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ソフィアズカーニバル  作者: 栗木下
第4章:蛇の蜷局囲う蛇
227/322

第227話「マダレム・シーヤ攻略戦-3」

「本当に便利だね。この魔法」

 数日後、セレーネを旗印とした私たち西部連合の軍勢は、マダレム・シーヤの北に陣地を構えていた。

 で、私、トーコ、シェルナーシュの三人は当初の予定通りに西部連合の陣地の中でも後ろの方に張られた天幕の中で表向きはくつろいでいた。

 そう、表向きはだ。


忠実なる(ガーデン)箱庭(ゴーレム)だったか」

「呼び名が無いと面倒だって事で適当に付けた名前だけどね」

 天幕の中にはマダレム・シーヤとその周辺の地形を忠実に再現した土造りの模型が置かれていた。

 そして模型の上では、赤と青で色づけされた小さな駒が複数活発に動いている。

 魔法の名は忠実なる(ガーデン)箱庭(ゴーレム)

 と言っても、ただ使役魔法と忠実なる(クロウ)(ゴーレム)を組み合わせ、烏人形が見ている光景を基に模型の作成と駒の移動を半自動で行っているだけの魔法なので、私としては新魔法と言う意識はないのだが。


「ま、トーコとシェルナーシュは私の護衛に専念していて。私は周囲の安全に気を使える程余裕はないだろうし」

「うん分かった」

「ああ、任せておけ」

 話を戻そう。

 今現在私がセレーネに任されている仕事は三つ。

 一つ目は戦略上大きな価値があるという事で、この忠実なる箱庭の魔法を維持する事。

 二つ目はとある事柄の準備。

 三つ目は……各地で行われている南部同盟との戦いに忠実なる(クロウ)(ゴーレム)の魔法を利用して助言と言う形で介入、支援することである。


「じゃ、始めるわ」

 うん、この三つ目の仕事が特に厄介だ。

 西と南はセレーネの書状で本物であることを証明すれば、後は私の実力を知っているヒトを介して情報や策を与えるだけで済むが、東については私個人の伝手を利用するか、いっそのこと私の言葉を神託か何かだと勘違いさせて操らなければならない。

 そして当然の話ではあるが、戦場ごとに状況は異なり、状況が異なる以上は求められる物も違う。

 つまりは私が採るべき行動も変わるのだ。

 うん、私でなければ過労で倒れるぞこれ。

 セレーネは私なら大丈夫だとこんな仕事を割り振ってきたわけだが、最近、こう、妖魔である私をものの見事に利用してくる様からは、どことなくシチータのそれを感じなくもない。

 まあ、セレーネが成長している証拠として喜んでおくしかないのだろう。



--------------



 私が烏人形によって各地への介入を始めてから数時間後。


「それでセレーネたちはどうするつもりなんだ?」

 シェルナーシュが模型を眺めながら、私にそう問いかけてくる。

 見れば、マダレム・シーヤの北門部分にこちらの指揮官クラスのヒトである事を示す青い駒が五つ、南部同盟の指揮官クラスのヒトが居る事を示す赤い駒が数個並んでいる。


「今日の所は普通に説得すると言っていたわね」

 また、それぞれの指揮官の駒の周囲には、どれぐらいの一般兵がいるのかを端的に表した色つきの土が盛られている。

 うんまあ、この様子なら大丈夫か。

 レイミアとマダレム・シーヤの兵士たちに突撃を仕掛けてくる様子は見られないし、セレーネも相手が攻撃を仕掛けて来ても良いように備えているみたいだし。


「駒が五つ?誰が行っているの?」

「んー……この駒だと……セレーネ、ウィズ、リベリオ、ルズナーシュ、バトラコイの五人ね」

 さて、私の忠実なる箱庭によれば、レイミアとの交渉に赴いているのは五人。

 西部連合の王であるセレーネ・レーヴォル。

 私の息子であるウィズ・グロディウス。

 後天性の英雄にして、この戦場に居る面々の中でも五指に入る戦闘能力を有するリベリオ。

 シェルナーシュの息子にして、『輝炎の右手』の長であるルズナーシュ・メジマティ。

 セレーネを守護する親衛隊隊長のバトラコイ・ハイラ。

 うん、私が良く知っているのは五人中四人だが、錚々たる面々だと言えるだろう。


「バトラコイ……ああ、あのデカ女か」

「良い子だよね。バトちゃん。料理も上手だし」

 ちなみに私は彼女……バトラコイ・ハイラの事をよく知らないが、背後関係に問題が無い事は調査済みである。

 まあ、セレーネとリベリオの二人と同じように、赤子の頃から孤児院暮らしだったので、背後関係もくそも無かったのだが。

 なお、実力についてはトーコと幾らか打ち合える程であり、ヒトとして破格と言っても良いだろう。

 そんな高い実力に加えて、私よりも頭半個分高い背とセレーネへの忠誠心もあって、セレーネに対して反抗心を抱く者への威圧効果は絶大と言っていい。

 うん、実に素晴らしい人材だ。


「……」

「どしたの?シエルん?」

「どうしたの?」

「いや、なんでもない」

 一つ補足しておくと、シェルナーシュは何故か彼女の事が苦手らしい。

 トーコと同じ黒髪赤目で、似た雰囲気を漂わせているからだろうか?

 まあ、私には関係ない話であるが。


「それよりもだ。ソフィア、交渉は上手くいくと思うか?」

 話が脇に流れ始めていると感じたのか、シェルナーシュが話題を戻す。


「そうね……」

 私もシェルナーシュの質問に答えるべく改めて模型に目を向ける。

 うん、この状況なら……。


「今日の所は交渉も出来ないと思うわ」

 模型では私の言葉から一拍遅れてお互いの指揮官駒が、自らの陣地へと移動し始めていた。

バトラコイ・ハイラですが、既に御察しの方も居るかもしれませんがトーコの娘です。

なお、トーコも自分の娘だとは気付いていない模様。

更に言えば身体能力がギリギリ英雄に入るかどうかのレベルの為、周囲から英雄だと認識されてません。

当然、身体能力に回らなかった分だけ、別の何処かに英雄足るに相応しいだけの力が秘められているのですが……周囲がそれに気付く事も無いようです。


09/19誤字訂正

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[気になる点] いや、トーコいつのまに産んだの!?
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