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ソフィアズカーニバル  作者: 栗木下
第3章:英雄と蛇
170/322

第170話「英雄-4」

「!」

 シチータの弓から一本の目の矢が放たれた時。

 その場から離脱しようとしていたサブカは、シチータをこのまま放置していたらソフィアが死ぬ事を直感し、何故かシチータに向かって駆け出していた。


「……」

 シチータの弓から二本目の矢が放たれた時。

 サブカは四本の腕それぞれに剣を持つと、跳躍、シチータとの間に有った距離を一気に詰める。


「ちっ」

 シチータの弓から三本目の矢が放たれた時。

 サブカの剣を避けるべく、シチータは軽く跳びながら矢を放ち、宙を舞っている間に近くの地面に突き刺していた剣を回収して腰の鞘に納める。


「まずは……っつ!?」

「ふんっ!」

 シチータが四本目の矢を弓に番えようとした時。

 既にサブカはシチータの眼前にまで迫っており、その光景にシチータは慌てて後方に跳びつつ矢を放つ。

 そして、空を切る音と何かが弾け飛ぶ音が周囲に響いた。


「くそっ、やってくれたな」

 シチータが着地し、着地と同時に右手に持っていた弓を捨てる。

 捨てられたシチータの弓は弦が切れ、本体にも僅かだが切れ込みが入っていた。


「お前ごと切り捨てるつもりだったんだがな」

 剣を振り終えたサブカは、足元の木片を踏みつけつつ、剣を構え直す。

 サブカの右目の上の甲殻にはヒビが入っており、僅かに血が滲んでいた。


「まあ、よく考えてみたら、あのソフィアとつるんでいる妖魔が普通の妖魔なわけないか」

「まったく、普通の矢をどう撃ったら、魔力で強化した俺の甲殻に傷を付けられるんだか」

 二人の会話は噛み合わない。

 そもそも二人には会話をする気と言うものが無かった。

 故に、相手が自分の言葉に応えなくとも、サブカはシチータが何を仕掛けてきてもいいように体勢を整えつつ相手と周囲の観察を行い始め、シチータはサブカを優先して倒すべき敵と認識して腰の剣を抜く。


「すぅ……」

「……」

 今のマダレム・エーネミ跡は、ヒトと妖魔の戦いがあらゆる場所で起き、そこら中から戦いの音が……剣戟、爆発、崩落、咆哮、悲鳴、歓声が響き渡っていた。

 だが、サブカとシチータの周囲ではただの現象に過ぎないはずの音すらも己の存在を隠すかのようにその存在感を潜ませ、限りなく静寂に近い状態に陥っていた。


「退け」

「死ね」

 サブカとシチータは同時に動き出した。

 二人の間にあった距離はヒトが一度瞬く程の間に消え去り、ぶつかり合った二人の剣は金属音と火花を散らす。


「「……」」

 そしてお互いに無言のまま、得物を……サブカは四本の剣と毒針を持つ尾を縦横無尽に振るい、シチータは右手の盾と左手の剣を最小限の動作で振るう。

 派手な閃光も、周囲に轟くような爆音も、己を奮い立たせる様な蛮声も無かった。

 ただ二人が剣を振るう度に、僅かな火花が散り、少々の金属音が響き、各動作と動作の間に自然な形で呼吸の音が入り込むだけだった。

 だが、それ程静かな戦いであったにも関わらず……否、これほどまでに静かな戦いであったがために、二人の戦う姿を見た者には戦いに割り込み、味方となる側を助けようという考えも、自分と同じように呆けている敵を不意討ちしようとも思いつかなかった。


「なんだよ……これ」

「ブヒッ……」

 シチータが盾として利用した石造りの建物を、サブカはまるで水でも切るかのように容易く切り裂いたかと思えば、サブカの振るう四本の剣をすり抜けてシチータは攻撃を仕掛け、鉄の刃を何事もなく防ぐはずの甲殻を浅くだが確かに切り裂く。


「これが……四本腕の蠍の妖魔(ギルタブリル)サブカ……」

「あんなのとやり合えるなんて普通じゃねぇ……」

 サブカが四本の剣で連続して切りつけようとすれば、シチータは盾と剣だけでそれを捌き、反撃の一撃でサブカの口を貫こうとする。

 それに応じるべくサブカは首を僅かに逸らして甲殻を浅く傷つけつつも剣を避け、お返しだと言わんばかりに尾をシチータの腹に向けて突き出そうとする。

 尾が伸びてくるのを見たシチータは、ならばと大地を蹴ると、背面飛びをしたかのような姿勢でもってサブカの尾を躱す。


「行くぞっ!」

 シチータが宙に浮いた事を好機と判断したサブカは、ここぞとばかりに一気に攻めかかり、四本の剣と尾の毒針を合わせて五方から同時に、そして何度も仕掛ける。

 それは宙に浮き、身動きの取れないものではどう足掻いても避けれないはずの攻撃だった。

 だがそれをシチータは……


「喰らうか!」

「!?」

 捌く。

 宙で身を捩り、刃が到達するまでの時間差を無理矢理生じさせ、剣と剣、剣と盾をぶつけ合って捌くだけでなく、時には剣の腹を脚で叩き、伸びた尾を噛んで支点とする事で体を動かし、サブカの放った五十を超える攻撃を捌き切る。


「ぐっ……」

「はぁはぁ……」

 そうしてサブカが放った最後の剣撃をシチータの一撃が弾き返した時。

 サブカが飛び退いたことで二人の間に距離が生まれる。


「「……」」

 戦いは互角だったのだろうか。

 その答えは否。


「どうやら俺の方が少しだけ強いみたいだな」

「悔しいがそのようだな」

 シチータの剣と盾が殆ど傷がついていないのに対して、サブカの持つ四本の剣は何れも刀身がボロボロになっていた。

 シチータの身体には明確な傷が付いていないのに、尾も含めてサブカの身体には少なくない数の傷が付いていた。

 二人の戦闘能力の差は……明確だった。

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