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ソフィアズカーニバル  作者: 栗木下
第4章:蛇の蜷局囲う蛇
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第179話「邂逅-6」

「ほいほい、そろそろ見えて来るよー」

 数時間後。

 シェルナーシュがリベリオとセレーネの二人に対して魔法に関する基本的な知識を講義したり、街に着いてから注意するべき事を話したりしていた私たちの元に、トーコの声が聞こえてくる。


「あら、やっとなの」

「まあ、馬の調子とか、リベリんとセレネんの馬車への慣れとかも考慮して、かなりゆっくりと走らせてたからねー。こればっかりはどうしようもないかな」

「それもそうね」

 私は馬の手綱を握るトーコの脇に顔を出すと、普通のヒトの目にも目的の場所が見える事と周囲の安全を確認してからセレーネとリベリオの二人に場所を譲る。


「あれがソフィールさんたちが住んでいる……」

「都市国家マダレム・セイメ……」

「ええ、その通りよ」

 森を抜けた私たちの前に見えてきたのは、他の街のそれよりも多少高く作られると共に、様々な仕掛けが施されている事が傍目にも分かる石の城壁。

 都市国家マダレム・セイメである。


「通行証を」

「はいはーい、グロディウス商会のトーコです」

 マダレム・セイメは、西部連合に所属する都市国家の中でも指折りの大きさと強固さを誇ると共に、西部連合の各地に向かうにあたって何かと都合が良い場所に存在している都市である。

 そして、私が十年ちょっと前に設立し、発展させてきたグロディウス商会が本拠地として定めている都市でもある。

 なお、治安が他の都市に比べて格段に良い事も特徴の一つだが……交通の要所と言う善悪問わず多くのヒトが流れ込む地なのに治安が良い理由については言わずもがなである。

 食べても大きな問題にならないヒトが居ると言うのは実に素晴らしい。


「確認しました。どうぞ中へ」

「お勤めご苦労様でーす」

 衛視による確認が終わり、馬車がマダレム・セイメの中を進んでいく。

 馬車の前後から見える光景にセレーネとリベリオが大きな口を開けて呆然としていたり、村には無かった珍しい物を見つけて騒いだりしているが……まあ、いつもの事か。


「ソフィアん着いたよー」

「分かったわ」

 そうこうしている内に馬車は屋敷の中に入っていき、その足を止める。

 そして完全に止まったところで私はトーコに馬車を任せ、セレーネ、リベリオ、シェルナーシュの三人を連れて屋敷の中に入っていく。


「「「お帰りなさいませ。会長」」」

「「!?」」

 屋敷の扉を開けた私たちの前に待っていたのは?

 屋敷の使用人と商会の従業員たちだ。

 うん、出迎えてくれるのは嬉しい。

 嬉しいが……、従業員組は仕事をどうしたの?


「出迎えご苦労様。で……」

「会長が居ないと進められないものが色々と溜まっているんです。直ぐに仕事に戻ってください」

「……」

 どうやら私が突然飛び出したせいで色々と滞らせてしまったらしい。

 うーん、普段はこんな事はないし、何か起きたのかもしれない。


「分かったわ。順次対応していくから、緊急性の高いものから報告して行って。それと、手が空いている使用人を呼んで、後ろに居る二人に風呂、衣服、食事、個室を与えてあげて」

「客人?ですか」

「いいえ、特別な客人よ」

「かしこまりました」

 私の指示を受けて使用人と従業員が動き出す。

 これでセレーネとリベリオの二人については明日の朝まで放置して、ゆっくりと休ませてあげればいいだろう。


「では会長……」

 私はセレーネとリベリオの二人が風呂場の方に連れて行かれるのを見届けると、執務室に移動しながら報告を受け取り、それに対応するための指示を出していく。

 シェルナーシュは……もう居ないか。

 そして、それらの指示出しが一段落したところで、マダレム・セイメの中央議会のスケジュールの確認を初めとした、セレーネとリベリオの二人の為の根回しを指示し始める。


「次の報告ですが……」

 執務室に移動したら書類のチェックとサインをしつつ、南部同盟、東部連盟に潜り込ませている密偵からの報告や、現在の情勢がどうなっているかの情報を聞いていく。

 で、そうして報告を聞いていると、騒がしくなっている原因が分かるようになってくる。


「ムーブレイの娘との婚姻ねぇ……却下だわ」

「まあ、父上ならそう言いますよね」

「北部三都市との交渉……これも前に断ったわよね」

「前とは少し状況が違うようですよ。詳しくは書簡の方を見てください」

「で、ティーヤコーチが午前中に尋ねて来ていたかぁ……ちょっと勿体無い真似をしてしまったわね」

「あの方の分野を考えるとそうかもしれないですね」

 どうにも何処からか私が突然失踪したと言う情報を聞き付け、それを隙と見た連中が色々とやらかしてくれたらしい。

 ああうん、これは確かに私が居ないと無理な案件だ。

 ウィズにはまだ荷が重い。


「で、ウィズ。貴方も貴方で私に対して何か言いたい事が有りそうね」

 私は何か言いたげにしているウィズ……義理の息子に視線を向ける。


「それはそうでしょう。突然父親が子供を二人も連れて帰って来たんですから。で、あの娘が本命ですか?」

「見えたの?」

「少年の方に比べて、僅かですが父上が気を使っているように感じましたから」

「相変わらず目聡いわねぇ……」

 ウィズは私がグロディウス商会を造った頃に、スラム街で偶然出会った子供であり、両親も居なかったために私の後継者として育てていた子供である。

 現在は18歳、グロディウス商会の会長補佐として、だいたいの仕事は任せられる程になっている。

 そして、商会の中で唯一私、トーコ、シェルナーシュの正体についても知っている人物でもある。


「ちなみに本命の云々の情報は誰から?」

「基本は推測ですが……トーコ様からの情報も少々」

「よし分かった。後でシメておくわ」

「私の方でも注意はしておきましたが……まあ、必要だと思います。分かっているか怪しい感じでしたし」

 とりあえず情報を扱う上での信頼度で言えば、トーコよりもウィズの方が信用はおける。

 ヒトを見極める目でもだ。


「で、本命ですか?」

「本命よ。そうね。貴方の目から見ても相応しいかを確かめて来てちょうだい。それと……これを彼女に渡して、肌身離さず身に着けておくように言っておいて」

「よろしいのですか?」

「ええ、問題ないわ」

「分かりました」

 私が普段髪をまとめるのに使っている金の蛇の環を受け取ったウィズは部屋の外に出ていく。

 さて、これでウィズがセレーネの事を認めてくれれば、グロディウス商会は満場一致で支援できるようになるのだが……まあ、上手くいくことを願うしかないか。

 私は私宛に送られてきた書簡に目を通しながら、そんな事を考えるのだった。

08/03誤字訂正

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