第233話「マダレム・シーヤ攻略戦-9」
「では、作戦を開始します」
セレーネの号令で、昨日までと同じように弓矢と魔法による攻撃がマダレム・シーヤに向かって放たれ、マダレム・シーヤ側も反撃として弓矢と魔法をこちらに向かって放ってくる。
「透明化」
そんな中、本陣に設置された無数の塀の一つの影で、ルズナーシュが自らの魔力を自分と自分の周囲に集まったリベリオと数人の魔法使いを覆い隠すように展開、一つの魔法を発動してその姿を見えなくする。
『では、ルズナーシュ他七名、作戦を開始します』
「セレーネ、ルズナーシュが動き出すわ」
「分かりました。では、継続して攻撃を行うように」
ルズナーシュの使った魔法の名は透明化。
魔石なしに使う事が出来るルズナーシュの魔法の一つであり、その効果は自身の魔力を展開している範囲内に居る対象の姿を見えなくさせるというもの。
尤も、見えなくさせると言っても、私の熱を見る目やリベリオの魔力を見る目のような特殊な視覚は誤魔化せないし、ルズナーシュの魔力の範囲外に出たり、逆に敵が魔力の範囲内に入って来ても見えてしまう。
他にも見えないだけで普通に足音は聞こえてしまったりと、実は欠点も多い魔法である。
ただ今回はそれらの欠点を気にする必要はないだろう。
「全員、矢と魔法を切らさないように注意しなさい!敵に当たらなくても問題はありません!」
セレーネの指示でこちらからの攻撃が一層激しくなる。
攻撃が激しくなれば、当然それだけ戦場に響く音は大きくなり、元々革の鎧などで音を消すように努めていたルズナーシュたちが発する音は一層聞こえなくなる。
また、お互いに前日からの流れで城壁の下に兵をやっていない。
そのため、接近されすぎてバレると言う心配も皆無だった。
唯一の不安要素は意図せぬ流れ弾にリベリオたちが被弾する可能性だが……その辺りは同行している『輝炎の右手』の魔法使いに頑張ってもらうしかない。
まあ、たぶん大丈夫だろう。
「では陛下。私も作業を始めます」
「お願いします」
さて、一先ず北門の事はセレーネたちに任せるとして、上空からの偵察以外にもやる事が有る私は一度馬から降りると、地脈を介した使役魔法を発動する。
発動するのはウィズに持たせてある忠実なる蛇の魔石。
『準備は良い?』
『すぅ……はぁ……大丈夫です』
『アタシたちがここに居る風に見せる工作は終わってるよー』
『装備の方も問題なしだ』
私の視界にマダレム・シーヤの兵士の姿をしたウィズたち三人が映り込む。
どうやら準備は万全であるらしい。
『では、移動を開始するわ』
私は周囲の地面から土を取り込んで体を大きくすると、ウィズたち三人を土の蛇の中に入れて、マダレム・シーヤに向けて地中を潜行しはじめる。
『こちらルズナーシュ。北門の前に到達。敵影は無し。リベリオが発動の準備を始めます』
「と、セレーネ。到達したわ」
「分かりました。では、兵の準備を」
と、私がウィズたちをマダレム・シーヤ内の適当な場所に移動させている間に、ルズナーシュたちから北門に辿り着いたと言う報告が上がる。
そして、その報告に合わせるようにセレーネは騎馬兵を中心とした部隊を用意する。
当然、彼らの中には長い梯子を抱えている者も居る。
となれば必然、マダレム・シーヤ側は私たちの行動を城壁に取りついて攻撃を仕掛ける構えだと読み取り、城壁から落とす物の準備や、近距離戦闘に備えた準備を始めることになる。
だが数手遅い。
『こちらシェルナーシュ。準備完了した』
『父上、彼女は?』
『レイミアは今、マダレム・シーヤの中央、指揮所に居るわ』
『ありがとうございます』
マダレム・シーヤの中に入り込んだウィズたちは活動を始める。
シェルナーシュとトーコは東門の近くで待機してその時を待つ。
ウィズはレイミアが居る場所に向けて他の兵士たちに紛れ込む形で移動を開始する。
『こちらルズナーシュ。カウント開始。3……2……1……』
「カウント開始。3……2……1……」
「……」
ルズナーシュからは開始までのカウントダウンが告げられ、セレーネは私の声に合わせて突撃の号令を下す為の右腕を上げる。
『「0!」』
『解放!』
「「「!?」」」
カウントが0を告げた瞬間。
マダレム・シーヤの北を守る鉄の門の一部が爆発音とともに弾け飛び、門の内側に居たマダレム・シーヤの兵士を吹き飛ばしながら猛烈な勢いで爆煙を吹き上げる。
それはリベリオの目には見えない非生物だけを焼く炎が、鉄の扉を蒸発させるだけの熱量を蓄えた後に解放された結果だった。
「突撃ぃ!!」
「「「ーーーーーーーーーーーーー!!」」」
と同時に、セレーネの右腕が振り下ろされ、私たちの周囲に居る兵士たちが鬨の声を上げながら北門に向かって突撃を始める。
『物だけを焼け!』
『『『土壁!』』』
『炎壁』
そして、兵士たちの突撃に合わせるように、リベリオが鉄の扉に開いた穴からマダレム・シーヤ内に侵入。
物だけを焼く炎の剣を北門前の広場で横に一閃して、マダレム・シーヤの兵士たちから武器と防具を奪い、続けてマダレム・シーヤ内に入り込んだ魔法使いたちが、フロウライトの建設工事で鍛え上げた土壁の魔法を発動して、高い土の壁によって北門前の広場を周囲から隔離。
そこから更にルズナーシュが炎壁の魔法によって土壁と北門上の城壁を燃え上がらせる。
勿論これらは全て一時的な無力化であり、防御でしかない。
直に破られる事は間違いないだろう。
『『『ーーーーーーーーーー!!』』』
『『『ーーーーーー!?』』』
だが、その一時の防御が機能している間に、事前に突撃を開始した兵士たちが北門に到達し、マダレム・シーヤの北門はあっけなく制圧される。
そして、北門の制圧と時を同じくする形で東門でも動きが生じる。
09/26誤字訂正