第195話「ロシーマス-9」
「味わうがいいっ!彼のシチータ王に勝るとも劣らぬ我が疾風の剣技を!」
ロシーマスが爆発したかのような勢いで土煙を巻き上げつつ、こちらに向かって勢いよく突撃を仕掛けてくる。
なるほど確かに速い。
シチータにも劣らないというのも過言ではないだろう。
「死……何っ!?」
「温いわねぇ」
尤も、最盛期のシチータではなく、私が最後に戦った毒で弱った頃のシチータの速さと比較しての話だが。
「ぬおおおおっ!」
「はいはいっと」
『さて、リベリオ。英雄の倒し方その一。相手の情報を調べ上げなさい』
一撃目を容易く防がれたロシーマスは、私の事を殺すべく両手の剣を激しく振るう。
が、その動きは直線的でただ速いだけ。
重さも無ければ、破壊力も無く、最盛期のシチータを知っている私にとっては当たれば怖いが、防ぎ、避けるのは大して難しくない攻撃でしかなかった。
『調べ上げる?』
『相手がどういう武器や魔法を使うのかは勿論の事、性格、癖、交友関係に出自、その他諸々調べるだけ調べなさい。まず相手の情報を揃えなければ、策の練りようがないもの』
そうやってリベリオとの会話に思考を割きつつも、私はロシーマスの攻撃をいなすと同時に観察をする。
なるほど確かに良く鍛えられてはいるのだろう。
が、今まで自らの速さに付いてこれるものが居なかったせいか、その動きは正直で、本人としてはフェイントを織り交ぜているつもりだろうが、私の目にはバレバレである。
「このっ……」
「あらっ」
と、ロシーマスが僅かに距離を取ったところで、凄まじい速さで移動することによってその姿を眩ませた。
なので、私はハルバードから左手を離すと、そのまま自分の背後に向けて裏拳を放つ。
すると……
「ぐごっ!?」
私の予想通り、左手の拳に何か堅い物が当たり、その下に有るものを撃ち砕くような感触がする。
「こんな柔腕に殴られて吹き飛ぶだなんて、想像以上に軽いのね」
「がっ、ぐっ、がはっ!?」
そしてその直後に、ロシーマスが地面の上を何度も跳ねながら転がっていき、左上腕を抑えながら蹲る姿が私の視界に入ってくる。
『英雄の倒し方その二。情報に基づいて、相手の思考力、判断力を可能な限り削ります』
「ぐっ……馬鹿な……」
何が起きたのかは言うまでもない。
ロシーマスが私の背後に回り込んで切りつけようとしたら、私の裏拳が当たって吹き飛ばされただけだ。
今の動きは中々に速かったが……ロシーマス自身の感覚が速さに追いつけていないのだろう。
私の事を見るロシーマスの目が微妙に有り得ない物を見るようなものに変わっている。
と言うわけで……
『削る……』
『ええそうよ。だから……』
「ふふふっ、夜のお仕事が忙しくて昼の訓練が疎かになっているのかしらね。夜のお仕事は相当激しいものでしょうしねぇ」
「き、貴様あああぁぁぁ!!」
煽る。
恐怖ではなく怒りを。
勇敢さを蛮勇に変えるように、理性ではなく感情で動くように、澄んだ目を曇らせように、諌める声を雑音とするように。
「死ねええぇぇ!!」
「あはははは!遅い!温い!つまらない!こんなのが七天将軍二の座だなんてノムンも見る目が無いのねぇ!」
煽る。
相手の根幹を揺さぶり、退く事が出来ぬように、貶め、穢し、辱める。
正しき賛辞を隠し、ヒトとして間違えた嗜虐の心、侮蔑の心、余裕に満ちた心だけを顔に出す。
「このっ!このっ!このをおぉぉ!!」
『こうして平常な心を削られ、勝負を急ぎ、勝つことに焦る者の行動は読みやすい。今までよりも遥かにね』
『……』
ロシーマスの動きは最初と比べて、明らかに鋭さと速さを増していた。
だが、速さと鋭さが増すのに合わせてその動きは単調となり、私がロシーマスの攻撃を凌ぐのに費やす動きは先程よりも小さく、少なくなっていく。
それこそロシーマスから見て、私は身動きを殆どしていないかのように。
「この化け物がっ!ならば……」
『さて、英雄の倒し方その三』
焦ったロシーマスは、碌な隙も生じていないのに、私から距離を取って、構えを取る。
昨日見せた竜巻を放つ構えを。
なるほど確かにあの竜巻ならば、当たれば私でも死は免れないだろう。
だがしかしだ。
「これでっ……」
『焦った英雄は形勢を逆転させるべく大技を撃とうとするわ』
その竜巻を放つ前の溜め。
それこそが私が待っていたものである。
『その時の英雄は不安に思いつつも、一瞬安堵もするの。これで終わる、これで勝てるってね。だからそう思ったところに撃ち込むのよ』
と言うわけで私は靴裏と周囲の地中に仕込んだ魔石を発動。
「えっ?」
「「「!?」」」
『!?』
『不可避にして致命的な一撃をね』
使役魔法によって周囲の土を改めて操作し、ロシーマスの足元に私が伸ばした腕の先で水平にハルバードを持って一周した程度の大きさを持つ穴を出現させる。
「なっ……」
ロシーマスが私十人分ほどの深さを持つ穴の中に落ちていく。
と同時に、私は懐にしまっておいた魔石の一つを左手で軽く放り投げ、穴の上に到達した所で魔法を発動。
「重い石」
穴の上に穴の直径と同じぐらいの大きさを持った特別な岩……鉄や鉛と言った重い金属を多く含む岩が出現する。
『以上、英雄の倒し方でした。まっ、自分が嵌められないためにも覚えておきなさいな』
岩は自然の理に従って穴の中に落ちていく。
『……。はい』
速度を増し、破壊力を増し、その下にあるもの全てを撃ち砕く鎚となって。
「敵将、七天将軍二の座ロシーマス」
そう、当然の話であるが、打ち砕かれるものには、岩よりも先に穴の中に落ちたものも含まれる。
「討ち取ったり」
そして、何か固い物が押し潰され、弾け飛ぶような音が、大地の底から地上の戦場へと響き渡った。
正にロ歯-(改行)
mase!
あ、はい。名前はこれがやりたかっただけです。
現実のロシーマスに関わりのある皆様すみません。
08/19誤字訂正