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ソフィアズカーニバル  作者: 栗木下
第4章:蛇の蜷局囲う蛇
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第191話「ロシーマス-5」

「敵の数はおおよそ二千。敵の総大将は旗の絵柄が新月を表す黒い丸に風を纏った星である事からして七天将軍二の座ロシーマス。うーん、これは誘い出されたかもしれないわねぇ」

「えーと、ソフィールさんは見えているんですか?俺の目じゃほとんど全部霞んで見えているんですけど……」

「見えているわよ。そう言う魔法を使ってるから」

 私はマダレム・ゼンシィズの城壁の上に立つと、南部同盟の陣地の様相からおおよその兵士の数と掲げられている旗の模様を確認する。

 少々特殊な魔法を使って大まかに確認しただけだが……まあ、この後に帰ってくる斥候の報告とさほど差はないだろう。


「ま、それよりもこちらの戦力はマダレム・ゼンシィズの守備兵を含めて二千と三百。その内五百はマダレム・ゼンシィズの守りに割かざるを得ないから実質千八百。つまり相手よりも一割ほど少ない数で相手をしなければいけないわ」

「え?城壁を利用して戦わないんですか?」

 まあ、私の魔法についてはさて置くとして、問題は彼らをどうやって撃退、可能ならば撃滅するかである。

 それもリベリオの言うような城壁を利用した戦術……籠城と言う手段を使わないでだ。


「そうね。マダレム・ゼンシィズのような堅牢な拠点なら、三倍ぐらいの兵力までなら凌げるし、そうやって私たちが凌いでいる内にこちら援軍も着くでしょう」

「だったら……」

「けれどその間に連中は周囲の村々を荒せるだけ荒していくわ」

「!?」

 確かに籠城と言う手段は、こちらの援軍が来る前提で用いるならば、相手が余程の奇策か大量の人員と兵器を動員してこない限りは有用な戦術である。

 だが有用であるがゆえに、敵もこちらを外に引きずり出すべく、様々な手を打ってくる。

 そうやって敵が打ってくる手で一番問題になるのが……略奪だ。


「今はセレーネが私たちの王になったばかりの時期。この時期にセレーネの後見人である私がこの場に来ていながら、周囲の村々を南部同盟の略奪行為に晒したとなれば……まあ、例えその後に勝てたとしても、何かとよろしくない事にはなるわね」

「……」

 略奪は厄介である。

 ただ兵士を殺されるよりも遥かに多くの悪影響が全体に生じかねないし、敵の腹も満たされてしまうからだ。

 だから、出来る限り早々に彼ら南部同盟の兵士にはお帰りいただくべきであり、それ故に籠城と言う策は用いる事は出来ない。

 リベリオも略奪と言う行為には思う所があるはずなので、私が籠城を選ばないのには納得してくれるだろう。


「で、本音を言えば奇襲、夜戦、その他諸々諸工作を行った上で出来る限り一方的に敵をねじ伏せたい所なんだけれど……と、ちょうどいいところに来てくれたわね。センサト」

「出陣の準備整いました……と、何の御用で?隊長」

 と、ここで私の元に戦いの準備が整った事を伝えるべく、私を隊長とする傭兵部隊の副隊長……と言う名の実質的隊長であるセンサトがやってくる。

 うん、実に丁度いい。

 呼びに行こうと思っていたところだったしね。


「センサト、脳き……他の有力者たちは出陣を望んでる?」

「望んでますね。数が多少少ない程度、裂帛の気合と共に~とかのたまってましたよ。後はマダレム・ゼンシィズの守備兵を減らして一緒に攻め込むとか、周りの村々から男手を集めて来るとか、そんな意見が出てます。数が近いせいか籠城をしようと考えている奴は少ないですね」

「なるほど」

 センサトがマダレム・ゼンシィズの中に黒い瞳を向けながら、どこか呆れた様子で他の有力者たちの考えについて語る。

 それにしても裂帛の気合とか……ああうん、乾いた笑いが出そうだ。

 ま、彼らにも役割は有るので、指摘したりはしないでおこう。


「兵たちについては?」

「セレーネ様と言う分かり易い象徴と自分たちの家族や街、村を南部連合の連中から守るのだと、いい感じに気合が入ってますね。一部の若い奴なんかは、今すぐにでも飛び出して行っちまいそうな感じです」

「ふむふむ」

 で、兵についても籠城する気はない。と。

 まあ、一般兵がやる気に満ちているのは悪い事ではないので、こちらは素直に喜んでおくとしよう。


「で、隊長……ああいや、今回はソフィール将軍とお呼びした方がいいですかね」

「そうね。ソフィール将軍でお願い。今回の迎撃の責任者は私だから」

「ではソフィール将軍。ソフィール将軍はどうなさるおつもりですか?ウチの部隊の準備は整っているので、大抵の指令には即応出来ますが?」

 センサトが黒い髪の毛にギリギリ触れないように手を挙げた敬礼をしつつ、私に問いかけてくる。

 ただその顔に笑みが浮かんでいる事からして……まあ、私が何をするかなど既に読み切っているようだが。

 いやあ、優秀な部下が居るのは本当に良い事である。

 ただまあ、今回はその優秀な部下には優秀さを隠してもらうのだが。


「では、今すぐにマダレム・ゼンシィズの守備兵五百を除いて、残りの兵千八百を集めなさい。今回は正々堂々と真正面から馬鹿正直に戦うわ」

「了解。となりますと、ソフィール将軍と我々グロディウス商会傭兵部隊百人は最後尾ですな」

「ええそうね。手柄は持って行かれるけど仕方がないわ。指揮官は後ろに居て、全体に指揮を出さなければいけないもの。ふふふふふ……」

「ははははは、こればかりはどうしようもないですなぁ」

「……」

 と言うわけで、私とセンサトは笑いながら、リベリオは私たちの笑みに何か黒いものを感じたのか、微妙に引き攣った笑みを浮かべながら城壁の下へと移動を始める。


「ではセンサト。私は放置でいいけど、リベリオは頼んだわよ」

「言われなくても」

 そうして城壁の下に移動すると、私は将軍らしい豪勢な鎧に身を包み、有力者たちを焚きつけ、戦いの準備を整えさせる。


「リベリオ。今日はまず生き残る事だけを考えなさい」

「はい」

 それから私は馬に跨ると、ハルバードを右手に持ち、靴の底などに仕込んである魔石の状態を確かめる。


「では……全軍、出撃!」

 そして、私の号令と共にマダレム・ゼンシィズの堅固な門扉が開かれた。

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