第220話「橋架け-9」
※昨日は投稿時間を間違えて申し訳ありませんでした。未読の方はご注意くださいませ。
『畜生!何なんだよこの炎は!?』
『絶対に触れるな!触れたら確実に死ぬぞ!!』
『河に近づくな!魚の妖魔共に引き摺り込まれるぞ!』
さて、リベリオの炎だが、東部連盟の兵士たちが味わったようにただの炎ではない。
その特性を簡単に纏めてしまうのなら……『リベリオの意思に応じて特殊な性質を付与する事が出来る炎』と言ったところか。
『近づくんじゃねぇ!熱くないのは最初だけだ!』
『こんな魔法が……こんなふざけた魔法があっていいのか……』
『英雄だ。間違いなく向こうには英雄が居るぞ……』
で、詳しくその内容について話すならばだ。
今回の場合なら、まず大きな条件によってリベリオの炎は二種類の中身に……ああいや、燃やす対象によって異なる性質を示すようになっていると言った方が正しいか。
とにかく今回のリベリオの炎は二つの炎に分かれている。
具体的には砦を囲んでいる木の壁を対象にした炎と、ヒトを対象にしている炎だ。
「リベリオ、次が整うまで、火勢を緩めないように」
『言われなくても分かっています』
木の壁を対象にした炎には、リベリオがもういいと思うか、気絶するか、この温度と範囲で燃やし続けられる限界まで燃え続けられるように、火が燃えるための媒体となっている木の壁に一時的にだがダメージを与えないという性質を与えられている。
その結果、まるで天を衝くような火勢であるにも関わらず、燃え尽きる様子がまるで見られないようになっている。
「ルズナーシュ、準備は?」
『もう間もなく全員をたたき起こして、準備も整いますのでご安心を。ソフィール殿』
ヒトを対象にしている炎は、引火してから一定時間……今回の場合は三秒が過ぎるまでの間は熱くならないが、その一定時間が過ぎると、今まで与えていた熱が一気に解放されるようになっている。
早い話が、引火したら三秒後にはほぼ死が確定している炎と言う事だ。
なにせ三秒あれば、熱くないからと油断したヒトは、炎を含んだ空気を一度吸い込んでしまうから。
そして三秒後には身体の内側から全身を焼き尽くされ、絶命するのである。
『しかし……なんて性格の悪い炎だ』
『何をどうやったらこんな炎が生み出せると言うんだ……』
『西部連合にはソフィール以外にもこんな化け物が居たのか……』
なお、リベリオの炎は燃やす対象ごとに異なる性質を与える事が出来、今のリベリオが炎に与えられる性質は両手の指を超える数を与えられるらしいが……燃やす対象の選択については妙な制限と言うか、縛りのようなものがあるらしい。
具体的には、今回のように木の壁とヒトとそれ以外で分け、前二つだけを焼き、後一つは焼かないという事は出来る。
だが、味方を燃やさず敵だけを焼くと言う事は出来ないし、妖魔だけを焼いてヒトは焼かないと言う事も出来ないらしい。
まあ、敵味方で分けられないのは状況によって簡単に反転してしまう条件だからなのだろう。
しかし私のような特殊な妖魔はともかくとして、普通の妖魔とヒトの区別が出来ないのは……謎である。
ま、そうと分かっているなら、それを前提に使うだけなのだが。
「さて、着いたわね」
「来ましたか。ソフィール将軍」
そうこうしている内に、私はフロウライトの東門、トリクト橋に直接接続されている門の前にやってくる。
門の前には既に完全武装の兵士たちとルズナーシュの姿があり、今か今かとその時を待っているようだった。
そして私自身も、顔を隠す布がついた帽子と鎧を身に付け、ハルバードを背負い、腰にインダークの樹の持ち手を付けたサブカの剣を挿した状態で馬に跨る。
「さて、ここからは時間との勝負よ。全員気合を入れなさい。リベリオ、カウントを始めるわ」
「分かっていますとも」
「「「了解!」」」
『はい』
フロウライトの東門がゆっくりと開き始める。
勿論東部連盟の兵士には、門が開いた事が分かったところで出来る事はない。
砦は今もなお燃えているし、ベノマー河には呼び戻しておいた大量の魚の妖魔が愚かなヒトが近づいて来ないかと、手薬煉を引いて待っているのだから。
「3、2、1……」
私は二台の馬車がどちらも止まらずにすれ違えるよう、わざわざ広く作った橋の上をゆっくりと進みながら、カウントをしていく。
「0!」
「作業開始!」
「消します!」
そしてカウントが0になった瞬間。
私は燃え盛る砦に向かって馬を走らせ始め、ルズナーシュたちも私に続くように馬を走らせ、馬に乗っていない兵は全力で駆け出す。
と同時に、橋の終わりから少し横にずれた場所で待機していたリベリオが、自らが放ち維持していた炎を解除する。
「火が消えるぞ!壁も崩れる!!」
「なにっ!?」
「い、今だ!何が有ったかは分からんが、今の内だ!」
炎が解除された事で、その姿を保っていた木の壁はあっけなく燃え落ち、砦はまるで最初からなかったような姿になる。
その姿に好機と見たのか、一部の東部連盟の指揮官が声を張り上げるが、東部連盟の兵たちはまた砦が燃え出すのではないかと思っているのか、その歩みは遅い。
うん、これなら十分に間に合う。
「ふんっ!」
「「「!?」」」
砦の中心部に辿り着いた私は馬から飛び降りると、両手を地面に着き、この辺り一帯の地面を掌握。
そして素早く砦周辺の地面から地表部分を剥すように土を集めると、砦の木の壁が有った場所に土を寄せ、高さ1m半ほどの簡易の土壁を造り出す。
「全員構え!撃てぇ!!」
「「「ギャアアァァ!?」」」
と同時に素早くルズナーシュと彼が率いていた魔法使いと弓兵が土壁の裏側に着き、こちらに向かって駆け出そうとしていた東部連盟の兵たちを魔法による横からの攻撃と、弓による上からの攻撃、そして私が地表を剥した事によって現れた両端を尖らせた木の杭による下からの攻撃によって、もてなしてやる。
すると当然の話ではあるが、三方向からの攻撃には耐えられず、前の方に居た東部連盟の兵士たちは悉く血に塗れた状態で倒れ、後に続くべき東部連盟の兵士たちは恐怖に怯え、一歩も前に進むことが出来ないようになってしまった。
「さて、仕上げね」
さて、そろそろいい頃だろう。
私は再び馬に乗ると、切れ目なく作った土の壁に一時的に割れ目を造り、数人の兵士と共に砦の外に出る。
そして砦の至る場所で灯りが灯され始めた所で口を開き……
「こんばんわ。東部連盟の皆様。私がここフロウライトを任されているソフィール・グロディウスよ」
東部連盟の兵士に向かって威圧の為の魔力を放ちながら名乗った。
正しく魔法の炎ではあります