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ソフィアズカーニバル  作者: 栗木下
第4章:蛇の蜷局囲う蛇
186/322

第186話「邂逅-13」

「と言うわけよ」

「なるほどねぇ……」

 蝋燭の明かりで室内が照らされる中、私はリリアに黒装束たちから得られた情報を一通り話す。


「アンタが単独で先行してくることを見越して、予め暗殺者をシムロ・ヌークセンに潜ませておき、アンタが到着した日に私を殺す。下手人がグロディウス商会の人間であるような証拠を僅かに残して」

「ええ、そうしてシムロ・ヌークセンと傘下三都市は西部連合と都市全体で敵対させ、後は事前の打ち合わせに従って南部同盟と調子を合わせて二方から同時に攻めかかる。私や貴女が普通のヒトだったら、見事に嵌っていた策だったわね」

 そうして話し終わったところで、私は改めて黒装束たちが持っていた装備品類を改める。

 うん、間違いない。

 彼らが持っていた黒塗りの短刀は、光の反射を防ぐために黒の塗料が塗られている点を除けば、グロディウス商会が製造販売している短刀そのものだ。

 そして短刀だけならば私に責を押し付けるために持ってきたものと採れるが、短刀以外にも、彼らがグロディウス商会に所属している様に見せかける物品が複数存在していた。

 これでリリアが殺されていたら……いや、リリアが殺されていなくても、前々からの私の戦場での戦い方や、一部の対立者が妙な消え方をしている事を考えたら、私に言い訳の余地はないだろう。

 リリアを殺した後には私も口封じで殺すつもりだったようだしね。


「まあ、この程度で決着が付けられる程、西部連合と南部同盟に戦力差があるわけでは無いし、南部同盟にとってシムロ・ヌークセンはただの捨て駒でしょうね」

「だろうね。南部同盟にしてみれば、協力者含めて、私たちは全員死んでくれた方が都合がいいに決まっている」

「ま、諸々の想定外が重なった結果がこれだけどね」

 ただまあ、彼らもまさかと言う思いだっただろう。

 着いたその日に私がリリアと会合していて、リリアが簡単に殺せるような弱いヒトでなくて、挙句に私がヒトではなく蛇の妖魔で、拷問に対する覚悟も何も無意味だったのだから。

 ここまで彼らにとっての想定外が重なったであろう事を考えると……ちょっと笑えてくる。


「で、アンタが今書いているそれは、そう言う事なのかい?」

「ええ、そう言う事よ。裏取りは後で別にやる必要はあるけれど、目星を付けるのには丁度いいでしょうね」

 さて、彼らがどういう目的で動いて居たか分かったところで、私は荷物から筆記用具を取り出すと、とある名前を書き連ねていく。


「南部同盟と何かしらの都合があること自体は問題ないわ。そこから引きずり出せる情報があるし、相手を説得するのにも使えるから」

「けれど此処まであからさまに反逆行為を働いたらねぇ……流石に見過ごすのは無理だね」

「まあ、きちんと一世一代の大博打だと理解して協力していたなら、まだ可愛げもあるし、協力の度合いによっては温情の余地もあるんじゃない」

「ふんぞり返っているだけの奴なら、誰が何と言おうとも実験台行きで決定だけどね」

 それは黒装束の協力者として、彼らの活動を手伝っていたヒトの名前と所属の名簿。

 中には傘下三都市の中でもかなり有力な者も含まれていた。


「ん?その名は……それにもう一本書くのかい?」

「誰が信用できないかは分かっていても損はないでしょう。後こっちのはウィズ……義理の息子に送るものよ。西部連合内の事は、出来るだけ西部連合の中で片づけた方がいいわ」

 そして、西部連合内のヒトの名前も含まれていた。

 これをウィズに送って対応させたなら……まあ、中々に愉快な事になるだろう。


「ほいっと」

 二本目の名簿を無事に書き上げた所で、私は魔石と一緒に名簿を窓の外に放り投げる。

 そして忠実なる(スネーク)(ゴーレム)の魔法を発動。

 土の蛇の中に名簿を入れると、マダレム・セイメに向けて地中を移動させ始める。


「流石は土蛇のソフィアと言いたいところだけど、大丈夫なのかい?」

「心配しなくても大丈夫よ。地中にある大きな流れを利用すれば、私の魔力は殆ど必要ないわ」

「流れ?」

「詳細については話す気はないわ」

 私はリリアの魔法使いとして気になるという視線から顔を背けつつ、頭の中でヘニトグロ地方の何処に土の蛇を配置してあるのかを思い浮かべ、そこに先程の一匹についての記憶も書き加えておく。

 ヘテイルの方……キキとは別の流派の魔法使いの思想にある地脈と言うものを利用して、土の蛇を維持するために必要な魔力を極限にまで削っているとは言え、私が存在を忘れたら終わりなのは変わりないからだ。

 なお、この考え方については、割と私にとっても重要なのでリリアには話さないでおく。


「ま、いいわ。それよりもいい加減に本来の目的を果たしてしまいましょうか」

「ん?ああ、そう言えばそうだったね」

 そうして私たちは今後について話し合うと、翌日から早速動き出した。

 そして私たち二人の動きによって北部三都市は多少の粛清を行った後に西部連合に合流。

 西部連合でも、ウィズたちを中心とした私が信頼を置けると判断していたヒトたちが動きだし……私がマダレム・セイメに帰った一月後には、南部同盟と良くない繋がりを持っていた者たちは軒並み排除されることになったのだった。


「ところでソフィア。アンタは私が裏切ると思っていないのかい?」

「アンタが事を起こした場合、裏切るだなんて言わないでしょ。元々そう言う関係なんだから。そして、事を起こすなら今じゃない。私を使って上げられるだけの利益を上げてから、逃がさず、確実に殺せるだけの準備が整えてから事を起こす。違う?」

「ほーお……言ってくれるじゃないか……根拠は?」

「貴女が『黄晶の医術師』の地位をここまで上げたヒトだからよ。リリア」

 なお、リリアにはセレーネとリベリオの事は話しておいた。

 万が一に備えておくためである。

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