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ソフィアズカーニバル  作者: 栗木下
第3章:英雄と蛇
161/322

第161話「蛇の参-14」

「ふんっ!」

「効くかっ!」

 間合いに入ったところで、私はハルバードを両手持ちすると斧の部分を向けて全力で振り下ろす。

 対するシチータは木を主体とした小さな盾で私のハルバードを真正面から受け止めようとする。

 私のハルバードとシチータの盾が何故か金属同士がぶつかり合うような音を響かせながらぶつかり合い、私のハルバードはシチータの盾に僅かな傷すら付けられずにその動きを止められてしまう。


「こっちの番だ!」

「お断りよ!」

 シチータの剣が振られようとするのと同時に私は後方に跳躍。

 剣が空を切るのを見届けてから、ハルバードの穂先を正面に向けて突き出す。

 だがシチータはそれを予想していたかのように剣を切り返し、私のハルバードを横から叩く事によって弾き飛ばす。


「すぅ……はっ!」

「ふんぬっ!」

 それならばと私はハルバードを弾かれた勢いを利用して回転。

 戈の部分ですくい上げるように攻撃を仕掛ける。

 しかし十分な速度と遠心力を乗せ、鋭い先端にその全ての力を集めた一撃を、シチータは裂帛の気合いを乗せた裏拳を盾を持った方の手で放つ事によって、戈の先端が盾の表面に少しだけめり込む程度の被害に抑えて見せる。


「死ねっ!」

「ちいっ!」

 動きが止まった私に向けてシチータが剣を突き出そうとする。

 が、その刃が私の喉元を貫く前に身体を倒す事によって、私はシチータの攻撃から逃れる。

 けれど身体を倒してしまったために、地面にその身が着くまで通常の手段では私は動く事が出来なくなってしまっていた。


忠実なる(スネーク)(ゴーレム)!」

「!?」

 当然シチータは剣を振り下ろす事によって私に追撃を仕掛けようとした。

 だがその前に私の操る土の蛇がその全身を縮みこませることによって蓄えていた力を開放。

 矢のような勢いでもってシチータに食らい付くと、そのまま拠点の周囲を囲む塀に向けて突き進んでいく。


「いぐっ!?」

 そうして土の蛇が自身の身体と木の塀でシチータを挟み、潰そうとした時だった。

 土の蛇の頭部が吹き飛ぶと同時に、私の右奥歯が幾らか欠け、頬が内側と外側の両面から多少切れる。


「ぺっ、やってくれるな。危うく死ぬところだった」

「ぷっ、ヒトを辞めている分際で何を言っているんだか」

 土煙の向こうから、全身を砂埃で汚しただけのシチータが現れる。

 私は欠けた歯を血と一緒に吐き捨てながら、そんなシチータを睨み付ける。


「ヒトを辞めている……ね。まあ、半分はお前(妖魔)の血が入っているんだし、間違ってはいないかもな」

「アンタの場合は半分妖魔の血が入っていたとしても説明がつかないって言ってんのよ」

 私は頭部を失った土の蛇の身体に左手の指を食いこませると、私とシチータの間で壁になるようにその身体を動かしつつ、次に備えた準備を始めていく。

 それにしてもだ。


「説明がつかない……ねぇ。お前だって俺の片親が妖魔じゃないかと疑っていなかったか?そのお前が説明がつかないとか言うんだな」

「ふんっ。好きに言ってなさい」

 シチータの戦闘能力は本当に有り得ないと言う他ない。

 身体能力については妖魔の血が混じっていて、その血の元が狼の妖魔(ウェアウルフ)熊の妖魔(トロール)などであれば、私を凌駕する身体能力を持っていても有り得ないとは言えない。

 だが、並の金属ならば容易く切り裂き、あの水の妖魔(ウンディーネ)の一撃すら難なく防いで見せた私のハルバードの一撃を。

 それもただの一撃ではなく最大限に破壊力を発揮できる形で放った一撃を、一部は鉄で補強されているとは言え木を主体にして造られた盾でシチータは防いで見せた。

 おまけにその後、シチータは土の蛇の頭を吹き飛ばすと同時に、どういう理屈かは分からないが、土の蛇に与えたダメージの一部を操り手である私にまで伝播させてきた。

 どちらも普通に考えれば絶対にありえない現象である。

 盾については、本来ならば盾を粉砕した上で、その先にあるシチータの身体も粉々に粉砕しているはずである。

 土の蛇については、その身が幾ら切り刻まれようとも私への影響は無いはずである。

 だがそうはならなかった。

 原因は……分かっている。


「でもこれで私は腑に落ちたわ。どうしてアンタの事がこれほどまでに気に入らないのかを」

「何?」

 膨大な量の魔力によってシチータは無意識的に魔法を発動させ、剣も盾も大幅に強化していたのだ。

 そして、その膨大な量の魔力によって、私の一撃を受け止めて見せ、土の蛇に与えた傷を私にまで伝播させてみせたのだ。

 では、そのヒトとしては有り得ない量の魔力をシチータは何処から得たのか。


「どういう経緯かは知らないけれど、アンタは得体の知れない何かから契約のようなものでもって膨大な量の魔力を得ている。そしてその契約故に私たちはお互いの事が気に食わないと感じ合っている」

 それはシェルナーシュの言っていた後天的英雄と言う存在を思い出せばすぐに分かる。

 フローライトの時のように、何者かがその力を勝手に授けたのだ。

 まったく、先天的な素質だけでも十分危険な存在に、後天的な素質まで与えるとか……力を授けている誰かさんに文句の一つでも言ってやりたい所である。


「はあ?何を言って……」

「ま、私にとってはどうだっていい話だけれど……」

 尤もこんな話はすべて時間稼ぎでしかない。


「ね!」

「っ!?」

 私の意思に応じて頭部を失った土の蛇がその全身を勢いよく跳ね上げ、シチータの周囲を囲っていく。


撤退(プルアウト)

「何っ!?」

 土の蛇の動きにシチータが一瞬その身を強張らせる。

 その隙に私は撤退の魔法を発動し、拠点の外に向けて一気に加速し始める。


「ま……」

着火(イグニション)

 そして私の事を追いかけるべく、土の蛇の身体をシチータが剣で切り刻もうとした瞬間、私は契約魔法の仕様を利用して土の蛇の体内に仕込んだ魔石を発動。

 熱を殆ど伴わなず、爆発的な量の風を起こすだけと言う本来ならば失敗作に近い魔法でもって、土の蛇の身体を内側から吹き飛ばす。

 するとどうなるか。


「おおっ、結構派手ね」

 土の蛇はシチータの周囲をとぐろを巻くように包み込んでいた。

 その状態で全身を吹き飛ばすように爆発したのだから、爆発地点より内側の部分に在った身体はシチータの身体へと暴力的な威力で向かうことになる。

 それもただの土ではなく、焼き菓子(ブラウニー)の毒(ポイズン)を染み込ませた土がだ。


「ただまあ……」

 やがて撤退の魔法の効果が切れ、私は天高く昇る土煙を眺めつつ、暗い夜の森の中に着地する。

 そして着地した私は……、


「シチータがあの程度で死ぬとは思えないわね」

 全速力で拠点から遠ざかるように駆け出し、そのまま行方を眩ませる事にした。

死んだと思えないので逃げるそうです。

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