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ソフィアズカーニバル  作者: 栗木下
第4章:蛇の蜷局囲う蛇
222/322

第222話「橋架け-11」

 私がオリビンさんを殺した後の処理はつつがなく進んだ。

 残った東部連盟の将兵は素直に陣地へと戻り、翌日の朝には『ソフィール・グロディウスに果敢に挑みかかったマダレム・バヘン第二中隊隊長オリビンに敬意を示す』と言う名目でフロウライトから幾らかの食料を渡して、こちらの要求通り昼には陣地から撤退していった。

 なお、マダレム・バヘンに着いた後、そこから彼らは先に去って行った面々や、マダレム・バヘンに残っていた者たちと共にそれぞれが所属する都市国家に帰って行ったわけだが……今回の兵を率いていた指揮官が数名、その帰路で行方を眩ませたり、不慮の事故に遭って死んだらしい。

 まあ、事故なら仕方がない。

 ちなみに今回は本当に私は何もしていない。


「本日はよろしくお願いいたします。ソフィール殿」

「ええ、こちらこそお願いいたしますね」

 さて、そんなこんやで二週間後。

 私は東部連盟が今回の戦で作った陣地で、マダレム・バヘンから派遣されてきたマダレム・バヘンの有力者……それもオリビンさんの上司だったヒトと会っていた。


「では早速で申し訳ありませんが、今回マダレム・バヘンの方を招いた理由を説明させていただきますね。実は……」

 そうして今日の会合の目的を話したところ……


「ほ、本気ですか……!?」

「勿論本気です」

 オリビンさんの上司は絶句していた。

 まあ、彼の反応も当然のものではある。

 と言うのもだ。


「いや、確かに我々マダレム・バヘンにとっては好ましい事ではありますが……」

 私の提案は、今回の戦いで造られた東部連盟の陣地を、そのままマダレム・バヘンに渡し、管理と運営を任せると言う物なのだから。


「ふふふ、懸念はごもっとも。けれど私たちにとっても、ここはこうしておいた方が都合がいいのです。と言うのも……」

 当然オリビンさんの上司は私の言葉に裏が無いかと疑わざるを得ないだろう。

 なにせ二週間前に戦った相手から、その戦いで使われた拠点を返還すると言われたのだから。

 むしろ疑わない方がおかしい。


「な、なるほど。それならば確かに……」

「ええ、この陣地についてはマダレム・バヘンに管理をしていただいた方が、我々西部連合にとっても、東部連盟にとっても都合がいいのです」

 だがそれでも私はマダレム・バヘンにこの陣地を渡す。

 今後築くことになるトリクト橋前の砦兼関所を運用するためにも、マダレム・バヘンの安全のためにも、西部連合と東部連盟の友好関係維持のためにも、南部同盟との戦いのためにも、その方が状況が好転する可能性が高いのは明らかなのだから。


「分かりました。そう言う事ならば、早速マダレム・バヘンに戻って今回の件を他の者にもお伝えしましょう。まずはこの場をきちんとした砦とする事を、そしてその後どのように発展していくのかをソフィール殿が望んでいるのかも」

「ありがとうございます。よろしくお願いしますね」

 そしてこの地に東部連盟の陣地が出来れば……南部同盟との戦いが終わった後のフロウライトとマダレム・バヘンの発展と繁栄にも大きく寄与してくれるだろう。

 そうなった時の未来を考えたら、私は笑みを浮かべずにはいられず、握手も自然と力が入る事になった。

 勿論、ヒトの力の範囲内でだが。


「さて、公的な話は此処までとして、私的に伺いたい事が有ります」

「私的に……ですか?」

「ええそうです」

 さて、握手も交わし、各種書類に対するお互いのサインも終わったところで、話は私的な方面に及ぶことになる。


「マダレム・バヘン第二中隊隊長オリビンには妻と娘が居ましたよね」

「え、ええ……」

「彼女たちは今どうしていますか?」

「……」

 オリビンさんの上司は私が発した言葉を聞いた途端に、何処かいたたまれなさそうな顔をする。

 その反応に私は少々違和感を覚えつつも、質問を発する。


「実は……」

 そしてオリビンさんの上司から返ってきた言葉は私にとっても予想外な話だった。



------------



「何てことなの……」

「申し訳ない。ソフィール殿……」

 本当に予想外と言う他ない話だった。

 オリビンさんの上司によれば、事が起きたのは十日程前の事。

 マダレム・バヘン内に在るオリビンさんの家が盗賊の類によって襲撃を受けた。

 その襲撃によってオリビンさんの家は焼け、妻は死体となって発見され、娘は誘拐された。

 その後マダレム・バヘンの衛視隊によって盗賊たちは捕まり、娘が売られた非合法の奴隷商人も判明、娘だけでも取り返すべく彼らは全力を尽くそうとした。

 だがマダレム・バヘンの衛視隊が奴隷商人の元に辿り着いた時……奴隷商人とその護衛たちは既に殺されており、オリビンさんの娘以外にも居たはずの奴隷たちは全員その姿を眩ませていたのだという。


「いえ、貴方たちが悪いわけでは無いわ」

「そう言っていただけると、私共も気が楽になります」

 最早誰かの悪意すらも感じるような流れだった。

 だがこうなってしまった以上は仕方がない。


「ただ……」

「分かっています。彼女が見つかり次第、ソフィール殿にも連絡させていただきます」

「お願いします」

 オリビンさんが私に託した最後の願い……『家族を頼む』という言葉を、少しでも守るためには、彼女……ペリドットの無事を祈るしかなかった。

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