第223話「橋架け-12」
「以上が報告となります」
マダレム・サクミナミはノムンの城の一角。
そこには三人の男……南部同盟の王であるノムン、七天将軍一の座にして親衛隊隊長でもあるゲルディアン、七天将軍六の座にして南部同盟の諜報を司るリッシブルーが居た。
「使い捨ての駒では一週間と保たないとは思っていたが、まさか丸二日も経たずに戦を終わらせるとはな」
「ええ、これではレイミア将軍も手の出しようが無かったかと思われます」
「だろうな。だが成果は有った」
リッシブルーの報告を読み終えたノムンの言葉に、リッシブルーもゲルディアンも小さく頷く。
「確かに。マダレム・エーネミの元に東部連盟の愚か者が兵を出している内に、マルデヤ将軍とイレンチュ将軍の働きによって二つほど東部連盟の都市国家を落とす事が出来ましたな」
「それに加えて、奴の使う魔法と奴が隠していた英雄の存在を明らかに出来たからな。これは都市国家一つを落とすのと同程度の戦果と言っていいだろう」
ノムンは小さく笑みを浮かべると同時に、机の上に置かれていたヘニトグロ地方全域を記した地図に南部同盟の旗を新たに二本突き刺す。
その場所は東部連盟の領域だったはずの場所であり、旗の下には駒が二つ置かれていた。
そしてその地図をよく見れば、同じような駒がマダレム・サクミナミに二つ、マダレム・シーヤに一つ、西部連合との境界に一つ、地図の外に一つ置かれており、地図の外に置かれた駒をさらによく見れば、その首は折られて無くなっていた。
また、色違いの同じような駒が西部連合と東部連盟の各所に数個置かれており、フロウライトには古びた駒と真新しい駒が一つずつ置かれていた。
「奴……ソフィールの事ですな」
「そうだ。お前たちは奴の魔法をどう思う?」
「そうですなぁ……私個人としては奴の魔法はヘテイルの式神術……所謂使役魔法ではないかと思っております」
「ほう。その使役魔法とやらはどんなものだ?」
ノムンの求めに応じる形で、リッシブルーがヘテイルの式神術について知っている事を話していく。
使役する対象を己の手足のように扱ったり、五感を共有させたり出来る事は勿論の事、ソフィアが使う土の使役魔法がヘテイルでは禁忌とされていると言う、一般には知られていないはずの情報までも。
そしてリッシブルーの話を聞き終えたノムンは満足げに一度頷くと、こう言い放つ。
「つまりリッシブルー、お前は奴の後天的英雄としての能力を、土を対象とした使役魔法に特化していると考えているわけだな」
「その通りに御座います。陛下」
「なるほど確かに道理は通っているな。今までにも奴は自分が居ないはずの場所の情報を得ている事が有った。それが出来たカラクリが、この土の使役魔法と言う事か。となると奴の使役魔法の範囲は……」
ノムンは卓上の地図に一つの円を書き込む。
その円はフロウライトを中心として、半径はマダレム・セイメまで届く大きさとなっており、ヘニトグロ地方の四分の一から三分の一程度はカバーしていた。
当然円の中にはノムンたちの居るマダレム・サクミナミも入っている。
「ふむ。随分と広いな。だが……」
「ええ、術者から距離が開けば開くほど、大したことは出来なくなるでしょう。それは英雄であろうとも変わりないはずです」
「となると戦闘に用いれるのは極々狭い範囲か。だが奴の知略を考えたら、厄介な事には変わりないな」
「諜報を司る身といたしましては、情報を一方的に奪われるだけでも痛手ではあります」
その事実にノムンは眉をしかめ、リッシブルーも表情こそ変えないが、困ったと言わんばかりの声音を出す。
「一先ず城内を徹底的に掃除し、存在している土を指定した箇所に集め、指定外の場所で土が確認されたならば隔離した上で詳しく検分させるとしよう。それだけで軍議を盗み聞きされる可能性は大きく減るはずだ。勿論屋根上や屋根裏もやってもらうぞ」
「御意に御座います」
だがノムンはただ悩むだけでは無かった。
何を知られたら拙いか、どうやればそれを防げるかを考え、直ぐに答えを導き出した。
「残る懸念は奴との距離が近くなった場合に、直接仕掛けて来る場合だが……ゲルディアン」
続けてノムンの視線がゲルディアンに向けられる。
ゲルディアンはそれだけでノムンの意図を察すると、小さく口を開く。
「奴の全力が分からないので確証は致しかねますが……、奴が陛下の周囲の大地に干渉を仕掛けて来ても、防ぐ事は可能であると考えます……」
「理由は?」
「使役魔法がどのように対象を操るかは分かりませんが、魔力を利用している事は間違いありません。故に、奴が使役対象に与えている魔力以上の魔力をぶつければ、それ以上動かす事は出来なくなると思われます」
「ふむ、リッシブルー」
「ゲルディアン将軍の考えで間違っていないかと、ヘテイルでは邪法であるヒトを対象とした使役魔法への対抗策として、それ以上の魔力を浴びせて解除すると言う技法があるとの事ですので」
「なるほど。では、お前が近くに居る限り、問題はないという事か」
「はっ、ご期待に沿えるように頑張らせていただきます」
ゲルディアンがノムンに向けて小さく敬礼を終えると同時に、ノムンはマダレム・シーヤの上に置かれている駒へと視線を向ける。
「後はレイミアとマダレム・シーヤだが……リッシブルー」
「ご安心を。レイミアについては……」
その後も南部同盟で最も厄介な三人だけでの話し合いは続き、話し合いが終わると同時に彼らは再び動き出したのだった。
これだけ派手に動けば、そりゃあ魔法の正体ぐらいはバレますとも