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ソフィアズカーニバル  作者: 栗木下
第3章:英雄と蛇
159/322

第159話「蛇の参-12」

「さて、きちんと主力は出払っているみたいね」

 数時間後。

 準備を整え終った私は、森の中から連中の拠点の様子を窺っていた。

 拠点の中に存在しているヒトの気配はそれほど多くない。

 どうやら先遣隊と本隊を各個撃破するべく、今夜の内に動き出したらしい。

 となると今頃は……本格的にシチータに襲われている頃か。

 私が準備のために森の中を駆け回っている時も、時折悲鳴のような声が響いていた気もするしね。


「全員準備は良いかしら?」

「「「ゴガアアァァ」」」

 さて、シチータがきちんと働いているのならば、私もとっとと事を済ませてしまおう。

 私がこれからやろうとしている事の目撃者は出来るだけ全員消さなければいけないのだから。

 と言うわけで、私の声に応じるように、私の背後で待機していた妖魔たちが小さく声を上げてくれる。

 彼らはこの森で生まれた普通の妖魔であり、今夜になって急遽集めた面々ではあるが、きちんと私の言う事を聞いてくれるようだし、これなら何とかなるだろう。

 鼠の妖魔(ゴブリン)含めて二十匹ちょっとしか居ないというのが、少々不安な点ではあるけれど……そちらについても忠実なる蛇とは別に使役魔法関連で考えていた新しい魔法を試すには都合がいいかもしれない。


「それじゃあ、ひっそりと素敵なカーニバルを始めましょうか。全員……」

 私は魔石を挟む形で地面に手を付くと、使役魔法を発動。

 拠点の中に使役範囲を伸ばしていき、水晶玉と魔石を回収。

 その場で使役魔法を忠実なる蛇の魔法へと変更して、視覚と聴覚を接続、拠点内の状態を確かめる。

 うん、これならいける。


「突撃!」

「「「ゴガアアァァ」」」

 私の背後に居た妖魔たちが拠点の門に向けて真っ直ぐに突っ込み始める。

 すると森と拠点の間は木が切り払われているため、当然拠点に残って監視台の上から周囲を窺っていた兵士は妖魔の存在に気づき、声を上げる。


「妖魔が攻めてきたぞおおぉぉ!」

 その声に拠点内に残っていた兵士は一斉に動き出す。

 が、木製とは言え塀と門があるのと、普通の妖魔にはただ真っ直ぐに突っ込んでくる頭しかないと思っている為だろう。

 その動きは何処か鈍い。

 そして、その鈍さこそが私の付け入る隙だった。


「行けっ!」

「「「!?」」」

「「「ギギャギャギャアァァ!」」」

 私の操る土の蛇は、契約範囲を変え続ける事で水晶玉と魔石以外を動かさずに地表を移動し続け、誰にも気づかれる事無く門の内側……閂の前にまで到達すると、事前に調べて考えた通りに土の蛇を操作し、門を内側から開け放つ。


「なんで門が……ぐぎっ!?」

「「「ギギガアアァァ!!」」」

「妖魔が侵入してくる……ぞぎゃ!?」

 土の蛇と入れ替わる形で、内側から門を開けられるという想定外の事態に慌てふためく拠点内へと妖魔たちが突入していき、手近な場所に居たヒトから襲っていく。

 その間にも、土の蛇は周囲の土を吸い上げて自分の身体にする事によって、門の上の監視台に届くまでに身体を伸ばすと、そこに居た兵士の上半身に身体を巻きつける。

 そして次の監視台へと移動する傍ら、締め付けをきつくすることによって兵士の上半身を押し潰して始末する。


「な、何だこの化け物はああぁぁ!?」

 監視台の上に居る兵士が土の蛇に向けて矢を射かけてくる。

 だがこの土の蛇に対して、魔石と水晶玉への攻撃以外はあってないようなものである。

 何本の矢が体に刺さろうが一切気にせず進み続け、監視台に居た兵士の身体に身体を巻き付ける。


「ひぎゃっ!?」

 さて、この監視台は拠点の四隅に建てられたもので、四辺の監視台と違って下には何も無い。

 なので上に居た兵士は移動ついでに潰すだけである。

 問題はその次。


「に、逃げろ!コイツはヤバ……ひっ!?」

 私はまず土の蛇を塀の上から降ろし、門の前の地面に潜らせる。

 そして一時的に契約範囲を拡張。

 一つ目の門の上の監視台に登った時と同じように、増やした身体で体を監視台に向けて伸ばす。

 ただし、蛇が脱皮するかのように、今度は一時的に身体の一部とした土を、門が開かないようにするために大量の盛り土として門の外に残す。

 これでもうこの門から外に逃げ出す事は出来ないだろう。


「次ぃ!っと、拙いわね」

 私は続けて土の蛇を操作し、更に二つの監視台の兵士の排除と一つの門を塞ぐ事に成功する。

 が、流石は精鋭と言うべきか、シィゾクの兵士たちは徐々に落ち着きを取り戻し、拠点に入り込んだ妖魔たちの数を減らし始めていた。

 このままでは遠からず妖魔は全滅してしまうだろう。

 それは拙い。


「行け!」

 と言うわけで、残り一つの門を土の蛇で塞ぎにかかりつつ、私は懐から複数の魔石を取り出し、使役魔法によってそれらを拠点内へと向かわせる。


「くそっ!妖魔共は始末したが、あの蛇をどうにかしねえと……」

「魔法使いは何処に行った!?あんなの魔法じゃねえとどうにも出来ねえよ!」

「今叩き……」

 最後の監視台が潰される頃、私が放った魔石と拠点内で死んだ妖魔が変化した魔石が接触する。

 そして、使役魔法によって伝わってきた感覚から、私は自身の魔法が成功することを確信し、その魔法を発動させる。


「さあ、起きなさい。そして……」

 私の魔法発動と同時に、死んだ妖魔の魔石が紅く輝き出すと、周囲の土が盛り上がり始め、死んだ妖魔と同じ姿を象り始める。

 そして、私の魔石は身体の奥深くに沈んでいき、死んだ妖魔の魔石は額で消える間際の蝋燭の炎のように、強く輝くと同時にその光を揺らめかす。


「「「ゴガアアァァ……」」」

「「「へ……?」」」

「暴れなさい。自身に残された感情に従って」

 魔法の名は再燃する(リキンドル)意思(ソウル)

 魔石となった直後の妖魔に土の身体を与え、魔石を形成している意思に沿って、土の身体を動かさせる魔法である。


「「「ガアアアアァァァァァ!!」」」

「「「う、うわあああぁぁぁ!?」」」

 そして、彼らの意思に従って動いた土の身体は、ヒトを潰す音と共にその身を赤く染め始めた。

倒したと思ったら復活した。

これはもうただの悪夢だね。


07/13誤字訂正

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