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ソフィアズカーニバル  作者: 栗木下
第4章:蛇の蜷局囲う蛇
183/322

第183話「邂逅-10」

「ふうむ……」

 私は移動用に大きめに作った土の蛇の中で、今回の外交にあたって西部連合が用意してくれた各種資料を読んでいく。

 で、その資料によればだ。

 今回私の交渉相手となるのは西部連合の中でも特に北の位置……アムプル山脈の麓に造られた三つの都市国家である。

 最近の彼らは西部連合、南部同盟、東部連盟の争いに対して中立を宣言しており、彼らが動き出した際、どうしても関わりを持つことになる西部連合もそれを許容していた。

 うん、この件については、私も彼らが中立であった方が都合が良いと言う事で、裏で多少動いていたから知っている。


『ぎゃあああぁぁぁ!?』

『蛇だぁ!土の蛇が出たぞおぉぉ!!』

 ただどうにも、最近その三都市の様子がおかしいらしい。

 具体的には武器と食料をはじめとした各種軍需物資の収集に、城壁や兵の強化、その他不穏な動きが認められたらしい。

 と言うわけで、私に課せられた任務は北部三都市が何を考えているのかを探り、彼らが愚かな振る舞いをしようとしているならばそれをあらゆる方法……まあ、基本的には説得と威圧でもって止める事であるらしい。

 ふむ……とりあえず今回の命令書を出した奴の名前は覚えておこう。

 普通に考えたら、交渉役()が捕えられ、死ぬことが前提の話だ。

 当然私には死ぬ気なんて全く無いが。


「おっ、獲れたわね」

 私は先程進路上に居たからという事で、土の蛇が丸呑みにし、口内で圧殺したヒトを食べつつ、どうやって北部三都市の狙いを探るのかと、どのように交渉をするかを考える。

 迂闊に探りと交渉を始めるわけにはいかない。

 なにせ彼ら北部三都市は昔から同盟を組んでいるが、どの都市も自分こそが一番だと思っているからだ。

 なので、三都市のどれと交渉を始めても角が立つのは必定だろう。

 となると……やはり出立前から考えていた方法を取るしかないか。


「潜行開始ー」

 私は土の蛇に指令を出し、地中深くを移動させ始める。

 現在私が使っているこの土の蛇は、馬が全力で駆けるのと同じくらいの速さでもって、私と核にしている魔石の魔力に問題が生じない限り、半自動で地上と地中を移動し続ける事が可能と言う非常に優れた代物である。

 が、それと同時にシチータに何度も挑みかかった蛇の妖魔(ラミア)のソフィアの象徴であるように扱われている代物であるため、間違ってもグロディウス商会のソフィールとの関わりを勘付かれないように注意して扱う必要が有る代物でもある。

 それでも便利には違いないので、こうして使っているわけだが。

 なお、西部連合内では、個人用の高速移動魔法を持っていると言う事で話は濁してある。


「と、そろそろいいかしらね」

 そうこうしている内に、私が時折地上に出していた土の蛇の頭の視界に目的地周辺の風景が見えてくる。

 それと同時に周囲の空気を蛇の中に取り込んでみると、目的周辺独特の異臭が臭ってくる。

 どうやら無事に着いたらしい。


「じゃっ、行きましょうか」

 私は蛇の中で女性もののワンピースに着替え、胸に詰め物をし、頭には顔を見られないようにするための黒い薄布を着けた帽子を被ると、背中にハルバードと各種必要な品を詰め込んだ服を背負う。

 これで、少なくとも西部連合グロディウス商会のソフィールだと、一目で気づかれることはないだろう。

 知り合いでなければだが。

 そして、女性らしい歩き方でもって私にとっても因縁深い街の一つ……シムロ・ヌークセンへと足を踏み入れた。



-----------------



「モグモグ。昔よりも賑わっているわねぇ……」

 私は今や街全体の名物の一つと化した温泉卵を頬張りながら、夕日に照らされるシムロ・ヌークセンの中をゆっくりと歩いていた。

 街は湯治客で賑わい、多数の衛視と傭兵のおかげで治安も悪くはない。

 目立たないようにしては居るが、見た目と雰囲気が美女丸出しな私が、一度として絡まれていないのが良い証拠だろう。

 ただやはりと言うべきか、傘下の三都市の影響か、何処となくピリピリとした空気のようなものも感じる。


「これも現総長の力かしらね」

 そう、傘下だ。

 かつてシムロ・ヌークセンを共同で管理するような立場にあった北部三都市は、二十年前に『黄晶の医術師』の総長が彼女になって以降少しずつ立場が変わっていき、今ではシムロ・ヌークセンこそが北部三都市による同盟の実質的な盟主となっていた。

 うん、恐ろしい。

 何が恐ろしいって、卓越した医療技術とその技術に基づく各地有力者との繋がり、ヘニトグロ地方各地からやってくる客が落とす金銭、それらを組み合わせ、巧みに利用することによって、シムロ・ヌークセンと言う不可侵の領域と、『黄晶の医術師』と言う流派に属するだけでヘニトグロ地方全土で医療行為に従事することが許される状況を作り出した彼女の手腕が恐ろしい。


「……」

 正直、あの件が無くても、『黄晶の医術師』は今までに私が唯一負けを認めた集団であるし、相手にしたくはない。

 が、私に課せられた任務を成功させる方法の中で、一番成功率が高いであろう方法は彼女と交渉し、味方に着ける事である。


「『黄晶の医術師』に用があるお客様はこちらにお並び下さーい」

「本日の診察は終わりとなりました。明日以降の予約はこちらで受け付けております」

「まあ、頑張るしかないわね」

 そうして私は陽が落ちるのに合わせて、『黄晶の医術師』の拠点内へと忍び込んだ。

懐かしのシムロ・ヌークセンです

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