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ソフィアズカーニバル  作者: 栗木下
第4章:蛇の蜷局囲う蛇
216/322

第216話「橋架け-5」

今回はアレな表現がありますので、拙いと思われた方はブラウザバック推奨です。お気を付けくださいませ。

「トリクト橋前砦より伝令!東部連盟の野営が確認されました!」

「ご苦労。引き続き、監視を行うように」

「了解いたしました!」

 イニムがフロウライトに駆け込んできてから二週間後。

 マダレム・バヘンに集まっていた将兵四千が、東部連盟側の岸に造られた砦の前に現れた。

 既に日暮れが近く、攻めかかるための準備をせずに陣地から炊煙を上げている事からして、夜襲を行う気も無いらしい。

 まあ、フロウライトには千を超える兵が居るとは言え、トリクト橋前の砦は簡易かつ関所としての用途を優先したものであるためにどう頑張っても二百程度しか入れられない規模だ。

 戦力差と同士討ちの危険性を考えたら、陽が出ている内に攻め込もうと考えるのは極々普通の事ではある。


「さて、万事上手くいけば、こちらの被害はだいぶ抑えられるけど……」

 ただまあ、実を言えば現状はだいぶマシな方である。

 と言うのも、マダレム・バヘンの有力者たちが説得を頑張ってくれたおかげで、千程の将兵がマダレム・バヘンの防衛と言う名目の元、静観に回ってくれているし、マダレム・バヘンの住民と説得を受けてくれた将兵たちが睨みを利かせてくれたおかげで、砦前に来ている四千の補給は万全ではないのだから。

 後は兵の錬度も……うん、残った千の方がこちらに来ている四千よりも平均的な錬度では上だったようなので、彼らが敵でなくなったのはその後の事も考えるとだいぶ大きいと言える。


「ま、最悪土蛇のソフィアが突然現れればいいわね」

 さて、既にリベリオ、センサト、ルズナーシュにはそれぞれに指示と頼み事をして、動いてもらっている。

 と言うわけで、私も自分のやるべき事……今日のような状況の為に、屋敷の一角に周囲からヒトの目が届かないように造られた庭へと入る。


「じゃあ始めましょうか」

 そして笑みを浮かべながら、私は使役魔法を発動。

 地脈を通して、予めフロウライト近くの森の中に準備させておいたとある場所に接続する。


「うぐっ……予想はしていたけど、やっぱりキツイわね」

 その場所の地中には予め二種類の魔石と水晶玉、ガラス玉を大量に埋め、混ぜておいた。

 で、今回は地脈を通じて忠実なる(スネーク)(ゴーレム)の魔法を発動させる要領でもって、埋めておいた二種類の魔石の内の片方を発動させる。


「あー……うん、今回みたいな事にならない限り、この魔法はもう使わないでおきましょう。気が滅入りそうだわ」

 発動させた魔法の名前は忠実なる(クロウ)(ゴーレム)

 魔石周囲の土によって鳥型の土人形を造り出す魔法であり、普段の用途としては以前リベリオに説明した通り、高空から周囲の様子を窺うための魔法である。

 が、今回は少々毛色を変えてある。


「ま、今回は我慢するしかないわね」

 変更点その一としては、忠実なる烏を構成するための土を、熱して生物を除外した土ではなく、フロウライトの住民たちが出した糞尿を集めて、安全に肥料になるまで放置するための場所の土を使った。

 その結果としてまるで体中を何かが這い回るような感覚、鼻を直撃するような強烈な異臭に晒されているわけだが……まあ、必要経費として諦めよう。


「行きなさい。忠実なる烏……いえ、忠実なる(ダーティ)(クロウ)・穢(ゴーレム)

 もう一つの魔石と水晶玉を内部に取り込みつつ、忠実なる烏の魔石を核として、周囲の肥料になりかけの土を肉体として生み出された烏人形たちが順々に空へと飛び立って行く。

 烏人形の数は全部で二十。

 向かう先はトリクト橋の前に陣地を張った東部連盟の下。


「……」

 色々な物が体内を這い回る感覚を覚えつつ、烏人形は順調に空を飛び続ける。

 上から覗いた東部連盟の陣地の様子は?

 特に慌てた様子はない。

 まあ、下から見ただけでは、鳥の群にしか見えないのだから当然だ。

 攻撃の目標地点は?

 既に確認済みで、見張りの兵士が居るが、特に問題にはならないだろう。

 マダレム・バヘンが後々の為に止むを得ず出したオリビンさんたちマダレム・バヘン第二中隊は?

 周囲に居る他の都市国家の兵たちと混ざったりはせず、出来るかぎり彼らだけでまとまっているようにしているようだった。


「出来れば生き残らせたいところだけど……こればかりは彼ら自身の天運次第ね」

 私は彼らの様子にイニムの言っていた『どのように状況が推移するにしろ、君たちは自分の守るべきものを守ってほしい』と言うオリビンさんからの伝言を思い出す。

 彼らが生き残るためにも……私は彼らに攻撃を加えなければならないだろう。

 でなければ、彼らが生き残る道は完全に閉ざされることになる。


「……。行きなさい」

 陽が完全に落ちる直前、篝火が焚かれるかどうかと言った頃。

 私は烏人形たちを東部連盟の陣地に向けて突撃させ始めた。


『な、何だ!?』

『鳥だ!土で出来た鳥が!?』

『くせえ!糞尿の鳥だ!?』

『食料庫の中にも潜り込んでいるぞ!?』

 そして陣地内の食料庫に潜り込んだり、煮炊きの為の大鍋の近くに着地すると、素早く体内に仕込んだもう一つの魔石による魔法を発動させる。

 魔法の名は治癒(ヒール)

 本来は負傷者の生命力を活性化させることによって、傷口を塞ぐ魔法である。

 ではこれを土の中に存在している病魔の源に対して、周囲に食べ物が大量にある状態で行使したら?


『『『!?』』』

 烏人形の身体が内側から爆発し、周囲に身体を構成していた糞便を撒き散らし、通常では有り得ない速度で食べ物が腐敗し始める。


『『『うぐっ!?』』』

『ガハッ……グッ……』

『ひ、ひぎいやああぁぁ!?』

 いや、それどころか臭いによるものか、活性化された病魔によるものかは分からないが、何人もの兵士が嘔吐したり、倒れたり、ヒトによっては喀血まで始まっていた。

 東部連盟の陣地は……一瞬にして阿鼻叫喚の様相を呈していた。


「……やり過ぎたかもしれない」

 私は結果を観察するために飛ばしておいた通常の烏人形から伝わってくる東部連盟の陣地内の悲惨な状況を眺めつつ、今後は忠実なる(ダーティ)(クロウ)・穢(ゴーレム)の魔法を本当に危険なとき以外には用いない事を決めたのだった。

 この魔法は……危険すぎる。

簡単に言ってしまえば戦闘不能の追加効果を含む各種バステ付与(未知の病気も含む)の爆撃です。

ただ効果以上に問題なのが、核となっている魔法がアレである点だったり。


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