時、ウィズは何処か焦った表情でマダレム・シーヤの中心に向けてひたすらに駆けていた。

 焦りの原因は、この状況で南部同盟に忠誠を誓う者が出来るだけ大きな被害を与えようと思った時に何をするのかの予想が付いているからだろう。


『……』

 と同時に、例の副官も自分の思惑が外れ、状況が予想もしなかった方向に推移していく事に焦りの色を浮かべつつ、マダレム・シーヤの中心に向けて走っていた。

 この副官の目的は私には既に読めている。

 読めているが……今の私には手出しできる余裕が無いので、その動きを見守るしかない。


『ーーーーーー!』

 そしてレイミアが居るマダレム・シーヤ中央の司令部に先に辿り着いたのは……副官の方だった。

 既に彼は自分がレイミアに敵として認識されていると判断しているのだろう。

 気配も殺気も消していたが、レイミアに向かって真っ直ぐに駆けて行く彼の姿は明らかに暗殺者のそれだった。

 私はこの時点でレイミアの生存は絶望的だと判断した。

 なにせ、レイミアも、レイミアの周囲の兵士たちも、レイミアの背後に向けて走る副官に気づいておらず、この状況で唯一レイミアを守れる可能性があるウィズも、彼女の元に辿り着くまでに後二つは角を曲がらなければならなかったからだ。


『ーーーーーー!!』

『!?』

『『『!?』』』

 そうしてレイミアの背後で副官が剣を抜き、振り上げた瞬間。


「へ?」

「どうしましたか?ソフィールさん」

 私は信じられないものを見た。


『させるか!』

『何っ!?』

『ファナティー!?それに……誰だ!?お前は!?』

 絶対に間に合わないはずの距離に居たウィズがいつの間にかレイミアの元に辿り着いていて、ファナティーと呼ばれた副官の剣を防いでいたからだ。


『我が名はウィズ・グロディウス。七天将軍七の座レイミア将軍の御身を守るために参った!』

『なっ!?ウィズ・グロディウスだと!?』

『一体何時の間に……』

 まるでウィズが駆けなければならない道筋を途中で切って繋げた様な……そんな奇跡としか言いようのない現象が起きていた。

 状況に合わせてレイミアの殺害、捕縛、保護を行うウィズの任務が間に合ったのは嬉しい話だが、そんな喜びで消してはいけないような不可解な現象が私の前で起きていた。


『レイミア将軍!詳しい話は後です!今は……!』

『そうだな。詳しい話は後回しだ。ファナティー。覚悟してもらうぞ』

『くっ……こうなれば……死なば諸共よ!』

 ファナティーが懐の魔石に大量の魔力を集めながら、レイミアたちに向けて突貫する。

 恐らくは自爆するつもりなのだろう。

 いやそれよりもさっきの現象は幻か何かだったのだろうか?

 どうにも私以外には誰も騒いでいないような……ああいや、そもそもそんな事が起きたと認識できたのが、上から戦場全域を見渡していた私だけだから、気付かなくて当然なのか。

 だとすれば後は何故そんな事が起きただが……。


『がっ……無念』

 ああうん、駄目だ。

 状況が錯綜し過ぎていて、考えがまとまらない。


『白旗を掲げろ!我々マダレム・シーヤは西部連合に降伏する!!』

 とりあえずウィズとレイミアはファナティーを自爆させる事無く仕留めたようだし、状況が落ち着いたら何が有ったのかを確認し、原因を考えるとしよう。


「セレーネ様!マダレム・シーヤの白旗を確認しました!」

『「分かりました。では、我々はマダレム・シーヤの降伏を受け入れます」』

 いずれにしてもマダレム・シーヤ攻略戦は私たちの勝利で終わった。

 今はその勝利をぶち壊すような真似をする者が居ないか探す事に専念するとしよう。

 それが私の仕事なのだから。

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