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ソフィアズカーニバル  作者: 栗木下
第4章:蛇の蜷局囲う蛇

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第217話「橋架け-6」

「まあ、やってしまった以上は仕方がないわね」

 私は自分自身はフロウライトの執務室に移動して、書類作業を始めつつ、烏人形で東部連盟陣地とその周囲を上空から観察し続けていた。


「ふむ、一割……ってところかしらね」

 幾らか時間が経ったためか、流石に東部連盟陣地内も落ち着きを取り戻し、忠実なる(ダーティ)(クロウ)・穢(ゴーレム)の直撃を受けて即死した者の処理も一応は済ませていたようだった。

 が、何かしらの病気に感染した者と彼らの看護を行う者で、おおよそだが四百程度の兵が戦線離脱したと言っていい状況になっている。


「直接的被害は上々ね。嬉しくないけど」

 これは嬉しい誤算ではあるが……やはりやり過ぎた感は否めない。

 予想では、直接的被害は精々食中毒や風邪程度を引き起こすだけで、一度に十何人も殺す予定はなかったのだけれど……まあ、やってしまったものは悔やんでも仕方がない。

 それよりも、忠実なる(ダーティ)(クロウ)・穢(ゴーレム)の魔法を使った本来の目的が達成できているかだ。


「……。こっちも予想以上に削れたわね。まあ、ギリギリ大丈夫か」

 今回私は忠実なる(ダーティ)(クロウ)・穢(ゴーレム)によって作った烏人形を食料庫に忍び込ませ、その上で病魔を活性化させた。

 狙いは彼らの所有する食料を腐敗、または汚染することによって、継戦能力を奪う事。

 どれほど優れた兵士と将軍でも、食う物、飲むものが無ければ働けないからだ。

 と言うわけで、マダレム・バヘンに戻れる程度の食料だけを残す事を目標に食料を駄目にしてやろうとしたのだが……どう足掻いても明日の午後には判断を迫られるような量になってしまった。

 あまり削り過ぎると破れかぶれになった連中がどう暴走するか分かったものでは無いし、やり過ぎは良くないのだが……こちらもまた今となってはどうしようもない事柄であるので、諦める他ない。


「と、やっぱり伝令は出すわよね」

 と、東部連盟の陣地の東側から、十数騎の騎馬が出て、東にあるマダレム・バヘンの方向へと向かっていく。

 既に陽も完全に落ちて、妖魔、野盗、獣、森の暗闇と言った諸因子による危険を考えると本来ならば馬を走らせて良いような状況ではないのだが、失われた食料に医者と薬の手配を少しでも早く行うためだろう。

 だが彼らには申し訳ないが、その一手は既に読んでいる。


『かかれ』

『『『!?』』』

 センサトに持たせておいた忠実なる蛇の魔石を起動すると、センサトの指示に合わせて私の兵士たちが東部連盟の伝令に無言のまま襲い掛かり、一方的に虐殺していく音が聞こえてくる。

 そして、上空を飛ぶ烏人形の視界にも、センサトたちが伝令の逃走を許さずに始末していく様子が映っていた。


『逃げた敵は?』

『居ません』

『味方の状態は?』

『反撃を受け、数名が負傷。既に治癒(ヒール)による治療を開始しています』

『よし。死体を持ってこの場を離脱する。戦闘の痕跡を残すなよ』

『『『了解』』』

 やがて戦闘は終わり、センサトの指示のもと、兵士全員が手近な森の中に戻っていく。

 私の事前の指示通り、ヒトと馬の死体は持って行き、地面を操作する魔法によって戦闘の痕跡を消した上でだ。


「ふむ。首尾は上々ね」

 私は満足げな笑みを浮かべながら、センサトたちから視線を外す。

 この分なら明日も大丈夫だろう。

 そう、私は東部連盟の軍がやってくる三日ほど前に、センサトたちにこう命令をしている。

 『夜の内に森の中に潜み、東部連盟の陣地から出される伝令と、マダレム・バヘンからやってくる輜重(しちょう)部隊のみを始末しろ』と。

 実際にはもう少し詳しくどういう条件なら攻撃するべきか、どうなったら撤退するべきか、始末した後戦闘場所の処理はどうするかなどで指示を出しているのだが……まあ、掻い摘んで言ってしまえばこんな所である。


「これで食料と薬の補給はますます遅れ、彼らは決断を迫られる。この場に留まって攻め込むか、諦めて退くかを」

 相手に残された食料は一日分。

 周囲の森から獣や野草を得ることによって幾らかは賄えるかもしれないが、それでも飢えによる限界は直ぐに訪れるだろう。

 その時に真っ当な指揮官ならば退く事を選ぶ。

 フロウライトを奪おうとすれば、よほどの大軍勢と秘策を用いない限り、短くとも数日、場合によっては数ヶ月は時間を必要にすることは目に見えているのだから。

 真っ当でない指揮官ならば攻め込もうとしてくるだろうが……その時には次の策を発動させるだけの話であるし、それでもまだ引かないのなら、もう数個ほど用意してある策を順次発動させていく。

 ただそれだけである。


「問題はマダレム・シーヤの動きだけれど……調査通りの人物なら、この状況で攻め込む事はしないか」

 私は南にあるマダレム・シーヤの方を向く。

 マダレム・シーヤは南部同盟でも重要な拠点と認識されているのか、七天将軍の一人、七の座、『蛇眼』のレイミアによって守護されている。

 事前の調査通りなら東部連盟がマトモに戦う事も出来ていない現状で手を出してくるような人物ではないが……注意を払っておくに越したことはないだろう。


「さて、頼むから退いて頂戴よ。西部連合と東部連盟で争っても笑うのは南部(ノムンと)同盟(リッシブルー)だけなんだから」

 私は烏人形をフロウライトに戻すと、書類作業も終わったという事で、一度眠ることにした。

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