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ソフィアズカーニバル  作者: 栗木下
第4章:蛇の蜷局囲う蛇
219/322

第219話「橋架け-8」

「ふむ、およそ半分。と言ったところかしらね」

 私は忠実なる(クロウ)(ゴーレム)の魔法を使って、東部連盟の陣地の上から彼らの様子を窺っていた。

 そして、彼らの様子を観察した結果、およそ半分の兵士と半数以上の将がこの場から撤退することを決め、荷物をまとめている事が分かった。

 うん、これは実に良い流れだ。

 忠実なる(ダーティ)(クロウ)・穢(ゴーレム)によって倒れた兵士と合わせて、四千居た将兵の内、二千以上を削れたことになるのだから。

 残った二千の将兵についても、上から様子を見た限りではそれほど士気は高くなく、本来の力を発揮できるかは怪しいものである。


「ま、だからと言って手加減をする気はないけれど」

 私はまだ使っていない仕込みの状態を上空の烏人形と、地脈を介した使役魔法によって確かめる。

 仕込みの状態にこれと言った異常は見られない。

 うん、これならば使う時が来てしまっても、問題なく動かせるだろう。


「それにしても……此処まで残るような連中はそう言う連中と言う事でやっぱりいいのかしら?」

 私は再び東部連盟の陣地へと目を向ける。

 東部連盟の陣地から上がっているのは炊煙の煙。

 ただしその数はかなり多い。

 それこそ昨日私が仕掛けた時よりもだ。


「それとも……ふうむ。悩ましいわね。どちらでも有り得るし」

 炊煙の数が多い理由として考えられるのは二つ。

 一つは自分たちの数を誤魔化すため。

 炊煙だけならばトリクト橋前の砦からも見えるし、炊煙の数が変わらなければ、自分たちの数は減っていないと相手に思わせる事も出来るだろう。

 まあ、こうして上から覗いている私相手には何の意味もないのだが。

 もう一つの理由は大量の食糧を調理するため。

 勿論、彼らの食料は私の策によって大部分が失われ、補給もされていないので、残された食料を全て使い切る事になってしまうのだが……それでも大量の食糧を調理する行為には意味が有る。

 この場で全てを食べてしまうのならば、万全の状態で戦いに臨む気なのだという意味が。

 一部を幾らか保存が利く状態にするのならば、炊事の為の火を起こさずに行動する気なのだという意味が。


「……。夜襲の方が可能性は高そうね」

 私は兵士たちの作業の内容を見てそう判断すると、リベリオが持っている忠実なる(スネーク)(ゴーレム)の魔石に意識を伸ばす。


「リベリオ、聞こえるかしら?」

『どうしました?ソフィールさん?』

「彼らが夜襲を仕掛けてくる可能性があるわ。注意を怠らないように。それと彼らが踏み込んで来たら……分かってるわね」

『……。分かりました。全力を尽くします』

 私の言葉に少々の間を挟みつつも、リベリオは返事をする。

 その間に私は若干の不安を覚えるが……リベリオが自分の仕事をしなければどうなるかは、本人が一番よく知っているはずであるし、リベリオが仕事を出来なくても私とフロウライトが詰むことはない。

 それならば、どうするかはリベリオ自身の選択に任せるだけである。


「さて、どうなるかしらね」

 そうして日が暮れた。



---------------------



「動き出したか」

 夜の闇の中、東部連盟の陣地から明かり一つ灯さずに出てきた彼らは、ゆっくりとこちら側に近づいてくる。

 話し声一つ出さない辺り、奇襲を仕掛けるつもりであるらしい。

 勿論、夜の闇の中でも熱を見ることによって昼と大差ない視界を確保できる私には全て見えてしまっているわけだが。


「ふむ」

 そんな彼らがその手に持っているのは、武器の類だけでなく、長い梯子に、門を破るのに使われる巨大な丸太も含まれている。

 まあ、木造の簡易砦程度が相手ならば、十分な装備と言えるだろう。

 後怖いのはどんな魔法使いが参加しているかだが……それほど数は居ないようだし、英雄が混ざっていなければそこまで問題にはならないだろう。


『突撃ー!』

『『『うおおおぉぉぉ!!』』』

「ま、お手並み拝見という所ね」

 ある程度まで砦に近づいたところで、指揮官の声に合わせて楽器が鳴らされ、その音に合わせるように東部連盟の兵士たちが鬨の声を上げながら突撃を始める。

 彼らは突撃の勢いに任せて丸太を門に何度も叩きつけ、門を押し破ろうとする。

 そしてそれと同時に、砦の壁に梯子を架け、壁を乗り越える事で砦の中に押し入ろうとし、灯りの傍に立っていた全身重武装の兵士の関節に短剣を刺し込もうとする。

 この時点で普通の指揮官なら疑問に思った事だろう。

 何故反撃が無いのかと。

 そして賢い指揮官なら気付いただろう。

 これは罠であると。

 だが愚かな指揮官は気づかずにこう思ってしまう。

 敵は油断し、寝入っている、今こそが攻め時であると。


『ふはははは!良いぞ!奴らが寝入っている内にこの砦も!橋も!マダレム・エーネミも我々の物にしてしまうのだ!』

 そしてどうやら、兵士たちにとって不幸な事に、彼らの指揮官は愚かであったらしい。

 まあ、今更な話でもあるのだが。

 いずれにしてもだ。


『いく……』

『燃えろ』

 彼らは詰んだ。


『『『火、火だああぁぁ!』』』

『砦全体が燃えているぞ!』

『奴ら自分の砦になんてことを……』

『何だこの火熱く……ヒギィヤアァァ!?』

『『『ギャアアアァァァ!?』』』

 砦全体が一気に燃え上がり始める。

 そして、砦全体が燃え上がった事によって、当然のように砦内に居た将兵も、今正に砦の中に入ろうとしていた兵士たちも、火が燃え移った仲間を助けようとした兵士たちも焼かれていく。

 燃えぬはずの鉄すらも燃やすように。


「流石は英雄と言ったところかしらね」

 私は上空から眼下の惨状を眺めながら、思わずそう呟く。

 そう、この炎はただの炎ではない。

 英雄であるリベリオが放った炎であり、特別な力を持たせられた炎である。

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