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ソフィアズカーニバル  作者: 栗木下
第4章:蛇の蜷局囲う蛇
178/322

第178話「邂逅-5」

「さて、話の続きといきましょうか」

「「はい……」」

 馬車に乗り込み、動き出したところで私は話を再開する。

 セレーネとリベリオが何処か怯えた様子を見せているのは……私が呼んだ二人と言うのが、ヒトではなく、蛙の妖魔であるトーコと蛞蝓の妖魔であるシェルナーシュだったからだろう。

 だが安心して欲しい。

 グロディウス商会で妖魔なのは私を含めてこの場に居る三人だけ。

 後はほぼ全員が私たちの正体を知らない普通のヒトで、皆妖魔は敵だと認識しているから。

 まあ、それ故に私たちの正体を言いふらさないように言いつけたけどね。


「そうね。そろそろ今この辺りがどういう状況にあるのかと、私が貴方たちにやってもらいたいと思っている事について話しておきましょうか」

 そう告げると、私はまずヘニトグロ地方の現状と、ノムンが勝ってヘニトグロ地方を治めてしまった場合の未来、戦争が長引いた場合の未来、私が直接的に手を下すなどして後の事を考えずに行動してしまった場合の未来を出来る限り現実味を帯びるように、悪いものだと感じられるように語っていく。

 そうして語った結果……。


「ヘニトグロ中が村みたいになっちゃうなんて……」

「そんなのは絶対に嫌だ!俺は嫌だ!」

 セレーネは顔を青ざめさせ、恐怖に身体を震わせていた。

 リベリオは憤り、顔を真っ赤にして何度も絶対に嫌だと叫んでいた。

 つまりは二人とも、そんな未来には訪れて欲しくないと思ってくれたようだった。

 うん、良い反応だ。


「そうね。そんな未来は私だって嫌。何としてでも回避すべきだと思うわ。だから、貴方たちにはなってもらいたいのよ。ヘニトグロと言う広大な土地に住むヒトたちをまとめあげられる存在に。そして、そんな未来を回避するためにシチータも私も色々と手を打って来ているのよ」

 そう言いながら私は二人に向けて指を三本立てた手を向ける。


「まず、ヘニトグロ中が荒廃するような未来を避けるために絶対に必要なものが三つあるわ」

「三つ?」

「そう、三つ。万人に何が善で何が悪なのかを示すための規範。規範の元、人々を統べ、行くべき道を指し示す象徴。規範と象徴を害意あるものから守るための武力よ」

「象徴……」

「武力……」

 実際には他にも色々と必要な物はあるが、可能な限り混乱なく人々をまとめ上げるためにどうしても欠かせないのはこの三つだろう。

 ヒトは長いものに巻かれたがる。

 ヒトは楽な道を行きたがる。

 ヒトは己を第一としたがる。


「規範についてはテトラスタ教と言う教えが、既にヘニトグロ地方全体に浸透しつつある。だからこれについては心配しなくていいわ」

 だから宗教と言う規範を示し、それを是とするヒトが多くなれば、それが常識となり、それに従ってヒトは生活を送るようになる。


「象徴については、シチータ王の孫であることに加え、規範上認めざるを得ないセレーネ、貴女が居る。特にそのペンダントを持っている事は大きいわ。後で説明するけど、それがある限り貴女の優位は決して揺るがない」

「はい」

 だから王と言う象徴を示し、その象徴が自分たちが従うにふさわしい存在である認める人が多くなれば、王の言葉に従う事で、厳しい道にも向かえるようになる。


「武力については私の方でも用意できるから、それ相応のものは用意してあるし、今後の活動次第では加速的に肥大していくでしょう。そしてリベリオ、貴方の力は……」

「鍛え上げれば、大きな武力に……セレーネを守る力になるという事ですね」

「そう言う事」

 けれどどれほど優れた規範と象徴であろうと、全てのヒトを従わせることは絶対に出来ない。

 必ず反抗者は生じる。

 むしろ存在しない方がおかしい。

 だから対抗するために何かしらの力が……武力、財力、知力、生産力と言った力が必要になる。

 特に武力は最も直接的で分かり易い力であるために反抗者も持ちやすく、使う事が多いので、何かしらの対抗策は必須だと言っていいだろう。


「さて、セレーネ。そう言うわけだから、次は貴方が持っているペンダントの中身についても話しておきましょうか。シェルナーシュ」

「分かった」

「えっ?きゃっ!?」

 私の求めに応じる形でシェルナーシュが指を軽く振る。

 それだけでセレーネのペンダントを覆っていた銅の殻が二つに分かれて落ちる。

 うん、流石は殻を付けた本人なだけはある。


「これは……琥珀?」

「いやでも、なんか力を放っている気配がするな……」

「……」

「ボソッ……(触らずに気付くか)」

「ボソッ……(目視で行けるっぽいね)」

 さて、シェルナーシュとトーコが何か言っているのはさて置くとしてだ。

 セレーネの身に着けていたペンダントの正体は、手の平の上に乗るぐらいの大きさの琥珀である。

 勿論、ただの琥珀ではない。


「さそ……り……?」

「いやでも、これって影がそう言う風に見えるだけっぽいな」

 この琥珀の中には、二人の言うとおり正体不明の理屈によって蠍のように見える立体的な影が存在している。

 そして、これが最重要な事であるが、この琥珀は特殊な魔力を有している。


「その魔石の名は琥珀蠍。シチータが倒した四本腕の蠍の妖魔(ギルタブリル)サブカが変じた魔石。当然だけど、この世に二つとして存在しない逸品」

「「……」」

「そんな琥珀蠍の魔石最大の特徴は、魔石自身が身につけている者が自分に相応しいものであるかを判断し、相応しくない者には触る事すら許さず、相応しい者の中でも特に良いと思った者に対しては魔石自身の判断で守護の魔法を使う事」

「え!?」

「そんな事が……」

「そして魔石の判断基準はテトラスタ教の教えに従って良いか悪いかであり、この点についてはテトラスタ教の司祭も既に認めているわ。もう分かるでしょう?」

「それって……」

 それはごく限られたものに対する守護の力。


「そう。セレーネ。貴女がシチータの孫であることも重要だけれど、それ以上に、あの炎からも守ってもらえる程に貴女が琥珀蠍の魔石に認められているというのが重要なのよ」

 つまり、魔石に残されているサブカの意思は、セレーネを認めているという事であり、それこそがセレーネがあのシチータの孫であっても、私がセレーネを象徴とするのに相応しいと考えた理由だった。

サブカ程の妖魔の魔石が普通なわけがないのです。


08/01誤字訂正

08/02誤字訂正

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