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ソフィアズカーニバル  作者: 栗木下
第4章:蛇の蜷局囲う蛇
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第177話「邂逅-4」

「あ、あのソフィアさん……貴方が私の親とかって話は……」

「無いから安心しなさい。と言うか妖魔は特別な事情が無ければ子どもなんて作らないわよ」

「は、はあ……?」

 やはりと言うべきか、セレーネは私の想像通りの勘違いをしていたらしい。

 とは言え、直後の私の発言を無視してそちらの勘違いを確かめようとしたのは……二人が南部同盟と言う存在そのものに対してあまりいい感情を持っていないからだろう。


「重ねて言うけど、貴女の祖父はシチータで、父親はフムン。今現在南部同盟の盟主であるノムンは……一応は叔父と言う事になるわね。フムンとノムンは腹違いの兄弟だけど」

「そう……なんですか?」

「で、貴女がシチータの孫である証明はそのペンダントの中身だけど……開けるのは私が呼んだ二人が来てからにしましょうか。私じゃ綺麗に開けられないし」

「……」

 だが、セレーネがシチータの孫であるのは違えようのない事実である。

 それはセレーネをこの孤児院にまで運んだ私が一番よく知っている。

 ああそうだ。

 リベリオの話に移る前に、もう二つほど今後セレーネが勘違いを拗らせたりしないように言っておく事が有ったか。


「少し言っておくけど、シチータとノムンは戦略の才能以外は似ても似つかない。だから、あの誰に対しても傲慢で暴力的で、破滅的な思考はノムンの母親の血筋と教育によるもの。貴女にはそんな血も教えも一切入っていないから安心しなさい」

「そう……なんですか?」

「そうよ。そして、今回村が襲われたのは全くの偶然。ただの略奪目的だった。当然よね。レーヴォル村のセレーネが何者であるかを正しく知っていたのは私とこれからやってくる二人の友人だけだもの。だから、自分が居たから村が襲われたなんて思う必要は何処にもないわ」

「……はい」

 私の言葉にセレーネは俯き、涙をにじませながら、少し震えた声でそう応える。

 うん、やっぱり放置しておかなくて正解だったか。

 この手の問題は放っておくと面倒な事になり易いしね。


「さて、と。それじゃあ次はリベリオ、貴方の力についてね」

「はい……」

 リベリオが神妙な顔つきで、私の顔へと視線を向けてくる。

 恐らく今の話から、自分にも何か有るのではないかと言う期待と不安が入り混じった思いが表情に出てしまったのだろう。


「まず初めに言っておくけど、貴方の出生については私は一切知らないし、貴方が得た力とはまず関係ないわ」

「えっ!?」

 が、期待している所に悪いが、リベリオの出生関係については私は一切知らない。

 私が知っているのはセレーネに遅れる事半年、セレーネと同じように教会の前に置かれていたという事だけである。

 まあ、髪の色や顔つきから、親のどちらかがヘニトグロ地方東部もしくはヘテイルの辺りの出だったんじゃないかなと言う程度である。

 そして、出生とリベリオの力……英雄の後天的性質によって得た力は全く関係が無い。


「と言うか一応聞いておくけど、リベリオの炎は生まれつきのものじゃないわよね」

「えっ、あっ、はい?よく分からないけど、私もリベリオも魔法なんて使えたことないですし、見た事も殆ど無いです」

 と、私は自信満々な様子で言ってしまったが、微妙にショックを受けているリベリオを放置しつつ、一応私は小声でセレーネに確認しておく。

 うん、合っていてよかった。

 間違っていたら赤っ恥ものだった。


「ごほん、では改めて。リベリオ、貴方の力は契約によって得たものよ」

「けい……やく……?」

「そう、契約。この世界にはね、ヒトが窮地に陥った時に、窮地から逃れようとする強い意思と信念に反応するかのように力を渡す存在が居るのよ」

「「……」」

 二人とも初めて聞く話であるためか、食い入るように私の言葉に聞き入っている。


「その誰かさんについて、私は一切知らないわ。いえ、この世界に居る誰も恐らくは知らないでしょうね」

「誰も……知らない……」

「けれど確かな事として、リベリオの様に膨大な魔力を得たヒトがこの世には僅かながらにも存在していると言う事。そしてシチータもその一人だったという事よ」

「シチータも……」

「つまり、貴方のその力を鍛え上げれば……そうね。一人で戦況をひっくり返す事だって不可能ではなくなるかもしれない。それだけの深さは間違いなくあるはずよ」

「凄い……」

 二人は私の言葉に信じられないようなものを見たかのような表情になる。

 ただ……うん、敢えて言わなかったけれど、どれだけ鍛え上げてもシチータに追いつくのは無理だと思う。

 あれはここ数十年各地で私が見てきた英雄の中でも別格の存在だし。

 最低でも妖魔の血は引いていないと無理だろう。

 口が裂けても言わないし、この場ではもっと他に言っておく事が有るし。


「ただ気を付けなさい。強い力と言うのは、それだけ扱いが困難な物よ」

「あ……」

「貴方が力に目覚めていようと、目覚めていなかろうと、村が滅ぶと言う結果は変わらなかった。けれど、貴方の炎がセレーネ以外の村全てを焼いたのも事実。その事だけは一生涯忘れないようにしなさい。それを忘れれば……行き着く先はあのノムンが居る場所よりももっとおぞましい、獣よりも妖魔よりも更に下等な何かと同列視されるような場所よ」

「……」

 私は視線の高さを合わせ、顔を掴み、正面から睨み付けるようにしつつリベリオにそう告げる。

 そんな私の言葉に昨夜自分がやったこと思い出したのか、リベリオが唇を噛み締め、血を滲ませながら頷く。


「まずは力を制御することを覚えなさい。貴方が守りたいものを守れるようになるためにも」

「……はい」

 これならばまあ、大丈夫だろう。

 根は悪い子ではないようだし、少なくとも村人の死を無碍にするような真似はしないはずだ。


「さて、それじゃあ話の続きは乗り込んでからにしましょうか」

「乗り込んでから?」

「あっ……!」

 私はそう告げると、土で出来た建物を操作、解体し、周囲の地面に溶け込ませ始める。

 そして、私の視線の先からは一台の馬車がこちらに向かって来ていた。

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