表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ソフィアズカーニバル  作者: 栗木下
第4章:蛇の蜷局囲う蛇
196/322

第196話「ロシーマス-10」

「さて、南部同盟の兵士諸君」

 私は穴の中で起きた出来事の音を周囲に伝えたのと同じ要領……この辺り一帯の地表を使役魔法によって振るわせて、戦場に居る全員に自分の声が届くようにした上で口を開く。


「君たちを率いていた者……七天将軍二の座ロシーマスは私、グロディウス商会のソフィールが討ち取った」

 私は穴に近づくと同時に穴を形作っている土を操作して、ロシーマスの半分潰れた首を地中から取り出すと、南部同盟の兵士たちにそれを見せつける。


「しょ……」

「動くな!!」

「「「!?」」」

 南部同盟の中から声が上がる。

 が、その声の主が自分の言葉を言い終わる前に、私の怒声と魔力が戦場に響き渡り、南部同盟の兵も西部連合の兵も動きを止める。

 うん、これでいい。

 此処で勝手に動かれたら、台無しだ。


「さて、南部同盟の兵士諸君。君たちの前には今三つの選択肢がある」

 私は威圧を目的とした魔力の放出を止めると、自軍の方から馬を呼び寄せ、左手にロシーマスの首を、右手にハルバードを持ったままの状態で馬に乗る。


「一つ目はたった一人の首を取り返すために、指揮者も居ない状態で我々西部連合に挑みかかり……壊滅する道」

 南部同盟の側から私の言葉に対して反論するような動きは見られない。

 当然だろう。

 ロシーマスと言う南部同盟でも五本の指に入るような戦力を目の前で打ち取られた直後の上に、昨日の戦いもロシーマスが居なければ殲滅されていたのは自分たちの側だったと言う事実は一般の兵士でも分かっている事なのだから。


「二つ目はこのまま立ち去るという道。諸君らが素直に退くのであれば、私も無粋な真似はしないと約束しよう。ただ……ノムン王の性格からして、マダレム・サクミナミに帰還した君らの未来は決して明るいものではないだろう」

「「「ゴクッ……」」」

 南部同盟の兵士たちの間で、息を呑むような音がする。

 尤も、一部は私が使役魔法によって、誰が発したのか分からないように注意しつつ鳴らした音であるが。

 だが、彼らの未来が明るいものでないのも事実である。

 ノムンは恐怖によって部下を縛り付け、支配してきた権力者である。

 となれば、帰還した彼らの内、悪目立ちしてしまった何人かは見せしめとして惨たらしい事になることは想像に難くない……と言うか、実際にその手の見せしめの処刑は南部同盟内ではよく行われているので、間違いなくそうなるだろう。


「三つ目は……」

 そして、南部同盟の内部がそうなっているからこそ、私は彼らに三つ目の道を示す。


「この場で武器を捨て、我々の同胞となる道。我らが王セレーネ様は、本心ではヒトとヒトが争う事をよしとせず、和を重んじる方。今この場で降参されるのであれば、グロディウス商会のソフィールの名において、貴方たちの安全を保障いたしましょう」

「「「!?」」」

 それは彼ら南部同盟の兵士をこちら側に引き込むと言う策。

 私の発言に南部同盟の陣営だけでなく、西部連合の一部有力者の間にも動揺が広がっているが……安心してもらいたい、君らの出番はこの後にきちんと残っているから。

 そして彼らを引き込むのは、単純に彼らの錬度が高く、今後を考えると殺すのは何かと勿体無いからである。


「さあ、我らの同胞になることを望むのであれば、武器を捨ててこちらへ」

「「「……」」」

 ただ錬度が高いという事は、それだけ忠誠心が強いヒトが多く混じっている可能性が高いという事でもある。

 だから、敵である私の言葉だけではその心を完全に傾ける事は出来ないだろう。

 故に少々の小細工を行う。


 カランッ……


 ザッ……


『お、俺は……』


 南部同盟の兵士たちの背後で、誰が発したのか分からないように、私は音を鳴らす。

 武器を落とす音を。

 前に向かって歩く軍靴の音を。

 迷い躊躇いながらも死ぬのは嫌だと思っているのが分かる声を。

 何度も、何度も。


「俺は降るぞ!死ぬのは御免だ!」

「俺もだ!」

 やがて南部同盟から聞こえてくる音は、私が発する音ではなく、彼ら自身が発する音に変わり始め、少しずつ南部同盟の兵士の列の中で騒ぎが起き始める。


「ま、待て!お前ら!?自分が何を言っているのか分かっているいるのか!?貴様等ノムン王様への忠誠はどうしたのだ!?」

「あんなクソッタレの王への忠誠なんぞ知った事か!」

「そうだ!田舎から無理やり徴兵され、毎日キツイ訓練にクソッタレの上司からのクソみたいな指示!もうやってやれるか!」

「なっ……!?」

 それはノムン王を裏切れる者と裏切れない者との争い。

 ただ、こちら側に付こうと考えている者は、防具を持つ事は許していても、武器は捨てるように言ってしまっている。

 だから、このまま放置していれば、よろしくない方向に事態が進展してしまうだろう。

 うん、そろそろ頃合いか。


「西部連合の勇敢にして誠実なる兵士諸君に告げます。武器を捨て、我らの同胞となることを選択した者たちを守りなさい!今こそ貴方たちの武勇を見せるときです!!」

「「「!」」」

「南部同盟の明晰にして善き選択した兵士の皆様。こちらへと駆けなさい!貴方たちは恐怖と圧政と言う鎖から解き放たれる時が来たのです!!」

「「「おおおおおっ!!」」」

 私の言葉と同時に、西部連合の兵士たちが南部同盟の兵士たちに向けて全力で駆け出し始める。

 それに合わせるように、武器を捨てた南部同盟の兵士たちが私たちの側に向かって走り始める。

 すると、ノムン王を裏切れずにいた者の中からも武器を捨て始める者が出始め……最後までノムン王を裏切れずにいた者たちは数の暴力でもってほぼ全員が捕えられるか、殺されることになった。

 そうしてマダレム・ゼンシィズ前の戦いは……西部連合の勝利でもって、終わることになった。

敵の引き抜きは基本

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ