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ソフィアズカーニバル  作者: 栗木下
第4章:蛇の蜷局囲う蛇
204/322

第204話「再興-2」

「マダレム・エーネミ内部の状況は?」

 先遣隊が設営した野営地から五十年が経ち、かつての住人の痕跡がほぼすべて失われ、外壁も建物もその殆どが原形を失いつつあるマダレム・エーネミの姿を眺めつつ、私は都市内部の偵察を行った中隊の隊長からの報告を受け取る。


「はっ!ご報告致します!マダレム・エーネミ内部にヒト及び妖魔、危険な獣の群は確認出来ませんでした!」

「建物と地下水路の損壊状況や植物……特に樹木については?」

「建物は原形を留めている物は半数以下。地下水路については所々に地上の道路を巻き込みつつ崩落した箇所が複数存在したため、危険だと判断して内部の状況は調べていません。植物については、大型の樹木も多少はありますが、作業の妨げにはならないかと」

「報告ご苦労様。地下水路に立ち入らなかったのも賢明な判断よ」

「ありがとうございます」

 私の言葉に報告を行った中隊の隊長は嬉しそうに敬礼を行う。

 実際、偵察隊が地下水路に入らなかったのは正解だ。

 地上で一部の道路が崩落を起こしているという事は、その下に在った地下水路が老朽化して、重量に耐えきれなくなっていたという事なのだから。


「それで……例の樹については?」

「勿論誰も近づけてはいません」

「うん、よろしい」

 私の質問に先程まで嬉しそうにしていた中隊の隊長が微妙に恐怖の色を浮かべながらも返答を行う。

 まあ、インダークの樹なんて呼ばれるほどの曰くつきの樹に彼らは近づきたくないだろうし、出来れば関わりも持ちたくは無いのだろう。

 その気持ちは理解できるし、近づかない事が命令なので咎めたりもしない。

 むしろ誰も近づけなかった事を褒めてあげたいぐらいだ。


「では、全軍に通達を。計画通りに各班は作業を開始するように」

「「「了解いたしました!」」」

 私の号令で、伝令が各大隊や中隊に指示を伝えていく。

 地下水路の老朽化が多少気になるところではあるが……まあ、今は計画通りに資材を運び、重い資材を地下水路の上に乗せなければ大丈夫だろう。


「センサト。城壁の修復作業の監督はしばらくあなたに任せます。お願いしますね」

「了解。ソフィール将軍が気兼ねなく動けるように頑張らせていただきます」

 さて、野営地で待機していた面々が動き出すのに合わせて、管理者である私たちも動き出す事になる。

 まずセンサトについては最低限の物でも構わないから、真っ先に修復を行う必要が有る城壁の修復……いや、これだけ壊れていると、建築と言った方が正しいか。

 とにかくセンサトには建築の監督をお願いする。

 私の傭兵部隊を普段からまとめ上げている彼なら、城壁の建築を行う職人と兵、魔法使いの指揮と対応を任せても大丈夫だろう。


「ではソフィール将軍。私も私の目的を果たしに行ってくる事にします」

「ルズナーシュ殿、お気をつけて。これだけ荒れていると、何処で何が崩れてもおかしくはありませんから」

「勿論気を付けますとも」

 ルズナーシュも供の魔法使いを二人だけ付けて、彼らの目的であるテトラスタの家が有った場所に向かう。

 ただまあ、私の記憶が正しければ、テトラスタの家の跡地に残っているのは壁や塀の跡が少々ぐらいの物だったはずである。

 それでも彼らは構わないのだろうけど……まあ、テトラスタの家があった場所を確保して、そこにテトラスタ教の教会を建てるだけで全体の士気が上がり、協力的になってくれるのだし、何が残っているかだなんて私が気にする事でもないか。


「さてリベリオ。私たちも行きましょうか」

「はい」

 最後に私もリベリオだけを連れて、マダレム・エーネミの中に入っていく。

 目指す場所は既に分かっている。

 私も良く見知った場所だからだ。



-----------------



「アレが……そうなんですか?」

「ええそうよ」

 私とリベリオがしばらく馬を駆ってやってきたのは、マダレム・エーネミの中でも、特に草木が繁茂している場所だった。

 その中心に立っているのは一本の樹。


「そうね。最後に訪れたのがグロディウス商会を造る前だから、だいたい十年ちょっとぐらい前の事になるのかしら」

 淡い青色の花を付けた黒い樹皮の樹は、あの時と変わらず夏の風によって静かに、小さく揺られていた。


「……」

 樹の正式な名称はヤテンガイ。

 黒い樹皮に、陽の光をほぼ遮る厚い葉を大量に茂らせ、根元から花の咲いている木を見上げると無数の淡い青色の花、もしくは水色の実が夜空の星々のように見えることから、そう名前を付けられたらしい。

 ちなみに本来はアムプル山脈の山中に根付いている種で、この辺りには無いはずなのだが……まあ、フローライトの祖父辺りが運んで来たのだろう。


「あの、ソフィールさん。あの樹、周りとは比べ物にならない量の魔力を……」

「まあ、普通の樹では無いし、魔力ぐらいは持っているでしょうね」

 ただ、今私とリベリオの前に在るこの樹を一般のヤテンガイと一緒にするのは愚考と言うものだろう。

 なにせこの樹はかつて私が根元にフローライトを埋めた樹であるだけでなく、何時の頃からか切ろうとする者、荒そうとする者を呪い、祟り、殺すと言う噂が流れ始め、最近では何処からその名が漏れ出したのかは分からないが、インダークの樹と呼ばれるようになった曰くつきの樹なのだから。


「リベリオ。何が有っても、貴方はそこに居なさい。良いわね」

「は、はい……」

 私は馬を降りると、ゆっくりと歩きでインダークの樹に近づく。

 さて、油断は出来ない。

 リベリオの目が確かなら、相手はただの植物ではなく、魔力を持った樹なのだから。

この時代から既に曰く付きの樹です。

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