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ソフィアズカーニバル  作者: 栗木下
第4章:蛇の蜷局囲う蛇
175/322

第175話「邂逅-2」

「これは……」

 村の状況は忠実なる蛇が破壊される直前に見た光景から私が想像したものよりも、斜め上の方向に向けて酷いものだった。


「何が起きたって言うの……」

 テトラスタ教の教会兼孤児院となっている建物を含めて、村の中に存在していた二十余りの家々は悉く火が付けられ、天を衝くような勢いで火柱を噴き上げ、夜空を真っ赤に染め上げていた。

 村人たちの身体にも火が付き、炎の中ではその姿を保ったまま燃え続けていた。

 村で飼われていた鶏や馬たちも炎に飲まれ、息絶えるも、姿が変化することなく燃え続けていた。

 そして南部同盟の兵は……身に着けていた鉄の防具が融け落ちて肌に癒着した状態で、全身が燃えがっているにも関わらず、死ぬ事も無く苦痛の声を上げ続けている。


「ただの炎でない事だけは間違いないわね」

 異常としか言いようのない光景だった。

 だから私は念のために火の粉一つかかる事のないよう、自分の周囲を土の蛇で囲い、備えておく。

 私の想像が正しければ、この炎は術者が敵と認識した存在に対しては死ぬ事すら許さず、鉄を溶かすような熱で焼き続けるような力を持たされているからだ。

 そして味方と認識されていても、炎に巻かれた村人が息絶えている点からして、普通の炎並には殺傷能力があると見ていいだろう。

 うん、それは十分に危険だ。


「行くか……」

 私は炎に触れないように細心の注意を払いつつ、村の中を進み始める。

 途中でハルバードなら触れても大丈夫かどうかを確かめるのも兼ねて、道を塞いでいた瓦礫を粉砕してみたが、やはり私のハルバードなら大丈夫らしい。

 そしてハルバードから伝わってきた感覚も、この炎が普通の炎でない事を示していた。


「見つけた」

 やがて私は村で一番大きな建物であったテトラスタ教の教会前に到達する。


「ふぅー、ううっー……」

 そこに居たのは教会の前に立ち、激しく燃え上がる剣を右手に持ってこちらを威嚇するかのように激しく睨み付ける黒髪黄眼の少年と、この状況で煤汚れ土汚れ一つ無く気を失って地面に倒れている金髪の少女だった。

 なお、少女の胸は規則正しく上下しており、少女が生きている事は明らかだった。

 私は二人の姿を見て安堵すると共に、この村で何が起きたのかを理解する。


「まったく、英雄を生み出している誰かさんは本当に意地が悪いというかなんと言うか……」

 まず南部同盟の兵士が村に侵入し、略奪をしようとしたのは間違いないだろう。

 彼らは仮にもきちんとした訓練を受けた兵士だ。

 妖魔ぐらいしか相手にした事が無い村人では、為す術もなく蹂躙されるだけだっただろう。

 そして恐らくは今私の前に居る二人に手を出そうとした時……少年は誓ってしまったのだろう。

 誰もその正体を知らない何者かと。


「さて……」

「ぐるるるうぅ……」

 誓いの内容は分からない。

 だが一つ確かなのは、その誓いの結果として少年はこの恐ろしき炎を発する魔力を手にし……感情のままに炎を放った事だ。


「後天的要素だけの上に目覚めたばかりとは言え、制限がかかった上で英雄とやり合わないといけないとはね」

 さて、少年は見知らぬ存在である私を敵と見定め、私の事を右手に持った燃え盛る剣で焼き切るべく様子を窺っている。

 対する私も、既に土の蛇による防護を解除し、ハルバードを構え、この状況下における最善の結果が何かを考えると同時に、どうすればその結果に行き着けるかを想像する。


「すぅ……」

「……」

 最善は……言うまでもない。

 少年も少女も私自身も無傷でこの場を生き延びる事だ。


「があああぁぁぁ!」

 少年が燃え盛る剣を振りかぶった状態で私に向かって跳びかかってくる。

 その動きは速く、炎の熱と勢いも考えれば、鉄製の装備程度ではどうあっても防ぐ事は出来ないだろう。

 だがしかしだ。


「遅い」

 速いと言ってもそれはヒトの枠の中、普通の妖魔が経験する中での話。

 シチータのそれに比べれば、少年の剣の振りは欠伸が出るほど遅く、鉄すら溶かし切る炎も私のハルバードには関係ない。


「!?」

 私はハルバードを一度振るい、少年の剣を手から弾き飛ばす。

 そしてその事に少年が一瞬気を取られた隙に、私は左手の爪の先に少量の軽微な麻痺毒を生成、爪に染み込ませる。


「ふっ」

「アグッ!?」

 私の左手の爪が少年の首筋に突き刺さり、爪に染み込ませた麻痺毒が少年の体内に入っていく。

 すると麻痺毒は即座に効果を発揮し、少年は全身から力が抜け、その場に両膝を着き、数度立ち上がろうとした後に完全に倒れ込む。

 で、完全に動けなくなったところで、同じ方法で私は少年の体内に昏睡毒を注ぎ込む。

 量の調整が難しいので、気を付けて扱わないといけない毒だが、動けない相手に投与する量を間違えるようなミスは流石にしない。


「……」

「消えたわね」

 少年が眠るのと同時に、村中で燃え盛っていた炎が消えていく。

 そして炎が消えていくのと同時に、村人も、家畜も、建物も、南部同盟の兵士たちも、炎が付いていた部分は僅かに黒焦げた物体を残して消え去って行く。

 うん、どういう理屈なのかは分からないが、実に恐ろしい現象だ。


「とりあえず二人が目覚めるまでの間に、回収出来る物は回収してしまいましょうか」

 やがて炎が消えるのに呼び寄せられたかのように雨が降り出したため、私は土を操って簡易の建物を造ると、少年と少女をその中に入れ、村の中に何か残っている物が無いかを探し始めた。

ソフィアの強さの基準がシチータになっていますが……まあ、二十年以上戦っていたし、多少はね。

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