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ソフィアズカーニバル  作者: 栗木下
第4章:蛇の蜷局囲う蛇
203/322

第203話「再興-1」

「それではソフィール・グロディウス将軍。よろしく頼みましたよ」

「はい、必ずや陛下のお望みどおりの結果を出して見せましょう。では、出発!」

 夏の一の月(四月)、私はセレーネたちをマダレム・セイメに残して、東の方に向けてリベリオとセンサトの二人を含めた多数の人員を引き連れて移動を始めた。


「やあやあ、ソフィール将軍。何事もなく無事に到着して何よりです」

「久しぶりね。ルズナーシュ。今回はよろしく頼むわ」

 そして、目的地に向かう道中に在るマダレム・イーゲンで、私たちはルズナーシュ改めルズナーシュ・メジマティと合流。

 ルズナーシュと彼の部下である『輝炎の右手』に所属する魔法使いと、テトラスタ教の司祭数名、多数の信者を連れて、再び東に向かい始める。


「それにしても結構時間がかかるんですね」

「まあ、軍もそうだけど、ヒトが多くなればなるほど、移動する速さは遅くなるものだし、こればかりは仕方がないわよ」

「小分けにして送り出すにしても、妖魔や野盗対策を考えたら最小限の人数は必要になるしなぁ……」

「しかし襲われないようにと人数を多くし過ぎたら、どれだけの水と食料を集めておいても焼け石に水になってしまう。いやはや厄介ですな」

 で、現在は夏の二の月(五月)

 移動の効率を上げるべく、幾つかの小規模な部隊に別れて目的地に私たちは向かっているが、私たち四人が居る本隊の歩みはどうしてもゆっくりとしたものになっており、馬を歩かせながら会話をする余裕があるほどだった。

 うーん、任務の内容の関係上、連れているのが訓練を受けた兵士だけじゃなくて、訓練を受けていない一般人も多く含んでいるから遅くなるのが当然のこととはいえ、情勢を考えたらあんまりちんたらとやっているわけにはいかないんだけどなぁ……。


「その、ソフィールさん。南部同盟の動きはどうなっているんですか?」

「んー……今のところは普段通りと言う感じね」

 私と同じ事を考えていたのか、リベリオが私に南部同盟について尋ねてくる。

 ただ、移動中に時折入ってくる密偵からの情報や、忠実なる(スネーク)(ゴーレム)の魔法による盗み聞きをしている限りでは、特に南部同盟の中で慌ただしい動きはない。

 何かしているのは確かだが……西部連合に対してはお互いの領地の境界での睨み合いと小競り合いぐらいである。

 うーん、此処まで何も無いと……もしかしたら東部連盟の方に何かをしているのかもしれない。

 目的地に着いたら、一応の仕込みはしておいてもいいかもしれない。


「と、そう言えば私もソフィール将軍に質問がありました」

「あら?何かしら?」

 と、今度はルズナーシュから質問が飛んでくる。

 ルズナーシュはシェルナーシュの息子で、私の正体も御使いの正体も知っているが、それを誰にも話しておらず、私にとっては貴重な味方である。

 味方であるが……信用しきる様な真似はしていない。

 そこは先天性の素養だけとは言え、英雄と妖魔の関係上仕方がない事である。


「その格好はどういうおつもりですかな?マダレム・イーゲンでお見かけした時から気になっていましたが」

「ああこれ?」

 さて、ルズナーシュの質問であるが、どうやら私の格好がずっと気になって仕方が無かったらしい。


「簡単に言えば顔を隠す為ね」

「顔を隠す?」

 今の私の格好は背に愛用のハルバード、腰にサブカの使っていた剣を提げ、服は鎧ではなく動きやすさと着心地を優先した普通の服である。

 ここまではルズナーシュにとっても見慣れた物であろうし、見慣れなくとも指摘する事柄でもないだろう。

 つまりルズナーシュが妙に思っているのは私が被っている物……縁から黒い布が下げられ、外から私の顔が見えないように帽子についてだろう。


「そうそう。私ももう三十。これから先は老いていくばかり。となればこの綺麗な顔にも老いが見えて来て、私の若い頃を知っているヒトほど嘆くようになるでしょう。ですから、皆様を悲しませないようにこのような帽子を普段は被ることにしたのです」

「ははははは、三十で歳とは。私などもう四十を超えているのですがなぁ」

 私の言葉を聞いたルズナーシュは笑い声を上げながら、場を茶化すように笑顔を浮かべる。

 が、その目は笑っていない。

 当然だ。

 ルズナーシュは私の正体を知っている。

 だから、この黒い布の目的が老いる顔を隠す為でなく、変わらない顔を隠すためであることを最初に見た時から知っていた。

 それでもなお質問を投げかけてきたのは……。


「そう言うわけだから、気兼ねなく接して頂戴」

「分かりました。ではそうする事に致しましょう」

 自分ではなく、周囲の一般人たちの不安を払拭するためだろう。

 流石は『輝炎の右手』の頭首と言うべきか、人心の把握には手慣れているらしい。

 父親とは段違いだ。


「さて、雑談はそれぐらいにして貰えますか?ソフィール将軍、ルズナーシュ殿」

「センサト。もしかして?」

 と、センサトがここで会話に割って入ってくる。

 その手に握られているのは伝令が持って来たであろう一枚の羊皮紙。


「ええ、先遣隊から伝令が来ました。無事にマダレム・エーネミ跡に到着し、本隊と残りの隊を迎え入れるための野営陣地を造り始めたそうです」

「ご苦労。計画通り最低限の偵察以外で入都は禁止。作業開始は私たちが到着してからにするように厳命しておいてちょうだい」

 どうやら、先遣隊は無事に到着したらしい。


「了解しました」

 さてここらでそろそろ今回の私たちの任務について話すとしよう。


「いよいよですね」

「いやぁ、祖父が暮らしていた街がどんなところか。実に楽しみですな」

「期待するほどの物じゃないと思うわよ。それに私たちの任務は……」

 今回の私たちの任務は……


「マダレム・エーネミを新たな都市として再建することなんだから」

 マダレム・エーネミの跡地に新たな都市を造り出す事である。

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