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ソフィアズカーニバル  作者: 栗木下
第4章:蛇の蜷局囲う蛇
214/322

第214話「橋架け-3」

「と、そう言えばソフィールさん」

「何かしら?」

 さて、今更な話ではあるが、私たちが居るのは“あの”マダレム・エーネミである。

 勿論、私が滅ぼしたのが五十年も昔の事なので、当時の事を直接知る者は私、トーコ、シェルナーシュの三人を除けば、リリアなどの極々僅かなヒトだけではある。

 が、その世代からの伝聞、テトラスタ教の経典である『四つ星の書』の記載などから、今でもマダレム・エーネミ、マダレム・セントールと言えば、悪徳の限りを尽くし、周囲の村々、都市国家に対して侵略行為を働いた都市として有名な都市である。


「この前言ってませんでしたっけ。マダレム・エーネミの名前を変えるって」

「確かに言った覚えがあるわね。それがどうしたの?」

 そしてその評判は……今でも変わらない。

 密偵からの報告では、マダレム・シーヤでは今でも二つの都市の名は忌避されるものであり、直接的な繋がりが存在しないはずの私たちに対しても、西部連合と南部同盟の関係の悪さを差し引いてなお悪い感情を持たれているようだった。

 また、オリビンさん曰くマダレム・エーネミが滅びた後に出来たマダレム・バヘンでも、一般人レベルだと実際の私たちの存在を知らないためによくない感情を抱くヒトが少なからず存在するらしい。

 マダレム・バヘンですらそのような状況と言う事は、マダレム・エーネミが滅びる前から存在しているマダレム・イジョーやマダレム・シキョーレと言った東部連盟に属する諸都市も同じような状態であることはまず間違いないだろう。


「結局どうすることにしたんですか?」

「勿論名前は変える……と言うか、まだ誰にも話していないけど、もう新しい名前は決めてあるわよ」

「え!?」

 と言うわけで、効果がどの程度あるかは分からない上に、色々と批判を招く可能性もあるが、それ以上の利益を見込めると言う事で、私はマダレム・エーネミの名前を変える決定を下した。

 そしてセレーネも場所が同じだけである事を示すのに適当と言う事で、私の行動に対して許可を出してくれた。

 なお、こちらの件については橋と違って既に付ける名前は決まっている。


「それって……」

「そうね。貴方なら教えておいてもいいかしら。新しいこの街の名前は……」

 私は念のために部屋の周囲に聞き耳を立てているヒトの気配が無いかを確かめる。

 うん、当然だが誰も居ない。

 部屋の前に警備の兵は立っているが、職務を忠実にこなしており、注意の方向は部屋の外に向いているようだ。


「フロウライトよ」

蛍石(フローライト)?マダレム・フロウライトですか?」

「いえ、マダレムは付けないわ。ただのフロウライトよ」

「?」

 私の言葉にリベリオは訳が分からないと言った表情を浮かべている。

 まあ、ある意味当然の反応ではある。

 都市国家であるマダレムの名を付けず、リベリオからしてみればフロウライトと言う名前が出てくる理由も分からないのだが。

 だがこの名前にはきちんとした理由がある。


「確かにフロウライトは規模だけを見れば都市国家の括りに入るわ。だから大きいという意味でもって、マダレムの名を付けるのも間違いではない」

「……」

「けれど今となってはマダレムという言葉は都市国家を表すものになっている。セレーネが目指す国の中に別の小さな国があるという状況はあまり好ましくないし、私たちがセレーネが従う者であることを分かり易く示す意味でも、マダレムと言う名前を付ける意味はないわね」

「なるほど……」

 私の言葉にリベリオは感心したように頷くが、実を言えば他にもマダレムと付けない理由はある。

 詳しくは敢えて語らないが……一つ明かせる事として、マダレムと言う名前だと、どうにも都市の規模が一定規模以上に膨らまない感じがしてしょうがないと私が感じている事が有る。

 私はフロウライトをかつてのマダレム・エーネミよりも、いや、それどころかとある一つの都市を除いて、他のどの都市よりも大きくするつもりである。

 それを考えたら……やはりマダレムの名は付けるべきでないと考えたのだ。


「えと、それじゃあフロウライトと言う名前は何処から?この辺りに蛍石が採れる場所なんて無いですよね?」

「そっちは……まあ、個人的な感傷に近いわね」

「個人的な感傷?」

「本来この都市を治めるのは私では無かった。と言う事よ」

「???」

 リベリオが訳が分からないと言った表情を浮かべる。

 まあ実際、私の話を聞いても大半はこの名前を付ける理由は分からないだろう。

 分かるとしたら……トーコとシェルナーシュ、後は二つ目の名の件でシェルナーシュから話を聞いていると思しきセレーネぐらいの物だろう。

 なにせフローライト・インダーク……ドーラムと言うクソ爺とその周辺の人物さえいなければ、父の跡を継いでマダレム・エーネミの長になっていたであろう少女の事を知っているのはそれぐらいなのだから。

 まあ、尤もな話として、フローライトが長になっていた場合、だいぶ世の中の流れは変わっていたのだろうけど。


「ま、表向きは蛍石のようにセレーネを支えることを目指しているとか言っておけばいいわよ」

「は、はあ?そうなんですか?」

「そうなのよ」

 ちなみに蛍石と言うのは中々に面白い性質を持つ石であるので、名乗っても特におかしいと思われる名前ではない。

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