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ソフィアズカーニバル  作者: 栗木下
第4章:蛇の蜷局囲う蛇
193/322

第193話「ロシーマス-7」

「いやはや、七天将軍二の座ロシーマス。通称『疾風(はやて)』のロシーマス。噂に違わない実力でしたなぁ」

「そうね。だいたいは事前に得ていた情報通りだったわ」

 夜、明日の為の軍議を終えた私は、城壁の上でセンサト、リベリオの二人と話をしていた。

 勿論、周囲にヒトが居ない事は私の魔法で確認済みだが。


「兵の指揮能力は引き際を見逃さない程度と、最低限のレベルではありますが、それを補って余りある圧倒的な戦闘能力。いやはや、もしもアレをもっと効果的に使われていたら、ソフィール将軍でも危なかったのでは?」

「そうね。ただ、ロシーマスが指揮できる人数の合計を、連中の後ろに控えている誰かさんがよく知っているおかげで、最低限の指揮能力でも十分厄介になっている。それに……」

「それに?」

「あの一撃のおかげで明日の私たちが採れる戦術は限られることになった。正直嵌められたとも言っていいわね」

 私はセンサトに視線だけで事前に頼んでおいたことの報告を促す。

 私の視線を受けたセンサトは一度周囲を見渡し、念の為にこの場に私たち三人しか居ない事を確かめてから口を開く。


「はぁ……ええ、ソフィール将軍が想像していた通りです。ロシーマスの一撃を受けて、かなりの数の兵が動揺しています。特に『輝炎の右手』に属する魔法使い連中の動揺が酷いですね」

「まあ、あれだけの規模の竜巻を気軽に起こせる魔法使いなんて、ヘニトグロ地方全体で見渡しても数えられる程しか居ないでしょうし、それが分かってしまう分だけ、衝撃も大きいんでしょう」

 真面目な口調でセンサトが報告する。

 『輝炎の右手』はテトラスタ教が保有していると言ってもいい魔法使いの集団で、今はシェルナーシュの息子であるルズナーシュを首領として西部連合の領域内に存在する大小無数の流派を束ね、吸収していっている組織である。

 彼らはシェルナーシュの書いた『シェーナの書』であの事実についても知っているはず。

 知っているからこそ、今は恐れおののいてしまっているのだろう。


「念のために、動揺を煽っている間者が居ないかを確かめると共に、部下たちにも他の兵士たちを出来る限り落ち着かせるように指示は出していますが……正直、明日全員が使い物になるかは微妙な所かと」

「そう。ならやっぱりあの提案は受けて正解だったわね」

「提案?」

 そして一般の兵士たちの動揺も少なくないらしい。

 まあ、後少しで囲んで叩けると言う所で、いきなりあんな竜巻を見せられ、しかも一目散に逃げられたのだ。

 動揺しない方がおかしいぐらいだ。


「さっきの軍議で、明日は将軍同士の一騎打ちを仕掛けることに決まったのよ」

「……。相手は乗って来るんで?」

 私の言葉にセンサトは眉間のしわを深める。

 まあ、当然の反応だろう。

 普通に考えたら、敵がこちらの提案に乗って来るとは限らないのだから。

 だが今回に限っては心配ないだろう。


「確実に乗って来るわ。敵にはマダレム・ゼンシィズそのものを落とす戦力はない。つまり、一騎打ちは相手にとっても望むところなのよ。ロシーマスは自分の武勇に絶対の自信を持っているタイプだしね」

「なるほど。しかしそうなると……」

 センサトが私に意味有り気な視線を向けてくる。


「心配しなくてもこちらは希望者しか出さないわ。希望者が居なかったら……まあ、私の出番ね」

「では、我々は……」

「ええ、相手が一騎打ちに乗ってこなかった場合と、一騎打ちの後に備えておいてちょうだい。どちらにしても戦闘は避けられないから」

「了解しました。では俺は将軍の言葉を部下と……やる気が残っている連中に伝えておきます」

「ええ、お願いね」

 私がどういう展開を考えているのかを理解したのか、センサトが元気よく城壁の下に降りていく。

 で、残された私は、同じく残されたリベリオへと視線を向ける。

 リベリオは……


「何か言いたそうね」

 私に対して何か言いたそうな顔をしていた。


「その、ソフィアさん。明日も戦うんですよね」

「そうね。下策中の下策の戦いを今日はして、明日は下策の中でも多少はマシな戦いをすることになるわ」

「下策……」

「まあそもそもとして、ヒトが大量に死ぬ戦と言う手法そのものが下策と言えば下策なんだけれどね。今回ばかりは仕方がないわ。その下策を好む連中を一ヶ所に集めたわけだし」

「……」

 二人きりと言う事で私本来の名前を呼ぶリベリオは、まだ何かを言いたそうな表情をしている。


「言いたい事が有るならはっきり言いなさい。でないと何も伝わらないわよ」

「……。ソフィアさん。どうしてヒト同士で戦うんですか?」

「その質問に私は答えられないわね。私はヒトと戦い、その死を糧にしている者だから。戦いを望まない普通のヒトとは物の見方が根本から違うわ」

「ヒト同士の戦いを無くす方法はありますか?」

「それは貴方が自分で考える事よ。その話について私が出来るのは土台を整える事までよ」

「……」

 だが、リベリオの質問は私には答えられない、もしくは答えるべきではない質問だった。

 なにせ私は蛇の妖魔(ラミア)なのだから。


「今日の所はもう眠っておきなさい。今日と違って、明日は貴方もヒトを殺さなければいけなくなるわ」

「はい……」

「そしてよく見て、学びなさい。彼我の実力差を分からない者がどうなるのかを、英雄と呼ばれる者の倒し方を、ヒトを殺すという事がどういう事かを」

「はい……」

 リベリオがゆっくりと城壁の上から降りていく。

 多少おぼつかない足取りだが……まあ、私が上から見ているので、大丈夫だろう。


「さて、寝る前に私も手を打っておかないとね」

 そしてリベリオが無事に自分の寝床に戻った事を確認した私は、明日の戦いの為の準備を始めることにした。

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