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ソフィアズカーニバル  作者: 栗木下
第4章:蛇の蜷局囲う蛇
180/322

第180話「邂逅-7」

「おはよう、二人とも」

「ソフィールさん。おはようございます」

「おはようございます」

 翌朝、ウィズからセレーネとリベリオについての話を聞いた私は、外出する前に二人の元へと顔を出す事にした。


「調子はどうかしら?素直に言ってみて頂戴」

「その……ベッドの寝心地も、食事も、お風呂もすごく良かったです。ただ……」

「ただ?」

「部屋が広すぎてその……」

「ああ、落ち着かなかったのね」

「はい……」

 ウィズ経由で渡して貰った金の蛇の環をペンダントに填めたセレーネはそう言うと、少々恥ずかしそうに俯く。

 あーうん、報告は受けていたけど、確かにあの村の規模からして、今までなら孤児院のシスターと子ども全員でセレーネ一人に当てた部屋と同じぐらいの広さの部屋で寝てたのだろうし、それを考えたらあの部屋は少々広すぎたのかもしれない。

 これは私の配慮不足と言うしかないだろう。

 ただこればかりは……慣れてもらうしかないか。

 一応ベッドに天蓋を付けたり、カーテンを周囲に引いたりで対策は可能だろうけど。

 うん、その辺りは……ウィズがやってくれるか。

 目がそう言ってる。


「リベリオは?」

「俺の方は特に。その……セレーネが来たことは驚きましたけど、すんなり眠れましたし」

「そう、ならよかったわ」

 なお、夜中にリベリオの部屋にセレーネが行って、一緒に眠っていた事は私も既に知っている。

 そもそもリベリオの部屋にセレーネを連れて行ったのがウィズであるし。


「さて、食事の手は止めなくてもいいけど、二人とも何かと不安だろうし、これからの事について話しておきましょうか」

 さて、昨夜についての話が終わったところで、今後についての話である。


「まずは……そうね。暫くの間、貴方たち二人にはこの屋敷に留まってもらう事になるわ。少々息苦しいかもしれないし、不便をかけるかもしれないけど、我慢して頂戴」

「そんな息苦しいだなんて……」

「広すぎて大変だって意味なら大変かもな……」

「そこは私や使用人に用事を頼むなどの手を考えればいいでしょう。最初は慣れないかもしれませんが、客人に不便を掛けないのが使用人の仕事でもありますし、むしろ頼まれない方が困りますね」

 私の言葉にセレーネは心配を掛けないようにと元気な様子を装って返してくる。

 しかし広すぎて大変かぁ……まあ、これについては一月の間住んで慣れてもらえれば何とかはなると思う。

 それよりもだ。


「ごほん。一応言っておくけど、一月の間何もしなくてもいいと言うわけでは無いから、そこは気を付けて頂戴ね」

「えと、お店で働いたりとか……ですか?」

「俺もセレーネも、殆ど字は読めないし、計算とかまるで駄目なんすけど……」

「心配しなくても店で働かせたりはしないわ。それよりも遥かにやってもらいたい事があるもの」

 この一月の間に私は色々と手を打たなければならない。

 そして、二人にやってもらいたい事は、仮に今後セレーネとリベリオの二人が私の望む象徴と武力の役割に着けるだけの実力を持てなくてもやってもらわなければならない事である。


「その、私たちは何をすればいいんでしょうか?」

「簡単に言ってしまえば勉強ね。都市と言う村とは全く違う環境で生活するための」

「勉強……シスターにテトラスタ教の経典で色々と教えられたなぁ……」

「言っておくけど、テトラスタ教の教えだけじゃないわよ」

 それは勉強。

 仮に私が急に居なくなっても生きて行けるだけの知恵と実力を身に着けさせることである。


「父上」

「心配しなくても、最初は最小限の範囲に留めるわよ。人材の当てもあるし。少なくとも私が教えるのは極々一部……戦闘関係に限るわ」

 ウィズが自分のトラウマが刺激されたためか、小声で耳打ちしてくると同時に、私の事を睨み付けてくるが……安心して欲しい。

 同じ轍を踏むような真似はしない。

 彼女との付き合いで教えられたが、私はどうにも普通のヒトに何かを教えるのには向かないようなのだ。

 だから、戦略や戦術と言った特に私が得意とする分野以外については、向こうから望まない限りは関わらないでおく。

 幸いにしてマダレム・セイメには教育関係で丁度いい人材もいるのだし。

 と、話を戻さないと。


「こほん。勉強の内容は……そうね。まず二人に共通する内容としては簡単な文字の読み書きと基本的な計算。それから、リベリオとセレーネでそれぞれ個別に学んでもらう事もあるわ」

「個別……ですか?」

「……」

 私の言葉にセレーネは首を傾げるが、リベリオは私が何を求めているのかを既に察しているのか、何処か渋そうな顔をしている。


「リベリオ、貴方が学ぶべき事は分かっているわね」

「魔力の扱い方ですよね」

「ええそうよ。悪いけれど、貴方については魔力を完全にコントロールできるようにならないと、屋敷の外に出る事も自由に許すわけにはいかなくなるわ」

「はい」

 ただ、リベリオも私の判断に納得しているのか、素直に頷く。

 なお、実際に魔力や魔法について教えるのはシェルナーシュの仕事にする予定である。

 シェルナーシュの方が詳しいしね。


「セレーネ。貴女については……そうね。今は貴女が学びたいと思う事を思いついたら、ウィズに言うようにして。出来る限り貴女の望みを叶えてあげられるように取り計らうから」

「はい、分かりました」

 セレーネについては現状では何とも言えない。

 シチータの最後を考えると、料理や医術についての知識を身に着けた方が良い気もするが……料理はともかく医術についてはかなり専門的な知識であるし、彼女が望まない限り教えるのは最低限の知識だけに留めるべきだろう。


「さて、それじゃあ、私はそろそろ行くわね。二人とも、何か用事が有ったらウィズに言ってちょうだい。ウィズ、後は任せたわよ」

「「「はい」」」

 そうして今後について一応の話を終えた所で、私は部屋を後にした。

 さて、二人の為にも色々と手を打たなければ。

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