第229話「マダレム・シーヤ攻略戦-5」
マダレム・シーヤ攻略戦二日目。
セレーネはレイミアに己の実力を示すべく行動開始した。
セレーネは軍を三つに分けると、自身が指揮する軍はマダレム・シーヤの北に作った本陣に留め、ウィズが指揮する軍をマダレム・シーヤの東に、ルズナーシュが指揮する軍をマダレム・シーヤの西に向かわせた。
そして、準備が整うと三方から同時に攻めかかった。
尤も、攻めかかったと言っても、マダレム・シーヤ側は城壁の外に出てこようとせず、城壁の上から矢と魔法を放つだけに留めており、こちらもそれに合わせるように防御用の盾の影から矢と魔法だけで攻撃を仕掛け、決して無理をしないように行動したため、両軍共に被害らしい被害も出ていないのだが。
また、セレーネも私も周囲に存在する南部同盟の都市や拠点から援軍が出されないか、わざと開けておいたマダレム・シーヤの南門から出てくる者が居ないか警戒をしていたのだが、この日はどちらも起きなかった。
マダレム・シーヤ攻略戦三日目。
セレーネは前日と同じように攻撃を仕掛けた。
が、マダレム・シーヤ側に動きは無く、東と西にもマダレム・シーヤの北に設営した本陣と同じような陣地が造れてしまった。
この陣地はマダレム・シーヤ側からの坂を駆け下りる勢いを生かした攻撃に備えて造ると同時に、マダレム・シーヤ以外の南部同盟の軍に対応するべく造った陣地であり、これが完成してしまうとマダレム・シーヤにとってはそれなりにツラいはずだが……レイミアは一体どういうつもりなのだろうか?
それとマダレム・シーヤの東に展開している軍を任せているウィズの調子が多少良くない。
良くないと言っても、上から見ている私だからこそ分かる程度の悪さだが。
マダレム・シーヤ攻略戦四日目。
この日は陽が昇る前に少々動きがあり、マダレム・シーヤの南門から他の都市に向けて脱出する複数の騎馬の姿が確認できた。
私はその騎馬を援軍を求める伝令か、ノムンへの報告を行う諜報員だと判断すると、マダレム・シーヤから幾らか離れた場所で野良妖魔に襲わせ、始末した。
日中の動きについてはウィズの調子が目に見えて悪くなっている点を除けば変化なし。
一応、夕食時に大丈夫かと問い詰めたが……うーん、どうにも反応が良くなかった。
なので私は何か有った時に備えて、例の件が上手くいく可能性が見えてきたことと一緒に、セレーネたちにウィズの事を話しておくことにした。
マダレム・シーヤ攻略戦五日目。
大きな動きが有った。
恐らくはウィズの調子の悪さを察したのだろう。
レイミアがマダレム・シーヤの東門から僅かな手勢を率いて出撃すると、東門の前で展開したウィズの軍に襲い掛かったのだ。
勿論、私はレイミアが出撃する前にこの事に気づき、セレーネに援助を出すように要請、セレーネの指示の下、センサトたちが東門の前へと急行し、ウィズの軍と戦闘を行っていたレイミアたちに奇襲を仕掛けた。
結果、ウィズは危ないところを辛くも救われ、多少の被害を出しつつもレイミアは大きな被害も出さずにマダレム・シーヤの中へと戻って行った。
敵ながら天晴れと言う他の無い動きだった。
そしてマダレム・シーヤ攻略戦六日目。
「ウィズ・グロディウス。なぜ自分が呼ばれたかは分かっていますね」
「はい」
ウィズは自軍本陣の天幕へと招かれ、私とセレーネを筆頭とした人々の前に立たされていた。
「昨日は不甲斐ない姿を見せてしまい、申し訳ありませんでした」
「そうですね。とても不甲斐なく、情けない姿でした」
セレーネの言葉は厳しく、怒りと呆れを含んでいる。
ウィズもセレーネが自分に対してそんな感情を抱く理由に自分でも気づいているのだろう、握った手は震えていた。
「ウィズ。私は怒っています。貴方の不調具合と、不調の理由やその対策の相談を誰にもしなかった事を。そして、貴方の不調具合に気づかなかったが為に兵を傷つけ死なせることになった私自身に」
「……っ!?」
「陛下それは……」
「王である以上は部下の行動の結果の責任は負って然るべきですから。貴方が何を言ってもこれは変わりませんよ。ソフィール」
「……。分かりました。では口を噤みましょう」
ウィズの震えが大きくなる。
本当に自分の事を情けなく思っているのだろう。
なにせ自分が支え、守るべき王にこんな思いを抱かせてしまったのだから。
「さてウィズ・グロディウス。分かっていますね。昨日のアレは、貴方がきちんと指揮をしていれば起きなかった事態です。そして、もしも貴方の不調が上辺だけの物であれば、あの場でレイミア将軍を捕える事も出来たでしょう」
「はい……」
「では貴方に問わせていただきます。一体何故それほどまでに調子を崩しているのですか?正直に、包み隠さず、貴方自身にある心当たり全てを話しなさい」
「はい……」
さて、ここからが本題である。
ウィズの調子が悪い原因を掴まなければならない。
その原因如何によってはウィズを後方に下がらせ、別のヒトに東門の攻めを任せる必要もあるだろう。
なので私とセレーネは勿論の事、リベリオやバトラコイ、トーコにシェルナーシュと言った他の面々も真剣な表情でウィズの言葉を待つ。
「じ、実は……」
「「「ゴクリ……」」」
そしてウィズが放った言葉は……
「レイミア将軍を初めて見た時から胸の高まりが収まらず、どうしたらよいのか分からなくなってしまったのです!!」
「はっ……?」
「へっ……?」
「「「!?」」」
私にもセレーネにも予想外と言う他の無い理由だった。
惚れたまでは予想の範囲内でした
09/21誤字訂正