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ソフィアズカーニバル  作者: 栗木下
第3章:英雄と蛇
160/322

第160話「蛇の参-13」

「助け……助けてぐぎゃ!?」

「ギガアアァァ!」

 再燃する(リキンドル)意思(ソウル)の魔法によって生み出された土人形たちは、額から炎のように紅い光を発しながら暴れまわる。


「何だよこれ!?何なんだぎょ!?」

「グガガガガ!」

 土の肉体はその身を動かしている彼らが本来持っていた肉体に比べれば脆く、動きも幾分遅い。

 だがそれでも土人形たちは一方的に兵士たちを屠っていた。

 何故か?


「ははっ……ははははは……化け物だ……本物の化けもぎぃ!?」

「剣も矢も槍も魔法もきかねぇ!?にぐおっ!?」

「ゴゴギガァ!」

「ギギキュキュアアァァ!!」

 今の彼らの身体は私の魔法によって集められたただの土に過ぎないからだ。

 切ろうが殴ろうが突こうが焼こうが、身体を動かすために必要な二つの魔石が破壊されるか、魔石に含まれる魔力が尽きない限り彼らは動き続け、彼らの内に残された最後の意思……ヒトを殺し喰らうと言う意思を満たす為だけに活動し続ける。


「ただまあ、やっぱり造り立ての魔法ね。問題点も少なくはないわ」

 私は土の蛇で拠点内の戦況を確認しつつ、移動を始める。

 そしてその間に、他の魔石に触れたのに再燃する意思を発動できなかった魔石の数と状態を確かめていく。

 私は十個の魔石を拠点内に向かわせ、妖魔が死んだ直後の魔石に触れさせた状態で魔法を発動した。

 だが、魔法の発動に成功した魔石は半分の五個だけで、後はうんともすんとも言わない。

 念の為に別の魔石との組み合わせでもやってみたが……上半身だけ再生出来たのが一体追加できただけか。

 妖魔が死んでから復活までの間に時間が有ったせいか、魔石同士の相性か、私自身の力量の問題か……まあ、この辺りの原因追及についてはまたいずれでいいだろう。

 今は……だ。


「逃げろ!逃げるんだぁ!それし……ぎゃああぁぁ!?」

「西の門に向かええぇ!それ以外は全部塞がれているぞ!!」

 再燃する意思と言う魔法が私の想定以上に燃費が悪いが為に感じてしまっテイルコノ空腹感ヲドウニカシナキャ……ネ。


「外……」

「イタダキ……マス」

「だ?」

 私が開けた門から出てきた兵士の首を刎ねると、私は刎ねた兵士の頭を空中で直接丸呑みにする。

 ああうん、危ない危ない。

 空腹になり過ぎて思考に異常を来たすところだった。


「お、お前は一体……」

「よ、妖魔だ……こりょ?」

「死ネ」

 危ナイシ、ドンドン食ベナきゃね。

 と言うわけで私は土人形たちに追われ、戦う気力も失って門に殺到する兵士たちをハルバードの頑丈さと妖魔の腕力に物を言わせて次々に薙ぎ払い、適宜兵士たちの腕や頭を腹の中に収め、一気に消化吸収していく。

 だが土人形を維持している限り、どれほど食べても腹が膨れる事は無い。

 今の食事ペースと吸収能力では、理性を保っていられるラインぎりぎりを保つのが精いっぱいだろう。

 しかしそれで構わない。


「こ、これは……こんなのは……悪い夢だ。夢なんだあぁぁ!?」

「残念。現実よ」

 この拠点の中に居たのは拠点を維持するために必要な人員だけだったのだから。

 再燃する意思の効果時間は二つの魔石内に存在しているどちらかの魔力が尽きるまでなのだから。


「さ、貴方でお終い。おかげで良い実験が出来たわ」

「あ、あ、ああああああああぁぁぁぁぁぁ!?」

 そうして再燃する意思によって生まれた土人形たちがその全身を赤く染め上げた土くれに還る頃には、拠点の中に生きた者は私一人を除いて全員居なくなり、辺りは静寂に包まれた。


「さて、まずは腹ごなしね。で、それと一緒にどうして上手くいった個体と上手くいかなかった個体が居たのかを調べないと」

 私はそう呟くと、使役魔法で地面を操り、拠点内の死体と魔石を集め始めたのだった。



--------------



「モグモグ。やっぱりそう言う事でいいのかしらね」

 私は殺したヒトの肉を貪りながら、とぐろを巻かせて椅子のようにした土の蛇の上で、魔石の状態を確かめていく。


「死んだ妖魔が残していた感情の影響。私自身が保有する魔力量の関係。死んでからの時間。後は再燃する意思の魔法を使うための魔石と、土人形を操る妖魔の意思の相性。はぁ……私の意思で操らなくていいのは圧倒的な利点だけど、やっぱり使い道は限られているわね」

 再燃する意思は魔石に含まれている妖魔の感情の残滓、それを最大限に利用する魔法である。

 基本は忠実なる蛇と同じように使役魔法の応用であるが、使役魔法と違い私がするのは彼らの身体の維持だけで、どう身体を造り、どう動くかは核としている魔石に残されている意思に任せる形になる。

 それは複数の身体を並行して動かすという難事をしなくてもいいと言う利点を生み出すと同時に、私に思った通りに動いてくれない可能性も存在すると言う事でもある。

 まあ要するにだ。


「まだまだ要改良ってことね。まあ、分かり易くていいわ」

 もう少し使い勝手を良くする必要が有るという事である。


「……」

 さて、結論が出て、一応の補給も済んだ。

 後はこの場を去るだけだが……どうやら、そうは問屋が卸してくれないらしい。


「何の用かしら?」

 私は唯一封鎖していなかった西門へと目を向ける。

 そこに立っていたのは、左手に剣を、右手に小さな盾を持ち、背中に弓と空の矢筒を携えた黒髪橙目の男……シチータ。


「何の用だと?俺が相手した連中があまりにもダラしなかったから、お前の加勢に来てやったんだよ」

「ああやっぱり一人で全員蹴散らしたのね。誰も帰ってこないから妙だと思っていたわ」

「で、お前が手に持っているもの(ヒトの腕)に関する言い訳は何か有るのか?」

「逆に聞くけど、私の頼みに応じなかった事に対する言い訳は何か有るのかしら?」

 私は手に持っていた食いかけのヒトの腕を放り捨てると、ハルバードを右手に持ち、とぐろを巻く土の蛇から地面に降りる。

 対するシチータは何時でも私に切りかかれるように、体勢を整える。


「誰がお前なんぞの頼み事を聞くか」

「アンタに対して言う事なんて何も無いわ」

 そして私たちは同時に動き出した。

思いっきり見られました。


07/14誤字訂正

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