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ソフィアズカーニバル  作者: 栗木下
第4章:蛇の蜷局囲う蛇
181/322

第181話「邂逅-8」

「……と言うわけです。以上で報告を終わりますわ」

 マダレム・セイメ中央議会の議場は静まり返っていた。

 ただ、誰も口は開かない事は共通であっても、その表情や窺える内心はまるで別物だと言えた。


「ブツブツ……(琥珀蠍の魔石だと。そんな物が何故……)」

「ブツブツ……(村が襲われた。だが一体奴らは何処から……)」

「ブツブツ……(シチータ王の孫。上手く籠絡できれば……)」

「ブツブツ……(何故だ。何故ソフィールの奴の手元に……)」

 純粋に事態が把握できていない者、南部同盟の兵士が何処から入り込んだのかを考える者、己の栄達の為に事件を利用することを考える者、私に対して嫉妬を向ける者。

 それ以外にも、妙な表情を浮かべている者や、私の言動に矛盾点が無いかと考えている様子の者、過去の諸々から私が裏で手を引いているとか考えていそうな者も居る。

 早い話がまるでまとまっていない。

 うん、やっぱり昨日の今日で時間を作り、報告をする機会を作って正解だったか。

 時間を置いていたら、絶対に余計な行動をする奴が出て来てた。


「一応聞いておこう。ソフィール、君は何故今回の南部同盟の兵士による略奪に気づく事が出来た?」

「今回襲われた村は私のグロディウス商会が常日頃から関わっていた村であり、村の中には商会も運営に関わっていた孤児院が有りました。ですので、念のためではありますけど、少々特殊な魔法でもって村の中を見張っていましたの。そしたら……」

「略奪が有った。だから慌てて飛び出したというわけか」

「そう言う事です」

 忠実なる蛇の魔法を初め、契約魔法を基にした土を自分の肉体の一部として操る魔法全般について私は中央議会の面々には話していない。

 なので今の発言によって私に対する疑念も膨らむだろうが……迂闊な反論は出来ないだろう。

 セレーネと琥珀蠍の魔石と言う、現状では切り札に近い手札は私の手の内にあるのだから。

 反論をするならば、それこそ内紛に近い状態になることを覚悟しなければならない。

 私、トーコ、シェルナーシュと言う大戦力に加えて、普通のヒトの手で作れる範囲では上位の質を誇る装備を身に着けた傭兵たちに、それを指揮できるウィズと言うマダレム・セイメどころか西部連合全体で見ても有数の戦力相手にだ。

 ただそれでもだ。

 馬鹿は自分の戦力を勘違いして行動を起こすもの。

 釘は刺しておくべきだろう。


「そうそう、一応言っておきますが、彼女たちは今故郷と呼ぶべき村を焼かれ、見た目は気丈に、何でもないかのように振る舞っていますが、内面では非常に傷つき、苦しんでいます」

「「「……」」」

 と言うわけで、私は議場が静まった僅かな瞬間を狙って口を開く。

 勿論ただ口を開くのではなく……


「もしも……もしも、そのような状態で、彼女たちを今以上に傷つけ、苦しませ、利用しようとする存在が居るのであれば、彼女を保護した者として、私は絶対にその存在を許しません。以後同じような愚か者が出ないようにするためにも、全力で排除に当たらせてもらうつもりですので御覚悟を」

 議場の中に居るそう言う行動をしそうな愚か者に向けて大量の魔力を放出して威圧しながらだが。


「そ、それは脅しかね?」

「脅し?いいえ、当然の義務です。彼女は琥珀蠍の魔石が認め、守護するほどの善きヒト。そんな彼女と彼女の家族を傷つけようとする者が居るのであれば、これぐらいの気持ちは必要でしょう。尤も、そんな人物が本当に居れば、の話でありますが」

「そ、そうだな……うむ。考えてみれば、そんな人物が居るはずがおりませんな」

「そうですな。わ、我々はマダレム・セイメ中央議会の議員、そんな愚かな真似をするはずがない」

「は、はは、ははははは。ソフィール殿は心配性ですなぁ……」

 うん、これぐらい脅しておけば、早々迂闊な真似をするヒトは出てこないだろう。

 と言う所で、私はこれまで一言も発していない彼女へと視線を向ける。

 それだけで彼女は私が求める事を察したのか、溜息と共に仕方がないと言わんばかりの表情を浮かべつつ立ち上がる。


「ところでソフィール。今回貴様が保護した二人は、今後どうするつもりだ?」

「現実的に言って村の再建は不可能です。なので、二人にはマトモな生き方なら、どういう生き方を望んでも大丈夫なように、マダレム・セイメをはじめとした都市で生きられるようにするための教育を施すつもりです」

 私の発言に議場の中に居る数人の顔色が変わる。

 恐らくは教育という名目でもって、自分の都合のいいようにセレーネたちを操りたい連中なのだろう。

 が、私には当然それを許すつもりはない。


「ただ、私はこれから一月の間、北部三都市との交渉に向かわなければなりません。なので、私が二人の教育に口を挟めるのは、教師となる方の選定までと言う事になります」

 私の発言に一部の面々は更に色めき立つ。

 が、残念ながらこの場で色めき立っているような連中はその時点で論外だ。

 セレーネとリベリオの二人を教育する役には広範な知識以上に、しっかりとした倫理観を有する人物が必要なのだから。


「そう言うわけですので、その辺りの詳しい話は今日の議会が終わった後にする事にしましょうか」

 そうして、私の発言と共にその日の議会は終わることとなり……私は教育係の座を勝ち取ろうと慌てて行動し始める他の議員を尻目に彼女……ティーヤコーチと共に小さな部屋に入った。

まあ、どう考えても怪しいですわな

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