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ソフィアズカーニバル  作者: 栗木下
第4章:蛇の蜷局囲う蛇

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187/322

第187話「ロシーマス-1」

 ソフィア主導による西部連合内の粛清が行われた頃。

 マダレム・シーヤから南に下った場所にあるマダレム・サクミナミと言う都市国家にて。


「い、以上が報告となります」

 マダレム・サクミナミは同盟の盟主がノムンに代わってから造られた新興の都市であり、今では南部同盟の首都と呼ぶべき街である。

 当然、首都と呼ぶべき街であるから、その街並みは美しく整えられている。

 そして、今や王と呼ばれる存在となったノムンの嗜好に合わせるように、戦いの拠点として非常に優れた造りにもなっていた。

 だが、そんな華麗にして堅牢な都の中でも一際目を惹くのが、ノムンが自らの住まい兼執務の一切を取り仕切る場として作り上げた屋敷……否、城とでも呼ぶべき代物だった。


「こ、琥珀蠍の魔石だと……失われたはずでは……」

「フムンの娘が存在していただと……だが、そんな話は……」

「くそっ、西部連合内に居た駒が次々に始末されているだけでも頭が痛いというのに……」

「また奴だ!ソフィールだ!一体何なのだ奴は!」

 そんな城の中では、華美な衣服や鎧を身に着けたヒトが一つの部屋に何人も集まり、集まっていた面々の大半が伝令の言葉に困惑し、混乱し、喚き散らしていた。

 己の身勝手な欲望を、西部連合とソフィアへの恨み言を、今回の件の責任者への罵詈雑言を、己の保身を図るための言葉を。


「静まれ」

「「「!?」」」

 だがそんな彼らが一瞬にして静まりかえる。

 部屋の中でも一段高くなった場所に置かれた豪勢な椅子に座るその男の一言でもって。


「ノ、ノムン王様……」

「余に同じ言葉を二度言わせる気か?」

「も、申し訳ありません」

 黒い髪に橙色の目を持つその男の名はノムン。

 南部同盟の現盟主であり、王として周囲の者から畏れ敬われる男である。


「まったく。お前たちは一体何を恐れているのだ?」

 ノムンは部屋の中を一度ぐるりと見回す。

 それだけで、先程まで感情のままに騒ぎ立てていた者たちは悉くその身を恐怖で震わせ、今まで一言も発さずに場を窺うだけだった者たちは威圧感でその身を竦ませる。

 ノムンの言動に何でもないかのように居られたのは、ノムンの近くに居た極々僅かな者だけだった。


「考えてもみよ。フムン()の娘と言えば、確かに聞こえはいいかもしれない。だが、その実態は余よりも弱き者だった兄よりも更に脆弱な小娘が、周囲の者に利用されているとも知らずに踊らされているだけだ。何を恐れる必要が有る?」

 だが、ノムンはそうやって怯える者たちを無視して、話を続ける。


「考えてもみよ。身につけた者を自ら守る琥珀蠍の魔石と言えば聞こえはいいかもしれない。だが、実際には一切の加工が出来ず、所有者の意思とは関係なしに動き続け、身を守る事しか出来ない出来損ないの魔石だ。どうしてこんな役立たずを怖れる必要が有る」

 低く、落ち着いた声で、己が何を考えているかを、心の奥底で理解できるように話す。


「西部連合で内乱を起こすのに失敗した?あんな物成功すればそれでよし。失敗した所で大して懐が痛む事も無い嫌がらせ程度の策だ。それが潰された程度で、余の道、余の目的が阻まれるとでもお前たちは思っているのか?」

 真に畏れるべきは誰であるのか。

 頭を垂れ、敬い、忠義を尽くさなければならないのはいったい誰であるのか。

 それをこの場に集っている全員に理解させるかのように語る。


「さて、これでもまだ騒ぎ立てようと思う者は居るか?居るなら出てくるといい、余が直々にその者を落ち着かせてやるとしよう」

「「「……」」」

 ノムンの言葉に応える者は居ない。

 ノムンの落ち着かせるという言葉の意味を、彼らが正確に理解していたために。


「しかし、ソフィール……か。以前にもその名は聞いた覚えがあるな。何者だ?」

 ノムンの言葉に応じるように、部屋の中に居た男の一人が手を挙げ、ソフィアについて分かっている事を語る。


「なるほど。実に興味深く……厄介な男だ」

 男の話を聞いたノムンは、口を弧の形に歪めると共にその目を細める。

 ただそれだけで普通のヒトは威圧され、顔面を青ざめさせていく。

 だが、今のノムンにとって、周囲の者たちがどうなっているかなど、大した問題では無かった。


「そのソフィールとか言う男。間違いなく琥珀蠍の魔石が失われた件にも、兄の娘が今まで誰の目にも触れなかった理由にも関わっているな。いや、そもそもとして奴が作り上げたグロディウス商会自体が、兄の娘を神輿にするべく作り上げられた組織と見るべきか。なるほど、有象無象の輩と一緒に考える事は辞めるべきであるな」

 今のノムンにとって重要なのは、ソフィアと言う他の敵とは一線を画す可能性がある敵をどう処分するかだった。


「ロシーマス……」

「はっ!」

 ノムンが片手を挙げながら、一人の男の名を呼ぶ。

 すると、ノムンの近くで顔色一つ変えずに立っていた鎧姿の男……ロシーマスがノムンの正面に移動し、片膝と片手を着いた状態でノムンの顔を正面から見る。


「貴様にソフィールと言う男の首級を上げる事を命じる。七天将軍二の座に恥じぬ働きを見せよ」

「はっ!かしこまりました!必ずや陛下の御前にソフィールの首をお届けいたしましょう!」

 そして、ノムンの命によって、南部同盟の軍部において王であるノムンの次に多大な権力を有する七天将軍の一人、ロシーマスがソフィアの命を狙って動き始めた。

琥珀蠍の魔石をどう見るかは、意外とヒトによって異なるものなのです。

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