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ソフィアズカーニバル  作者: 栗木下
第3章:英雄と蛇
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第163話「名も無き騎士-2」

「御馳走様でした」

 全ての男を殺したサブカは、食べる事で身体を処分し、服と装備品については近くの地面を適当に掘って埋める事で処分する。

 そして最後に男たちに手を合わせ、小さく礼をし、祈りを捧げる。


「……」

 勿論、これらの行動もまた自分は悪くないのだと思うためだけに行っている独善的な行動であるとサブカは認識している。

 自分がヒトであるならば、死んだからと言って肉を誰かに食われたいとは思えない。

 それこそ、こんな罪の意識を抱いた状態で喰らい、身に着けていた物を埋葬するのであるならば、そもそも他の生物を食うなと批判されても仕方がないと考えている。


「分かっているさ。そんな事は」

 だがそれでもサブカは自分で殺した以上は、可能な限り自分で食べ、己の血肉にすべきだと考えている。

 自分はヒトを喰らう妖魔であるのだから、ヒトを殺した以上はその血肉を喰らい、生き永らえなければならない。

 自分が殺したヒトの死に意味を持たせ、彼らの命に恥じぬ生き方をしなければならない。

 でなければ、彼らが死んだ意味が軽くなってしまう。

 例え誰からか独善だと、身勝手だと、思い上がりも大概にしろと罵られようとも。

 それがサブカが感じている事だった。


「さて、どうするか……」

 祈りを終えたサブカは立ち上がると、馬車が逃げて行った先と、男たちがやってきたであろう方角……微かにヒトが通った痕跡が存在している獣道へと目を向ける。

 どちらに向かうべきか。

 馬車が逃げて行った先へと進むという事は、二人の少女の無事を確かめると同時に、自分が無事であることを伝えて少女たちを安心させると言う事である。

 対して獣道を進むという事は、野盗の生き残りが居ないか確かめ、居るならば後顧の憂いを断つと同時に、居る可能性は低くともあの男たちに連れ去られたがまだ生きている少女を助けると言う事である。


「……」

 マトモな考え方をしているのであれば、少女たちはこの先にあるはずの村に暫く留まるだろう。

 だが仲間が帰ってこない野盗たちはどうするだろうか。

 もう仲間が居ないか、散り散りになって逃げていくのであれば、そこまで心配はいらないだろう。

 基本的に野盗と言うのは、数が居なければ話にならない存在だからだ。

 しかし十分な数が居れば彼らはどうするだろうか。

 仲間を殺した当人である自分を追って来るならば、何も恐れる必要はない。

 迎え撃ち、殺し、食らうだけだからだ。

 けれどもしも怒りに任せて近くの村々に襲い掛かるようであるならば?

 自らの行動の結果として新たに起きた災禍に、見ず知らずの人々を巻き込むことになる。

 その状況は自分にとって最も苦痛に思える状況であると、サブカは思った。


「行くしかないな」

 サブカはまず野盗の残りが居ない事を確かめる事を決めた。

 そうして獣道に入ろうとした時だった。


「ん?」

「居たぞ!アレがそうだ」

「マジか!?生き残ってる!?」

 二人の少女が逃げて行った方から、二人の青年が息を切らしながら自分の方に駆け寄ってくる。

 二人の青年はサブカにとって見覚えのある人物だった。

 どうして此処にと一瞬思うも、彼らが今している事を考えれば、別段おかしくもないかとサブカは思い直し、獣道へと踏み入ろうとした足を止める。


「はぁはぁはぁ……アンタが……ぜぇはぁ……野盗を足止めして……すぅはぁ……場所に乗った二人の子供を助けてくれた剣士か?」

「ぜぇはぁ……野盗は……はぁふぅ……何処に?それと……げほっ……怪我とかは無いか」

「……」

 内心で自分の事を助けるつもりなら、息が切れるほどの速さで駆けてくるのはどうなんだと思いつつも、サブカは二人の質問に答える事にする。


「確かに俺は二人の少女に逃げるように言ったし、別の馬車がここを通った覚えもないから、その剣士とやらは俺の事だろう」

「そ、そうか……。無事に会えてよかったぜ」

「野盗については全員殺した。今は、連中の仲間が残っていないかを確かめる為に、連中の拠点まで獣道を辿るところだ」

「マジか……十人近く居たって話だったのに……」

 サブカの言葉に片方は安堵の笑みを浮かべ、もう片方は驚いた様子を見せる。


「すぅはぁ……しかし連中の拠点を探るって……本気か?」

「本気だ。放っておけば、何かと問題になるからな」

「すぅはぁ……なら俺たちも協力する。そのために来たようなものだしな」

「……。そうか」

 サブカは二人の格好を改めて見る。

 二人……十年前、一方的に見知ったテトラスタの義理の息子であるガオーニとジーゴックは共に革製の防具を身に着け、腰には鉄製の剣を挿し、左手には木と鉄と革を組み合わせて軽さと頑丈さを両立させた盾を持っていた。

 これらの装備に傷は多いが、手入れはよくされており、十年前に出会った時と比べると、二人の身体はとても良く鍛え上げられていた。

 これならば、野盗は勿論の事、普通の妖魔相手ならば十分に戦う事は出来るだろう。

 ただ、息を切らしてまで慌てて駆け付けようとするような考えのなさを改めなければ……遠からず命を落とすのではないか。

 そうサブカは感じた。


「付いて来るなら勝手に付いて来い。俺は自分のペースで進む」

「分かった」

「ああ」

「ただし、敵の拠点に着いた時に息を切らせるような走り方はするな。常に余力は残せ。必要な時に戦えないような奴に付いてこられても足手まといだ」

「うっ……」

「あ、ああ……」

 結局サブカは二人を連れて野盗の拠点に向かう事にした。

 何となくではあるが、このまま彼らを放っておいたら、良くないだろうと感じた為に。


「では行くぞ」

 そしてサブカは獣道を進み始めた。

07/17誤字訂正

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