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ソフィアズカーニバル  作者: 栗木下
第4章:蛇の蜷局囲う蛇
207/322

第207話「再興-5」

「……来たか。センサト」

「何ですか?」

 マダレム・エーネミの復興作業を始めてから一週間経った日の午後。

 私の目が彼らの存在を捉える。


「川舟の用意を。一隻でいいわ」

「……。分かりました。至急準備させます」

 私の川舟を準備しろという言葉に、センサトが何かを察した様子で天幕の外に出ていく。


「リベリオ。貴方も装備を身に着けて準備をしなさい。ただし、戦闘は相手が襲ってきた場合に限るわ」

「分かりました」

 私が鎧やハルバードを身に着ける傍らで、リベリオも当初よりはるかに似合うようになってきた鎧を身に着けていく。

 と言っても、まだ13歳の少年。

 まだまだ着られている感じはしている。

 まあ、あと数年もすれば、そんな気配は微塵もしなくなるだろうが。


「準備整いました」

「よし、それじゃあ行きましょうか」

 私とリベリオは揃って天幕の外に出ると、街の東……ベノマー河に面した方へと歩いて向かう。


「ところでソフィールさん?」

「何かしら?」

「その、マダレム・エーネミに誰かが近づいて居る事は分かったんですけど、一体どうやって近づいてきている事を知ったんですか?」

「ああその事」

「はい。ずっと前から気になってはいたんです。いったいどうやってソフィールさんが遠く離れた場所の事を、まるで自分の目で見ているかのように察していたのかを」

「んー……そうねぇ……」

 私の姿を見て作業を止めようとする兵士や職人たちを手の動きで制止しつつ、私はリベリオの質問に耳を傾け、考える。

 リベリオに今私が使っている魔法の事を話して良いのかを。

 うんまあ、リベリオなら話しても大丈夫か。


「上を見てみなさいな」

「上?」

 私は指を上に向け、リベリオが私の指の先にあるもの……雲一つない青い空と、そんな空を気ままに飛ぶ一匹の鳥を見る。


「えーと、空以外には鳥しか見えないんですけど……」

「その鳥が私の魔法よ」

「え!?」

「あの鳥が見ている物が、私にも見えているの」

「え、あ、なるほど……」

 私の言葉にリベリオは驚きつつも、何処か納得したかのような表情を見せる。

 さて、詳細はワザと省いたが、実はあの鳥は本物では無かったりする。

 魔法の名は忠実なる(クロウ)(ゴーレム)

 忠実なる(スネーク)ゴーレムと同じく、魔石を核とした土の肉体を持つ土人形の一種である。

 空を飛べるだけと言う実に単純な能力であるが、少しでも戦術や戦略を齧った者ならば、敵の手が及ばない上空から周囲を監視できるこの魔法の優位性は直ぐに分かるだろう。

 なにせ戦場の状態を自分の目で一望することも、都市の警備の状態を探る事も簡単に出来るのだから。


「ソフィール将軍!ベノマー河の対岸にマダレム・バヘンの旗を掲げる一団が!」

「分かっているわ。私が対応するから、貴方たちは作業の手を止めないようにして」

「わ、分かりました!」

 私は物見の兵からの報告を受けつつ、修復途中の城門をくぐり、その先に用意された川舟へと向かう。

 そして、報告通りに川向うにマダレム・バヘンの旗を掲げる一団が居る事を確認しつつ、センサトが用意しておいてくれた川舟へと乗り込んで、渡河を始める。


「一応言っておくけど、私たちが船を降りたら貴方も船ごと岸に登っておいてちょうだい。ベノマー河に背を向けて川岸に立っているのは危険過ぎるわ」

「分かりました」

 川岸の集団にこちらへと攻撃を仕掛ける意図は見られない。

 なので、私とリベリオは揃って船を降りると、船頭が船を岸へと無事に上げたことを確認してから、三人で揃ってマダレム・バヘンの旗を掲げている集団へと近づいていく。


「そこでお止まり下さい」

 やがて、私たちの前にマダレム・バヘン……マダレム・エーネミの東側に位置する都市国家の中で一番マダレム・エーネミに近い都市国家の旗と、東部連盟の旗を掲げた完全武装の集団が現れる。


「さて、まずはお互いに自己紹介をするべきですかな」

「そうかもしれないわね」

 集団の中の一人、馬に乗っていたヒトが馬から降りて、被っていた兜を外す。

 状況から考えて、この金色の髪と髭、緑色の瞳の巌のような顔つきで、背中に槍を携えている男性がこの集団のトップなのだろう。

 まあ、いずれにしてもまずは自己紹介である。


「私は西部連合のソフィール・グロディウス。マダレム・エーネミ復興の任をセレーネ・レーヴォル陛下より授かったものです」

「私はマダレム・バヘン第二中隊の隊長、オリビン。マダレム・エーネミにて西部連合の者が何かしらの活動を行っているという報告を受け、偵察に来た者です」

 私の自己紹介に合わせるように、礼儀正しい所作でオリビンさんも自己紹介をする。

 これだけでも、オリビンさんがただの猪武者でない事は間違いないだろう。


「さて、ソフィール殿。貴殿には幾つか質問がございます。お答えいただけますか?」

「私に応えられる範囲の質問であるならば、お答えいたしましょう」

「ありがとうございます」

 これならば、私も礼儀正しく、誠実に接する事に異は無い。

 さて、実りある交渉が出来ればいいのだけれど……どうなるかしらね?

08/31誤字訂正

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