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ソフィアズカーニバル  作者: 栗木下
第4章:蛇の蜷局囲う蛇
234/322

第234話「マダレム・シーヤ攻略戦-10」

接着(グルー)

『『『!?』』』

 まず初めに東門近くの物陰に潜んでいたシェルナーシュが接着の魔法を発動した。

 ただし、その範囲は東門上の城壁と広場全域と言う、恐ろしく広い範囲である。

 そしてシェルナーシュの魔法の結果、その場にいた全ての兵士は石畳と城壁に接している部分……つまりは靴や鎧、更には足や背中がくっついてしまい、一切の身動きが取れないようになってしまう。


『いっくよー!』

 シェルナーシュの魔法発動から一拍遅れて、トーコが動き出す。

 その手に握られているのは、両手持ち用の見るからに重そうな大剣。

 トーコはその大剣を持った状態のまま軽々と跳躍し、身動きの取れない兵士たちの頭上を飛び越して東門の裏側に回ると、大剣を縦に一振りして、東門を裏側から抑えていた閂を切り捨てる。

 そして有ろうことか、空を踏みしめると東門に向けて飛び蹴りを放ち、東門を一気に全開にさせる。


『『『ーーーーーーーーー!!』』』

『『『ーーーーー!?』』』

 そうして東門が開け放たれた事によって、城壁の上に居た者以外の兵士も、東門の外を見る事になり……大いに驚くことになる。

 なにせ、トーコが東門を開け放ち、勢いそのままに戦場から離脱するのと入れ替わるように、東門の前に居た西部連合の兵士たちが東門から都市の中に流れ込んでくるのだから。

 東門の兵士たちは抵抗する事も出来なかった。

 なにせどんなに状態が良い兵士でも、両脚が地面と一体化していてその場から動けないのだから。

 予めセレーネとウィズがそう命じていたので、抵抗しない限りマダレム・シーヤの殆どの兵士は武装解除させられるだけに留まったが、そう言う命令が無ければ彼らがどうなっていたのかは想像に難くないだろう。


『『『ーーーーーーーー!!』』』

 そうして東門前広場でも、北門と同じように土壁が展開され、制圧が完了。

 シェルナーシュも分離(デタッチ)の魔法によって接着の魔法を解除すると、マダレム・シーヤから離脱する。


『ーーーーー!』

「ふむ。南門と中央が救援に動き始めたわね」

「西門は?」

「外の兵たちが上手くやってくれているわ」

 勿論これだけ好き放題にやられて、マダレム・シーヤの兵たちが黙っているわけがない。

 マダレム・シーヤの中央の司令部でレイミアが何かの指示を出し、その場に詰めていた兵たちを北、東、西の三方に向けて移動させ始める。

 それと同時に、南門の指揮官が恐らくは自己判断で最低限の兵を残して、他の門の救援に兵を向かわせようとする。

 だが、彼らが到達した所で戦況は変わらないだろう。

 既に強固な城壁による利は彼らには無くなっており、私たちは簡易的ではあるものの、土の壁による利を得ているのだから。


「それは吉報ですね」

「ええ、地味だけど手柄よ」

 また、ただでさえマダレム・シーヤが不利な状況ではあるが、それに加えて西門を守るマダレム・シーヤの兵はその場から動けなくなっている事が、より一層彼らの状況を厳しくしていた。

 何故西門の兵は動けないのか。

 理由は単純だ。

 と言うのも、西門の前には西部連合の兵たちが居るのだが、彼らは今にも突撃しそうな様子を見せたり、城壁を崩す準備があるように見せたりすることで、西門の兵士たちをその場に釘づけにしているのである。


「では、そろそろですかね。作戦の第二段階に移行します。準備を」

「「「了解しました!」」」

 さて、北門と東門が制圧され、西門の兵は釘づけ、残る兵との戦いも土の壁によってこちらが有利な状況へと持ち込めている。

 つまり大勢は決しているとみていい。

 故にセレーネはこの戦いの決着を付けるべく動き出し、私も裏方としての作業を進める。


拡声(ラウドスピーク)!」

『「すぅ……マダレム・シーヤの皆様。聞こえていますか?」』

 セレーネが部下の魔法使いに命じて使わせたのは、対象の声を風に乗せて響かせることによって、周囲一帯に聞かせる拡声の魔法。

 そして、拡声の魔法に合わせる形で、私も使役魔法によって地面を振るわせることによって、拡声の魔法が届かないマダレム・シーヤの南側へとセレーネの声を届かせる。


『「私の名前はセレーネ・レーヴォル。西部連合の王です。マダレム・シーヤの皆様、そしてレイミア将軍。既にこの戦いの大勢は決しました」』

 さて、セレーネによるマダレム・シーヤの兵士と住民、そして七天将軍七の座レイミアの説得が始まったところで、私はセレーネの声の拡声は自動的にやるように処理を変えつつ、数を増やした烏人形で上と下の両方からとあるものを探し始める。


「セレーネの懸念は正解だったようね」

 それはこの状況下で動きを止めるでもなく、戦いに加わるでもなく、怯え縮こまるでもなく、人目を避けるように動き、陰で何かをしようとしている者たち。

 彼らは路地裏に何かを持ち込むと、そこで味方の兵士からも隠れて何かを……油を染み込ませた布に向けて火打石を打ち始める。

 そして同じように動く者が、マダレム・シーヤ内の複数個所に居た。

 彼らの目的は言うまでもない。

 マダレム・シーヤを住民ごと焼き払う事によって、私たちに手痛い被害を与える事なのだ。


「さて……『火付けをする裏切り者が居るぞ!!』」

『『『!?』』』

 勿論、私がそんな事を許す訳がない。

 烏人形で彼らの所業を認めた私は大きな声を上げ、近くに居たマダレム・シーヤの兵と住民を呼び寄せることによって彼らの行動を止めさせ、万が一火が点いてしまった時にも、火が小さい内に大量の土を被せることによってボヤで済まさせる。


「これで後は……ウィズだけね」

 大方の火付けを捕え終えたところで、私は周囲のヒトとは動きの違う三人……ウィズ、レイミア、そして一人残っているレイミアの副官の姿をそれぞれに捉える。

 私の考えが正しければ……この三人の動き次第で、この戦いがどう終るかが決まるはずである。

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