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ソフィアズカーニバル  作者: 栗木下
第4章:蛇の蜷局囲う蛇
209/322

第209話「再興-7」

「うん、問題なさそうね」

 マダレム・エーネミの復興を始めてから半年ちょっとが経った。

 いやぁ、この半年間は本当に大変だった。

 マダレム・エーネミ内の事に限っても、城壁、上水道、各種建造物の建築作業の監督に、不満が出ないように兵士や職人への配給、当初連れてきた住民や商人以外への対応等々、実に多くの問題が発生し、その対応に私もリベリオもセンサトもルズナーシュも奔走させられることになった。

 マダレム・エーネミの外でもセレーネの為に表裏両方で色々と動くことになったし、ちょっかいをかけて来る南部同盟へ対応する必要が有った。

 ただまあ、幸いな事に今の西部連合にはウィズとティーヤコーチの二人を筆頭として、優秀なヒトが何人もいるし、お目付け役では無いが、それに近い立場としてリリアも居たので、問題らしい問題が起きる事は無かったが。


「さて、これは……まあ、適当に保管しておけばいいわね」

 私の血と引き換えに得たインダークの樹の枝の加工も粗方出来た。

 具体的には枝が太めの部分を用いて指輪を造ったり、私が持っているサブカの剣の持ち手として加工を施したり、枝の先の方を少しだけ弄って小型の杖にしたりだ。

 通常のヤテンガイの樹と違って幹の中まで真っ黒なインダークの樹でこれらの品を作った影響は、試用がまだなので分からないが、リベリオ曰く目に見えるレベルで魔力を放っていて、明らかに普通ではないとの事なので……まあ、十分な安全を確保した上で試すべきだろう。


「ソフィール将軍」

「来たわね。入りなさい」

 で、今は冬の三の月(十二月)の初めごろ。

 この日私はインダークの樹を囲むように建てられた私の仮の住まいに、とある人々を招いていた。


「失礼します!」

 部屋の中にセンサトを先頭にして、ルズナーシュと壮年の男性が数人部屋の中に入ってくる。


「やあやあ、ソフィール将軍。今日は招いてくれてありがとう」

「こちらこそ求めに応じていただきありがとうございます。みすぼらしい家屋で申し訳ありませんが、どうぞこちらへ。今日は皆様に見せたいものがありますの。リベリオ」

「はい」

「ははははは、実利を優先して装飾が無いだけでしょう。それならば、むしろ誇るべきだと私は思いますぞ」

「ふふふ、そう言っていただけると、私としても嬉しいですわ」

 私は彼らを部屋の中央に置かれた大きな机の周りに集めると、リベリオに言って机の上に一つの模型と複数種類の羊皮紙を各二部ずつ乗せてもらう。


「ふむ、将軍この模型は……マダレム・エーネミ前のベノマー河の模型。で、いいのですかな?」

「こちらの資料は……柱……いや、アーチですかな?」

「ほほう、これは網ですな。それも鉄線を仕込んだ」

「おおっ、こちらは計画書ですな。ほぉ……」

 ルズナーシュと一緒に入って来た男性たち……今マダレム・エーネミの復興作業を行っている職人たちの長は私が用意したものを早速検分し始め、直ぐにそれがどう言うものなのかを理解し始める。

 うん、流石はテトラスタ教が今回の為に用意した職人たちだ。

 理解が速い。


「ソフィール将軍。もしや貴方様は……」

「ええ、今後のマダレム・エーネミのため……いえ、ヘニトグロ地方全域の利益の為にも、ベノマー河に橋を架けようと考えています」

 私の言葉に職人たちの表情が一層真剣な物になる。

 と同時に、ルズナーシュは面白そうだという表情を浮かべ、センサトとリベリオはどうなるのかと言わんばかりに不安そうな表情を浮かべる。


「ほう。ベノマー河に橋を架ける。実に面白い発想ですな。それが実現すれば、南部同盟の領内を通る事も無く、河舟で危険なベノマー河を越える事も無く、今まで以上に東西の交流は盛んになるでしょうな」

「ええ、その通りです。そうして得られる益は信じられない程の量になりますし、ベノマー河以東に住むテトラスタ教の教徒もマダレム・エーネミを訪れやすくなるでしょう。そして何よりも……これが実現すれば、ベノマー河と同じように危険な河を克服する事も出来るようになるでしょうね」

 さて、問題はここからだ。

 今のルズナーシュは非常に面白いと言う表情を浮かべている。

 が、ルズナーシュはマダレム・エーネミにおけるテトラスタ教関連の諸々一切に口を出す権利を有している。

 そして、計画を立てるのは私でも、実際に作業を行うのは職人や一般労働者……つまりはテトラスタ教の信者である。

 つまり、私の計画に不備や不明瞭な点、信者を無為に危険に晒すような箇所が有れば、容赦なく指摘してくるだろうし、それに私が応えられなければ、良くて計画を練り直すように、悪ければ計画を破棄するように言ってくるだろう。

 それがルズナーシュと言う英雄なのだ。


「では質問です。ベノマー河に生息する大量の妖魔。これはどうなさるおつもりですかな?」

「その点については……」

 私とルズナーシュは、職人たちが計画書や設計図の検分を行っている横で、ベノマー河の橋架けについての議論を交し始める。

 それはベノマー河の妖魔対策に始まり、橋の設計、東部連盟との交渉、南部同盟が仕掛けて来るであろう妨害への対策、果てには橋の運用や橋が奪われた際にどうするのかと言った事柄まで。

 私とルズナーシュに想定可能なあらゆる問題について議論を行い……気が付けば日が暮れるどころか、昇り始めていた。


「ふぅ……なるほど。これならば確かに問題なさそうですな」

「納得していただきありがとうございます」

 だがその甲斐もあって、何とかルズナーシュにベノマー河に橋を掛けると言う案は了承してもらえたのだった。

橋架けって今も昔も大工事なんですよねぇ


09/02誤字訂正

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